デヴィッド・ボウイ「ヒーローズ」はなぜ普遍的な名曲であり続ける? 映画『ジョジョ・ラビット』から紐解く“英雄”の意味

 ボウイにはポップ・アートの巨匠の名前をタイトルにした「アンディ・ウォーホール」という曲もあった。1960年代にウォーホールは、テレビなどマスメディアの発達を背景に「誰でも15分間有名になれる」と発言した。それと同種の風刺が、銃弾が飛び交う死に近い場所で「私たちは1日だけ英雄になれる」と歌った「ヒーローズ」にも感じられる。

デヴィッド・ボウイ「Andy Warhol」

 とはいえ、全体としてはこんなひどい国に生まれちまったという詞なのにサビの「アメリカに生まれたんだ」が勇ましく聴こえるブルース・スプリングスティーン「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」、顔を泥だらけにした男が通りでわめいているのだけれどその言葉が「お前たちをロックしてやる」と力強いQueen「ウィ・ウィル・ロック・ユー」など、メインのフレーズが独り歩きしてポジティブなアンセムと化す例はしばしばある。「私たちは英雄になれる」と歌う「ヒーローズ」も、そんな曲の1つだ。

Bruce Springsteen – Born in the U.S.A.
Queen – We Will Rock You (Official Video)

 同曲の「“ ”」がはずれた印象になったのは、アフリカ難民救済を掲げた1985年のライヴエイドでボウイが歌った頃からだろう。以後の彼は、エイズ撲滅のための基金作りでもあった1992年のフレディ・マーキュリー追悼コンサート、9.11同時多発テロの救出活動をした人々と家族を支援する2001年の「コンサート・フォー・ニューヨーク・シティ」など、チャリティ公演のたびに「ヒーローズ」を歌った。チャリティに参加することで「1日だけでも英雄になろう」と観衆に前向きに呼びかけたわけである。

 一方、『ジョジョ・ラビット』以前にも「ヒーローズ」はたびたび映画に使われてきた。「イルカのように泳げる」という一節が詞にあるせいか、日本のイルカ漁を扱ったドキュメンタリー『ザ・コーヴ』(2009年)で流されたし、ダニエル・ラドクリフが殺人容疑者になる『ホーンズ 容疑者と告白の角』(2014年)にも登場した。ハリウッド版『GODZILLA』(1998年)のサウンドトラックには、The Wallflowersによるカバーバージョンが収録されている。曲のどの側面を映画とリンクさせるかで様々な響かせ方ができる。

 なかでも興味深いのは、実話をベースにして西ドイツの麻薬中毒に陥った少女を主人公にした『クリスチーネ・F』(1981年)だ。ヒロインはボウイ・ファンであり、ライブのシーンで本人が登場するほか、映画では彼の曲が多く使われている。「ヒーローズ」は、少年少女たちが盗みを働き警官たちに追いかけられるシーンで流れる。「英雄になれる 1日だけ」のフレーズが、彼らの刹那的な高揚感を表現していたのだ。

 こうした使用例を振り返ると、『ジョジョ・ラビット』の「ヒーローズ」も二重の意味を持っていたように感じられる。ジョジョは、差別意識を捨てエルサに寄り添うことで、新しい時代の「英雄」になれるだろう。だが、ヒトラーを心の友にして兵士になることを夢見ていた頃も「英雄」気分だったのである。

 人間の危うさを捉えつつ、前向きな希望を歌っている。だから「ヒーローズ」は長く聴かれる名曲になったのだ。

■円堂都司昭
文芸・音楽評論家。著書に『ディストピア・フィクション論』(作品社)、『意味も知らずにプログレを語るなかれ』(リットーミュージック)、『戦後サブカル年代記』(青土社)など。



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