「次世代レーベルマップ」Vol.1 後編

<small indies table>鈴木健太郎が語る、サブスク解禁の背景とレーベルのこれから

 バンドシーンを引っ張り、ライブハウスの“今”を担う気鋭のレーベルを取材する連載「次世代レーベルマップ」。第1回は、yonige、FOMARE、KOTORI、街人が所属する<small indies table>。渡辺旭氏(THE NINTH APOLLOほか)とともに同レーベルを主宰する鈴木健太郎氏を迎えた。レーベル立ち上げの経緯などを聞いた前編に続き、後編では自身の音楽遍歴やライブ体験、所属アーティストのサブスク解禁に至った理由などを語ってもらった(※取材は2月某日、『small indies table tour 2020』開催延期発表前)。(編集部)

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目指すのはカルチャーの融合

ーーパーソナルな音楽観も伺いたいんですが、鈴木さんご自身のルーツはどういうところにあるんでしょうか。

鈴木:自分はポップス世代というか、例えばB’zやWANDS、ZARDとか、その辺りをとにかく聴きまくっていたので、J-POPオタクみたいな感じでした(笑)。その後はやっぱりHi-STANDARDとかGreen Dayみたいなメロコアと呼ばれるジャンルにどっぷりハマった青春時代だったし、ラウドでヘヴィなものとか、ミクスチャーもすごく大好きでしたね。あと、実はオリコンチャートをよく見ていて、ヒットソングが大好きでした。

ーーそうなんですね。今もそういったところにアンテナを張っていらっしゃるんでしょうか。

鈴木:すごく気にしてます。売れるのにはやっぱり理由があるわけだから、その理由をちゃんと探して担当バンドに投影しつつマーケティングしている部分もあるので、今の仕事をしてからは特に選り好みせずに、良いものは聴く感じですね。MVに関しては洋楽ばっかりディグったりしていて、やっぱり撮り方が日本と全然違うし、アメリカのMVの長けているところをちょっとだけ取り入れてみたりとかしています。ロケーションは物理的に無理ですけど、手法とかCGの使い方とかはよく見ていて。昨今は映像を使ったプロモーションも増えてきているじゃないですか。どれだけ目を引くかっていう、アイデア勝負の映像が引っ掛かってくるので、日々新しいエッセンスを取り入れるようにYouTubeを活用して見ていますね。Tempalayの新曲(「大東京万博」)、あれもすごくいいじゃないですか。

Tempalay "大東京万博" (Official Music Video)

ーーいいですよね。エキゾチックなエッセンスも入っていて。ご自身を突き動かした音楽的な原体験として、衝撃的だったライブ体験や、理想だと思っているレーベルは何かありますか。

鈴木:まず、自分が憧れているレーベルって特にないんですよ。憧れちゃうと、自分のレーベルがそれに勝てない気がするし、そうしないと良いレーベルになれないと思うので。自分が『REDLINE』というイベントを10年間ずっと続けているんですけど、その基盤として大きかったのがアメリカの『Warped Tour』と日本の『AIR JAM』ですね。当時は観客としてずっと行っていましたし、そのルーツをちゃんと取り込みつつオリジナリティを出そうと思ったのが『REDLINE』というイベントです。

ーー『AIR JAM』や『Warped Tour』のどういった部分が鈴木さんにとって刺激的だったんでしょうか。

鈴木:カルチャーでしょうね。『AIR JAM』は本当にジャンルレスというか。もちろんメロディックパンクのバンドが中心ですけど、ゴリゴリのハードコアからヒップホップ、ミクスチャーロックのバンドまで揃っていて、ひとつのカルチャーを作り上げているフェスだったと思いますし、ファッションやスケート、BMXなど、ストリートカルチャーまで巻き込んでいたのがすごく衝撃的でした。僕は服にもすごく興味があったんですけど、「こういう格好を真似してみよう」って若い子たちが飛びついていて、音楽とファッションがリンクしているイメージがすごくありましたね。今はそういうものがないのかなって思ったりしますし、どうしてもそこに近づけたかったのが『REDLINE』だったんです。

ーーおっしゃる通りだと思いますし、昨今そうやって音楽とカルチャーを結びつけようとしているのは、ロックバンドよりもヒップホップの現場だったりしますよね。

鈴木:僕も何度かヒップホップとロックシーンの融合を試したりしていて。例えばCrystal LakeとKOHHの2マンをTSUTAYA O-EASTでやったんですけど(2018年6月)、やっぱり売り切れなかったんですよね。実際、そのリスナー同士は交わりにくい。でも、やらなきゃ面白いカルチャーは作っていけないですし、興行的に厳しいからってやらなくなっていって淘汰されていくのも嫌なので。例えばCrossfaithとかも海外のバンドや日本のヒップホップアーティストと深夜のイベントを組んでいたり、それぞれの場所ではみんな攻めてカルチャーを作ろうとしているので、それがひとつの動きにまとまればもっと良いのかなとは思います。coldrainの『BLARE FEST.』でも海外から6バンド呼んでいたりとか。それは彼らのルーツになった海外の音楽を日本のキッズに見せたいから呼んでいると思うので、そういう想いを持ってやっているアーティストはすごくカッコいいと思うし、刺激的ですね。

ーーそれこそCrossfaithやcoldrainみたいに、いわゆるラウド系と言われる人たちが率先して海外アーティストを招致して、自分たちの音楽やイベントで盛り上げている印象がありますが、やっぱり国内フェスではドメスティックなタイプのバンドこそ集客力を持っているので、そういう溝はまだまだ深いのかなと思います。必死に海外アーティストや他ジャンルとの交わりを作り出そうとしているアーティストの活動が、日本のフェスキッズから見ると遠い場所での活動に見えてしまっているというか。

鈴木:そういうアーティストを偶然フェスで見た時はカッコいいと思っても、帰るタイミングでは忘れちゃっている人も実際いると思います。逆に、1万人いれば1人はハマっているはず。その1人をどれだけ増やしていけるかっていう作業をみんな試行錯誤して頑張ってると思うので、それは絶やさないで欲しいですね。<small indies table>で言うと、KOTORIはメンバー発信で海外からバンドを呼びたいっていう要望を強く持ってるんです。『TORI ROCK FESTIVAL』という主催イベントを毎年やっているんですけど、そういうフェスや自身のツアーに海外アーティストを呼ぶのは近い将来ありそうな気がします。日本の若いギターロック系のバンドが、海外からバンドを呼ぶというのもなかなかない気がするので。

ーー異ジャンルの融合という点では、JMSの取り扱っているアーティストの幅にもそのまま言えることだと思いました。

鈴木:JMSに関しては、パンク、ラウドのイメージがあると思うんですけど、僕個人的にはギターロックもヒップホップもテクノもすごく好きなので、良いものをちゃんと伝えていきたいという想いですね。基本的にはファミリーとして見せていきたいし、ジャンルは何であれ関係ないと思ってます。ジャンルに特化しているカッコいいバンドもいるので、JMSのインディーズという良さを活かして、フレキシブルにアグレッシブにやっていけたらいいなと思います。

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