麻倉もも、DIALOGUE+、諸星すみれ……春らしい華やかなアニメ/声優ソングをピックアップ

釘宮理恵『せめて空を』

 そのように若手の声優によるアーティスト活動が目立つ昨今ですが、もちろん中堅どころ~ベテランに類する声優の音楽作品にも、たくさんの人の耳にしてほしい上質な楽曲がたくさんあります。今回はその中から、『銀魂』の神楽役や『アイドルマスター』シリーズの水瀬伊織役などで有名な釘宮理恵の、実に7年半ぶりとなるソロ名義での新作『せめて空を』を紹介します。釘宮と言えば独特の甘さを含んだワンアンドオンリーな声質の持ち主で、その中毒性の高さから「釘宮病」というネットスラングが生まれるほどの魅力を持っていることで知られています。その声のチャームはもちろん歌活動においても変わらず発揮されており、前作のミニアルバム『kokohadoko』(2013年)ではeufoniusや福富雅之(Nostalgic Orchestra)らの楽曲提供により、どこか童話的なファンタジー感に満ちた歌世界を広げていました。

 そして今回のミニアルバム『せめて空を』には、前作に続いての参加となるriya(eufonius)や、CooRieのrino、元CooRieの長田直之といった面々が楽曲を提供。森ガール的なナチュラル感も感じられた前作に比べて、より打ち込みの要素を強めつつ、引き続きガーリーで透明感のある、耳に心地よい音を展開しています。なかでも白眉と言えるのが、TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDの松井洋平が作詞、石川智久が作編曲した「premier」。80年代のYMO周りの人脈によるポップス仕事にも通じる、ニューウェイヴ以降のヨーロピアンポップス~テクノポップといった風情のサウンドは非常に洗練されていて、釘宮の不思議なピュアネスを宿した歌唱との相性も抜群。上品にして上質、時代の波や流行り廃りに左右されることなく、タイムレスに愛聴できる作品と言えるでしょう。

釘宮理恵 「premier」Short Ver.(mini Album『せめて空を』収録)Music Video
釘宮理恵「月明かりのカノン」Short Ver.(mini Album『せめて空を』収録) Music Video
『THE IDOLM@STER CINDERELLA MASTER 055-057 早坂美玲・藤原肇・夢見りあむ』

 最後に「女性声優による作品」というテーマからは少しズレますが、音楽的に刺激に富んだ内容なので、『アイドルマスターシンデレラガールズ』のキャラクターソングより、『THE IDOLM@STER CINDERELLA MASTER 055-057 早坂美玲・藤原肇・夢見りあむ』を紹介させてください。同作に登場するアイドルのソロ楽曲シングルを3人分まとめて収録した本作。石濱翔(MONACA)によるエレクトロニコア未満のクール&キュートなシンセロックがキャラのイメージにハマった早坂美玲(CV:朝井彩加)のソロ曲「Claw My Heart」、椎名豪が作編曲したクワイア入りの壮大なバラードを藤原肇(CV:鈴木みのり)が堂々と歌い上げる「あらかねの器」も素晴らしい楽曲なのですが、特にすごいのが夢見りあむ(CV:星希成奏)のソロ曲「OTAHEN アンセム」。“ザコメンタルのアイドルオタク”というキャラ立ち抜群の彼女らしく、楽曲の中にコール要素を大量に盛り込んだ電波ソングになっているのですが、ピーキー極まりないシンセのフレーズがP-MODELの代表曲「美術館で会った人だろ」などを彷彿させるということで、ラジオ番組で同曲が解禁された直後にP-MODELの名前がツイッターのトレンドワード入りする事態に。この何が飛び出すかわからない面白さこそが、アニメ音楽やキャラソンの魅力だなと改めて感じた次第です。

【アイドルマスター】「Claw My Heart」(歌:早坂美玲)
【アイドルマスター】「あらかねの器」(歌:藤原肇)
【アイドルマスター】「OTAHEN アンセム」(歌:夢見りあむ)
RealSound_ReleaseCuration@Hajime Kitano

■北野 創
音楽ライター。『bounce』編集部を経て、現在はフリーで活動しています。『bounce』『リスアニ!』『音楽ナタリー』などに寄稿。

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