ライブのチケット価格に“正解”はあるのか? 新津由衣の新たな挑戦とともに考える

ライブのチケット価格に“正解”はあるのか? 新津由衣の新たな挑戦とともに考える

 新津由衣が2019年11月16日に行ったライブ『Ethereal Pop Vol.3 -わたしの呼吸- 』。同公演は従来のチケット販売方法ではなく、自由席にもかかわらず価格を「A ¥15,000 (税別)」「B ¥12,000 (税別) 」「C ¥9,000 (税別) 」「D ¥6,000 (税別)」の4種類に分け、観客自らがチケットの価格を決める、という画期的なものだった(参考:「Ethereal Pop Vol.3 -わたしの呼吸- 」詳細について)。

 今回は、同ライブを終え、4月26日に『Ethereal Pop vol.4-地球に生きるみなさまへ-』を控える新津にインタビューを行い、この施策を行った背景やライブの反響などについて、じっくりと話を聞いた。(編集部)

「『目に見えない価値に対して支払う価格を自分で決めよう』という目的」

ーー今回のライブは、座席の価格が「A ¥15,000 (税別)」「B ¥12,000 (税別) 」「C ¥9,000 (税別) 」「D ¥6,000 (税別)」の4種類でした、差別化されているのは整理番号順に呼ばれるというだけで、基本的な扱いは並列、というかなり特殊な形態となりました。なぜ、このような形態でチケットを販売しようと思ったのでしょうか。

新津由衣(以下、新津):“新津由衣”名義になってから、これまで2度ワンマンライブを行なってきたんですが、どんどん「新津由衣の音楽を届けるにあたって、ライブハウスでスタンディングにするのではなく、世界観ごと楽しんでもらえるように座席のあるホールや変わった環境でパフォーマンスするのが合っているな」という思いが強まっていて。毎回作品性のあるライブを作っていきたいと試行錯誤しています。その中で、これからの”ライブの在り方”や”チケット価格”についても改めて考えていたんです。従来のルーティーンだけでなく新しい発想が生まれてもいい時代だろうと。

ーー業界の慣習的に決めていた、チケット価格のあり方に疑問を持つようになったと。

新津:そこに自由度があっていいよなあ、と。今の社会は「主体性を持って自分で何かをチョイスして生きていかなきゃいけない」というフェーズに入っていると思うので、お客様自らライブのチケット価格を決める、というアイディアが面白いと思ったんです。ある種、作品を提示するのと同じ感覚ですね。

ーー4種類の価格は、どのようにして決定したんですか。

新津:皆さんに発表する前に、「オフィシャルLINE@」のなかで複数の選択肢を入れて、チケット価格について「あなたが新津由衣ライブに価値をつけるとしたら?」とアンケートを取ってみたんです。そうしたら、それぞれの価値基準があるなかで、15,000円に対して妥当・高い・安い、6,000円に対して妥当・高い・安いと、それぞれ見出す価値感があって、そのどれをも正解にしたいと思ったんです。個々それぞれが自由意思で「どんな価値を払ってその時間を買いたいか」、というのを考える行為がやっぱり尊いなと感じて、この4種から選んでもらうことにしました。

ーー普段自分が生活しているなかの6,000円ってどんな価値なんだろう、と照らし合わせて考えてみたり、同じ価値基準ーーたとえばテーマパークに1回行くことと比べてみたり。

新津:そうですね。無理をしたり、高い値段を出さないと前で見れない、という決め方ではなくて、「目に見えない価値に対して支払う価格を自分で決めよう」というのが本来の目的です。

ーースタッフ側から反対意見や別案がでることはありましたか?

新津:意外とストレートに決まりました。スタッフも、既存のレールから脱して改めて考えようというチャレンジ精神があるのでありがたいです。採算をとるために値段をただ上げよう、という単純な解決策には誰も賛同しないですね。そもそも、音源がいつの間に一曲250円になり、月額制聴き放題になり、とシステムに流されて決まっていった歴史を振り返って、本来「音楽の価格」は、「ファンやアーティストに選ぶ権利があるのでは」と考えた上での提案でした。

――実際ライブが終わってみて、その辺りの思いはどう伝わっていると感じましたか?

新津:SNSも全部見ましたし、ライブ後のアンケートも読んで、皆さんのダイレクトの声を聞いて色々感じました。「考えるきっかけになってほしい」という私の一番届けたかったテーマには、大きくたどり着けたと思いました。すごく悩みましたという方もいて、主体性を持って決めることの難しさを改めて感じたし、目に見えないものに値段をつけることって曖昧だからこそやはり自由に、慎重に、決めるべきだと思ったし、私のライブに対するみなさんの価値観も実感できたので自信になりました。

――そういうふうに反応していただけると、「やっぱりやってよかったな」となりますよね。

新津:こちらとしては「クオリティの高い、質の高いライブをお届けするんだ」という意思でやっているので自信はあるのですが、それを受け取って下さるファンの方たちの信用をどれだけ得られているかはこういう時に実感できるものなので、皆さんの反応を聞いてとても安心しました。

――ライブはこれまでのキャリアをさらいつつ、新しい曲や谷川俊太郎さんの詩に合わせた歌唱もあったりして。

新津:私の「今、ど真ん中だな」と感じるものをピックアップしていったんですが、歴代で使っていた名義の垣根を越えた上で、自分が心から出す音楽に嘘がないセレクションになりました。「心からこれがやりたい」とか「こういうのが好き」という、真ん中のものを集められたライブだったと思います。

――新曲に関しても、制作過程のものを見せるという、すごく面白い試みをしましたね。

新津:たぶん、私はミュージシャンじゃないんだと思うんです。音楽を作っているというよりも、映像を作っているような感覚で音を鳴らしているし、絵本を書くような感覚で音楽を捉えていて。アーティスト仲間と話している時に、その自分の特異性に気付くことも多かったんです。制作をこういうふうに始めていったという話を、面白がってもらえることがとても多くあるな、ということに気が付いて。今回は特にアルバムのテーマのライブ、という括りもなかったので、いつも私がカフェで話しているようなことを、そのままライブに持ち込めました。

――ライブにそのまま持ち込んでみせて、それがエンターテインメントになる、というのは本当にすごいですね。

新津:何を見せても怖くないというか、自分が装飾なしの状態でステージに出ても、それが「新津由衣の表現」になり得るんだって、とても自信になりましたね。

――それを見せられたことで、今までの曲も新たな解釈ができたり、制作途中のハナモゲラ語っぽい“ゆい語”で歌っていたのも新鮮でした。

新津:今回のライブは、自分の中にコンセプトがはっきりと見えていたから、そこに近づいていくような作業をしていました。私は脳みそ担当なので、スタッフやバンドのみなさんにイメージを伝えて理解してもらって、技術面でどう具現化できるかやりとりをしていきます。チームの仲間感が強くなってきているから、そのスピード感が早くなってきているのも嬉しいです。

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