aiko「青空」レビュー:新境地の失恋ソング、苦しさと明るさの“両面性”がもたらす切ない響き
歌詞も良ければ、音も良い。
メインはバンドサウンドだが、イントロなど印象に残りやすい場面で特徴的なシンセ音が登場する。イントロだけ聴けばエレクトロポップと形容しても良いくらいで、ちょっとしたダンスチューンとしても聴けるリズムの跳ねがある。
失恋の歌は、ともすれば重くなりがちである。もしこの曲を大仰なピアノバラードにアレンジしたとしたら、主人公の悲痛さがより全面に押し出された“重い歌”になっていたことだろう。だが、この曲にあるファンキーなリズムや印象的なシンセの音色は、曲全体にある種の“軽さ”をもたらしていて、ひとことで言えば、ポップで聴きやすい。それが〈あなた〉との関係が“あっけなく”終わってしまった喪失感とも繋がっていて、逆に切なく響きもする。
aikoの新境地とも言えそうなこうした特有のサウンドに仕上がった背景には、アレンジャーの存在が大きい。
aiko楽曲の編曲と言えば、デビューから長年ほぼ全曲で担当していた島田昌典に代わり、2014年頃を境にOSTER projectと川嶋可能の2人が務めていた。だが今回編曲を務めたのは、昨年春にFM802×TSUTAYA ACCESSキャンペーンソングとしてaikoが楽曲提供した「メロンソーダ」以来のタッグとなる、トオミヨウ。
トオミヨウは、近年多くのアーティストの楽曲のアレンジやプロデュースをしている気鋭のミュージシャンで、最近は土岐麻子のサポートとしてツアーに帯同するなど活動の場を広げている。その土岐の言葉を借りるなら、彼の音楽性は「都会の冷たさと温かさが同居している」のだという(土岐が2017年に『PINK』をリリースした際のライブのMCより)。ネットで読めるインタビューでは以下の通りだ。
「どこか乾いているんだけど、湿度があったり、孤独感があって、でも優しさを感じる」
(参照)
土岐が彼に求めたものがある種の“二面性”であるように、aikoがこの「青空」で表現した世界もまた、体を脱ぎたいほど苦しいのに、サウンドは明るくて聴きやすいという“両面性”を持ったバランスである。どこか懐かしく柔らかいアレンジは、楽観的でありながらセンチメンタル。後悔に打ちひしがられるのではなく、悲しいけれどできれば忘れてしまおう!……くらいのニュアンスの楽曲として聴くことができる。
aikoがシングルを発表するのは前作『ストロー』以来、1年9カ月ぶり。その間にもaikoは、アルバム『湿った夏の始まり』の発売や、本作にも収録されている「愛した日」のデジタル配信、ライブ映像作品『My 2 Decades』の発売など精力的にリリースを重ねてきた。ただ今回のシングルはベストアルバム『aikoの詩。』の発売後はじめてリリースだということもあり、aikoの“新たなステップ”として位置付けられるだろう。これまでのaikoの作風を軸にしつつも、新しいアレンジャーを迎えて次のステージに駒を進めた作品と呼べそうだ。
■荻原 梓
J-POPメインの音楽系フリーライター。クイックジャパン・リアルサウンド・ライブドアニュース・オトトイ・ケティックなどで記事を執筆。
Twitter(@az_ogi)