『fractal』インタビュー

7年ぶり新作発表のsleepy.ab 成山剛が語る、北海道拠点にバンドを続ける理由と“ロック”に対する意識

 地元北海道を拠点に、バックボーンがうかがえる自然の厳しさや美しさを喚起するバンドサウンドを作ってきたsleepy.ab。2018年に結成20周年を迎え、久しぶりに東京でのライブを開催し、渋谷WWW公演がソールドアウト。そしてついに前作『neuron』以来7年ぶりとなる新作『fractal』を1月29日にリリースする。

 今回は、バンドとしてのリリースがない時期に精力的にソロ活動を行い、波多野裕文(People In The Box)らバンドのボーカリストをはじめ、ROTH BART BARONら2010年代に頭角を現したインディペンデントなアーティストらとも共演しながら新たなリスナーも獲得してきたフロントマンの成山剛(Vo/Gt)にインタビュー。ソロの必要性や現在の制作手法について聞く中で浮かび上がったのは、sleepy.abというバンドのオリジナリティと北海道で音楽と向き合うことがいずれも分かち難い関係にあるということだった。(石角友香)

「ノイジーさや大胆なアプローチを自分たちも求めてた」

――現在の制作環境や作業はどんな感じなんですか?

成山剛(以下、成山):今回は3人で揃ってレコーディングはしないで進み、最後の最後に、札幌にある芸術の森スタジオというスタジオで3日間、泊まり込みでリズム録りをしたぐらいなんです。それ以外は全部、個別に<Chameleon Label>にデータを送ったり、カメレオンスタジオに一人ずつ何度か行ってレコーディングをして。歌もギターも基本的に全部一人で進めてました。山内(憲介/Gt)は函館に住んでいて、札幌からだと5時間ぐらいかかるし、田中(秀幸/Ba)が住んでる岩見沢でも2時間ぐらいかな。全員拠点がバラバラなので。そうやって個別に録ったものをプロデューサーの(田中)一志さんにまとめてもらっていった感じでしたね。

――その制作方法はいつ頃から?

成山:メジャーレーベルを抜けた後、少し経ってから事務所も抜けたんです。山内はその頃札幌に住んでいたんですけど、もともと目に障害があって、それが悪化していたりというのもあったんですが、それより前から言っていた鍼灸の学校に行きたいという話を改めて聞いて。「じゃあいいタイミングだね」と。それが函館の学校だったんですよね。山内は地元も函館だったので、「なら、いいんじゃない?」って。バンドはセルフプロデュースだったし山内に対する精神的な負担がその頃は強かったし、結構限界も感じていたので「行ったらいいと思うよ」っていう感じでバンドも存続させました。

――バンドの中で誰かが健康を害したら脱退かバンド自体が活動休止になることが多い中、そうはならないというか、しなかった。

成山:うん。一番最初のアルバム(『face the music』)を出したのが2002年ぐらいですかね。その時、初めて東京にライブとキャンペーンで来たんです。12月11日が発売日だったはずなんですけど、あの時(僕自身が)病気になっちゃって。初めて東京に10日間ほど滞在したんですが2日目ぐらいに足が痺れてきて、どんどん痺れがこの辺(顔半分)ぐらいまできたんですよ。札幌に帰って病院に行ったら、多発性硬化症という脳神経の病気でした。それで、そのまま即入院……。デビューはそういう始まりだったんですね(笑)。そこから活動が3カ月ストップして、レコ発とかもなしになってしまった。そんな始まりだったので山内と話した時も割とすぐに一旦休もうという決断に至りました。

――東京で活動を続けることが難しいということを、一番最初に証明してしまったんですね。

成山:(笑)。そう、だから東京にはやっぱ住めないんだなと思いましたね。

――今はそれぞれの生活優先で?

成山:うーん、そういう気持ちもありますかね。やっぱり続けるっていうことが大事なので。無理をする時もありますけど、続けられなくなるのが一番良くないとは思ってますね。

――今回のsleepy.abの新作『fractal』までの間だけでなく、成山さんはソロで精力的に活動して、東京でもライブを行っていますね。

成山:ソロのアーティストとしてというよりは、sleepy.abが今少しライブが少ないので、代わりに自分がライブしにきている感じというか。で、俺もソロアーティストという感じよりは、本当はsleepy.abのみんなを連れてきたいんだけど……みたいな流れでやってるところがあるので、それを繋げているっていうイメージですね。

――ソロで活動しているとそこで出会うアーティストも多いじゃないですか。知る限り、ROTH BART BARONとかPeople In The Boxの波多野裕文さん、奇妙礼太郎さんとか。そういう人たちからの刺激や影響はありましたか?

成山:ROTH BART BARONなり波多野くんなりは、バンドと並行しながら率先して弾き語りみたいなライブもやっているから、いわゆるシンガーソングライターとしてのイメージではないですね。その中でもスタンス的にはLOST IN TIMEの海北大輔(Vo/Gt)くんとかは結構前から各地に行って、やっぱりバンドで行けないところに行って、バンドを広めるっていう活動をしてる形があるので、それは自分もどこかでお手本にしたところはありましたね。

――ところでバンドの曲自体は常に作ってるんですか?

成山:曲自体は結構ありましたね。古くからのストックもあるから、20~30曲ぐらいはあって。3人とも作るんで3人のデモが30曲ぐらいあって、で、一志さんも含めてみんなで今回いれる曲を選んでいった感じですね。

――山内さんのギターで出せる音のバリエーションがすごいことになっていましたね。

成山:(笑)。もうギターなのかなんなのかわかんないですよね。加えて一志さんが出すシンセやプログラミングの音も山内のギターの音に近いものがあるのでギミックな感じはありますよね。

――今回の選曲の基準は何でしたか。

成山:結構、どの曲をどうやってもsleepy.abになっちゃうので、バラエティ感的なものは自ずと見えてますけどね。キャッチーなものと、テンポが速い曲は基本ないので、少しでも速かったら「これはアルバムに入れたいね」ってなりやすいですね。

――テンポの速い曲を最初から作ろうとするんじゃなくて、デモに存在していたら演奏してみよう、と?

成山:そうですね。俺はテンポの速い曲を作ったことがないからなぁ。なんだろう? 元々の生活というか、基本が体の中にあるのかなぁ。

――具体的に曲についてお聞きするんですが、サウンドスケープとして「cactus」はギターもノイジーだし、これまでとは変化した印象もありました。

成山:ここ3枚ぐらいは、透明感や歌の良さみたいなものを引き出してもらって演奏しているイメージがありました。だけど今回は一志さんがいるから、初期に戻ったというか。割とアレンジとかもアバンギャルドで、結構ノイジーさや大胆なアプローチを自分たちも求めてたので、面白い作品になったなと自分たちでも思います。

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