宮本笑里に聞く、クラシック×J-POPの境界線を進み続ける理由 ナオト・インティライミ&春畑道哉から得た“学び”

宮本笑里、クラシック×ポップスの関係性

クラシック×ポップソングの両立を追求していきたい

宮本笑里 リサイタルツアー2019 (2019年11月21日、紀尾井ホール)©上飯坂一

ーー宮本さんは2007年のデビュー当初から、クラシック、J-POPを両軸にした活動を行っています。当時から「ジャンルの枠を決めない」というビジョンがあったのでしょうか?

宮本:ありましたね。「両方やるのは大変じゃない?」という意見もありましたが、クラシックもポピュラーミュージックも好きだし、どちらにもしっかり向き合って表現していきたいなと。そう思ったのは、父親(オーボエ奏者の宮本文昭氏)の影響が大きいと思います。父はクラシック、ジャズ、ポップスなど、いろいろな楽曲を演奏していたし、「風笛(かざぶえ)」(NHK連続テレビ小説『あすか』テーマ曲)もとても印象に残っていて。すべてにおいて自分の音を表現していることに、子どもながらに憧れていたんですよね。私がヴァイオリンを始めたのは7歳のときですが、その頃から「いろんな曲を演奏してみたい」と思っていましたね。

ーー実際、クラシックとポップスを両立させることの難しさを感じたことはありますか?

宮本:そうですね……。たとえば歌手の方と共演させていただくとき、自分がどこまで(ヴァイオリンで)歌い上げていいか迷うことはありました。曲によってもパートによっても、「ここは囁くように弾いたほうがいい」「ここは裏方に徹するべき」「ここではもっと出ていい」というバランスがあるので。いまも迷いはありますが、正解がないから楽しい部分もあって。共演していただいた方や、聴いてくれた方に喜んでもらえると、「これでよかったんだな」と自信になるし、それが次の演奏につながることもあって。まあ、いまだに「自信ないな」と思ってしまう瞬間もありますし(笑)、一生、勉強ですよね。

ーージャンルを超えた活動を続けること自体が、宮本さんの個性になっている印象もあります。

宮本:ありがとうございます。確かにこれまで出会ったアーティストの方々から受けた影響は、すごく大きいですね。コラボレーションさせていただくたびに、相手の方の音楽の作り方、向かい方をすぐ近くで実感することができ、学べることもたくさんあって。クラシックのホールでの演奏することも続けていますし、クラシック楽曲とポップソングで活動しているヴァイオリニストは、そんなに多くないと思っていて。このスタイルをさらに追求して、もっと強く確立できたらいいなと思っています。

ヴァイオリンという楽器をもっと身近に感じてほしい

宮本笑里 リサイタルツアー2019 (2019年11月21日、紀尾井ホール)ピアノ:佐藤卓史 ©上飯坂一

ーーデビューから13年が経ちましたが、音楽家としてのターニングポイントを挙げるとすると?

宮本:5周年を迎えた頃だと思います。デビューしてから、目の前のことに全力で向かって、無我夢中で音楽を続けてきて。でも、どこか殻を破りきれていない感覚があったんです。楽譜通りにきちんと弾くことは基本だけど、それを超えるようなものがないと、聴いている人には届かないだろうなと。ちょうどその時期に、海外でロマ音楽のヴァイオリニストの方と出会って。ロマ音楽特有の音の出し方、身体の使い方、即興的な弾き方などを教えていただき、それをきっかけにして殻を破れた感覚を得られたんです。そのときの「突き抜けられた」という感覚はいまも残っているし、コンサートに対する怖さもなくなって。今も緊張はしますが、それをワクワクに変えて、楽しめるようになってきたんですよね。

ーー技術や楽理も必要ですが、内から出てくる感情を演奏に結びつけることが大事だというか。

宮本:そうですね。いろいろな方のコンサートを観させてもらっても、アーティスト自身の熱や魂が伝わったときに心を動かされますし、年齢を重ねるにつれて、「気持ちが大事なんだな」と思うようになって。確かに技術も大事だし、音楽家としてのベースがないとダメですが、それを超えるような思いがないと、聴いてくださる方とはつながれないので。ヴァイオリンという楽器をもっと身近に感じてほしいというのも、ずっとありますね。どうしても「敷居が高い」「コンサートに行きづらい」というイメージがあって、それはいまだに難しい課題なので。最初にも言いましたが、今回の『Life』は聴きやすい曲ばかりだと思うので、ぜひ楽しんでもらって、「こういうヴァイオリンの音楽もあるんだな」と感じていただきたいですね。

『Life』

■リリース情報
『Life』
2020年4月8日(水)発売 Blu-spec CD2
初回生産限定盤(スリーブ・ケース、DVD付き)¥2,500(+税)
通常盤 ¥2,000(+税)

<収録曲>
DISC1 CD
1:Delight feat.ナオト・インティライミ
Produce:ナオト・インティライミ 作曲:宮本笑里、ナオト・インティライミ 編曲:大久保薫、ナオト・インティライミ
2:Continue Acoustic Version with 春畑道哉
作曲・編曲・Produce:春畑道哉
3:Bitter Love
Produce:ナオト・インティライミ 作曲:宮本笑里、ナオト・インティライミ 編曲:ミトカツユキ、ナオト・インティライミ
4:Marina Grande Acoustic Version
作曲:宮本笑里 編曲:吉田翔平
5:Landscape
作曲:宮本笑里 編曲:久保田真悟(Jazzin’ park)

DISC2 DVD【初回限定盤のみ】
1:クライスラー:愛のよろこび
2:クライスラー:美しきロスマリン
3:大川茂伸:break
2019年1月19日宮本笑里リサイタルツアー「classique」@浜離宮朝日ホールにて収録

宮本笑里オフィシャルサイト

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