aiko「青空」レビュー:新境地の失恋ソング、苦しさと明るさの“両面性”がもたらす切ない響き

 自分のした過ちによって〈あなた〉と別れることになってしまった主人公のやりきれない思いや苦しい感情を、重くなりすぎない程度の失恋ソングとしてポップにまとめた一曲。

aiko『青空』

 aikoの通算39枚目のシングル曲「青空」を端的に表すなら、こんな一文になるだろう。この曲はまず冒頭で、自分がしてしまった〈間違い〉について省みるところからはじまる。

〈触れてはいけない手を 重ねてはいけない唇を
あぁ知ってしまった あぁ知ってしまったんだ〉

 ピアノの伴奏をバックになかば独白するような冒頭のこのフレーズと、特徴的なシンセ音を奏でるイントロ以降の世界はまったく異なるもので、それを裏付けるようにこのメロは1回限りで最後までどこにも登場しない。いわば“プロローグ”のようなはじまりを見せる。“プロローグ”で状況を説明して、メインの歌では“その後の世界”を描き出していく。

 今の世の中の風潮からすれば選ぶテーマとしてはずいぶんと挑戦的。しかし考えてみれば、“甘い匂いに誘われる”aikoにはうってつけの題材なのかもしれない。そんなaikoのソングライティングは今作でも光る。特筆すべきは比喩表現だ。

〈体を 脱いでしまいたいほど苦しくて悲しい〉

 感情の度合いを“体を脱いでしまいたいほど”と喩える、心と体が渾然一体となったaikoらしい独特の言い回し。なかなか他に見ない表現だが、たしかに共感できる。

〈そっと薬指を縛る約束を外してもほどいて無くしても
まだ気をつけて服を脱ぐこの癖はなかなか抜けないな〉

 指輪という直接的な表現を避けることで聴き手の想像力を膨らませ、同時に〈あなた〉のいない今の状況にまだ慣れていない様子を歌う。他にも〈目の奥まで苦い〉といったオリジナリティ溢れる表現が冴え渡る。

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