TBSはなぜ今、新たな音楽番組に挑戦するのか? “生中継”にこだわる『CDTVライブ!ライブ!』総合演出インタビュー
音楽の魅力を広く伝えるメディアとして、大きな機能を果たすテレビの音楽番組。CD全盛期に比べて番組数が減少する中、それぞれ趣向を凝らした番組づくりが行われている。そんななかでも、注目すべき番組に焦点をあてていく連載「テレビが伝える音楽」。第10回では、3月30日からTBSで新たにスタートする音楽番組『CDTVライブ!ライブ!』総合演出の竹永典弘氏にインタビューを行った。元々はバラエティを中心に手がけていたという竹永氏だが、タイトル通り“ライブ”にこだわった音楽番組をこのタイミングでスタートしようと考えた理由や、番組を通じて伝えたいことなどを熱く語ってくれた。(編集部)
音楽番組を今、テレビでやる意義
ーー竹永さん自身がこれまで関わってきた番組を教えてください。
竹永典弘(以下、竹永):『金スマ(中居正広の金曜日のスマイルたちへ)』の総合演出を長くやっています。音楽番組畑ではなくて、バラエティ番組を中心に30代後半〜40代くらいまでやっていました。4、5年前に、TBSで年に1回放送している『音楽の日』の総合演出をやってほしいと突然言われて。「音楽番組やったことないんだけどな」と思いながら(笑)、でもすごく楽しくて。今まで他の番組で培ってきたのは、“どう振るか”ということだと思うんですよね。新曲をポンと出したところで分からないから、「どうやったらこの歌に最高に感情移入して聞いてもらえるか」という振りをちゃんと作っていこう、というのが『音楽の日』で僕が初めにやったことです。あとは、テーマをちゃんと持ちましょう、と。例えば“絆”や“未来への一歩”、“繋ぐ”など、ワンテーマでやりきるということを『音楽の日』ではやってきましたね。あとは『レコ大(輝く!日本レコード大賞)』の総合演出をやったり。でも、レギュラーの音楽番組は初めてで、自分が担当するとは全く思っていませんでした。
ーーレギュラーの音楽番組が全盛期と比べて減っている中、このタイミングで生中継の音楽番組を始めようと思ったきっかけは何だったのでしょう?
竹永:音楽特番を担当していて、自分が楽しいというのも大きな理由としてあります。今は、スマホを通してすぐ音楽が手に入る時代なので、テレビでやる意義はないんじゃないか、スマホで見れば良い、という意見も当然あると思うんですけど、生中継でまさに今行われている、同じ時間軸でやっているものを流すというのを、この規模でできるのはテレビしかないな、と。それは生でやる大きな意義だと思うんですよね。
あとは、テレビの音楽番組を見ていると熱がないというか。ライブに行くとみなさん楽しそうに歌っていて、ものすごい熱量がある。音楽番組で歌っている時も、もちろんそのライブと同じような熱量で歌っていると思うんですけど、それがどうも伝わらないな、と。だから、それをテレビで伝えるにはどうしたらいいのかを考えました。今までの音楽番組は、テレビ局がキャスティングして、曲を決めて、打ち合わせをして、リハーサルをして、本番、というちょっと段取り的なところもあったりして。だから、この番組では出演する方々にもライブだと思ってきてもらいたいな、と。ご自身のライブってやっぱり気合も入るし、テレビで歌っている時よりいい表情だなと思うことも多いんですよね。「やっぱりあの番組に出てる時のアーティスト、いい顔して歌っているね」と言われるような番組を作りたいなと思っています。
久米宏さんの『久米宏です。ニュースステーションはザ・ベストテンだった』という本があります。もちろん『ザ・ベストテン』も中継がありましたけど、寒さ暑さも含めて、色々な時世のニュースをオープニングトークでしていた、とその本の中でおっしゃっていて、その言葉がすごく印象に残っています。生ってニュースだよな、と。中継だと、そこで起こっていることや天候も含めて、その絵の中で見えるから、それも含めてニュースなんだと思います。それってスマホで見ている映像や、耳で聞いているだけの音楽とは違うんですよね。生ならではの熱や情報、ニュース性をテレビの向こう側で感じてもらえると嬉しいです。
ーーアーティスト側から、ゴールデンプライム帯で音楽番組をやってほしいという声はあったんでしょうか。
竹永:そうですね、みんなが思っていたところじゃないですかね。TBSで言うと『うたばん』(1996年10月〜2010年3月)があって、『ザ・ミュージックアワー』(2010年4月〜9月)、『火曜曲!』(2012年4月〜2013年9月)になって。その後ずっとやっていませんでした。音楽番組の黄金時代はやっぱり、『HEY!HEY!HEY!』(1994年10月〜2012年12月/フジテレビ系)と『うたばん』があって、その前で言うと『ザ・ベストテン』(1978年1月〜1989年9月)、『トップテン』シリーズ(1969年〜1990年/日本テレビ系)じゃないですか。『Mステ(ミュージックステーション)』(テレビ朝日系)はずっと続いてますけど、それ以外の音楽番組ってあんまりなくて。特番だと、アーカイブを使ったり、メドレーをやったり、という派手さなど、数字の面でも様々な演出を取り入れることができるため視聴率が良い。レギュラーの音楽番組は、まだ世の中に出ていない新曲をどんどん見せるので、視聴率という意味では非常にシビアな戦いになると思うんです。ずっとブレずにやっていくことが長く愛してもらえる秘訣になるかもしれません。
ーーライブパフォーマンスに加え、打ち合わせやリハーサルといった裏側もオンエアするということですが。
竹永:歌う前に打ち合わせの様子を放送して、そこでアーティストの思いや、普段ステージ上では見えない素顔を見せて、こういうキャラクターの人なんだ、というのも含めて見てもらって。そこからパフォーマンスに行くと、その曲のこともより理解して聴けるからいいんじゃないかな、というのが裏側を見せる意味だと思いますね。ライブの打ち合わせって、どういうライブにするか、5分、10分の持ち時間の中でその人の歌を一番伝えるためにはどうすればいいか、アーティストが自分でアイデアを出すじゃないですか。この番組では、一緒に作りましょうというのが大きなコンセプトで。アーティストがどんな風に考えていて、どういう思いで作った曲なのかは僕らも知りたい。それを伝えてもらった上で、こういう演出がしたいという希望にできる限り我々も応えて、最高のステージを作りましょう、という思いです。
ーーアーティストからの演出への要望などはどこまで聞き入れていくんでしょう。
竹永:ケースバイケースですが、基本的には一緒に作りましょう、とにかくこのライブを盛り上げるにはどうしようか、と相談しています。だからみなさん、アイデアをあげてくれますよ。ヒゲダン(Official髭男dism)さんは、ライブならではの編成で、ツアーに先駆けてこの番組で披露してくださいます。ライブバージョンで「宿命」と「I LOVE...」をやってくれるんですが、曲順もすごく一生懸命考えてくれました。あと、『CDTVスペシャル!卒業ソング音楽祭2020』(3月16日放送)では、乃木坂46の白石(麻衣)さんから、今まで撮りためた写真がどこにも出ていないから、メンバーとの写真を出したい、とリクエストがあって、その希望を叶えました。コブクロさんは「卒業」という新曲でしたが、無観客だったから、テレビの前でまさにライブを見ているように見て欲しい、ということで相談して、ワンカットでオンエアしました。だから会場の客席からコブクロさんを見ている目線でカメラを固定して、フルサイズ丸ごとやったんですけど、視聴者もスタッフからも反応がよかったですね。