新津由衣に聞く、音楽性と生活の充実の関連 「今はできるだけ瞬間的なものをパッケージしたい」

新津由衣に聞く、音楽性と生活の充実の関連 「今はできるだけ瞬間的なものをパッケージしたい」

 元RYTHEMのYUIや宅録ソロプロジェクト・Neat’sとして活動し、2018年に現在の名義として初のアルバム『Neat’s ワンダープラネット』をリリースした新津由衣。同作はSEKAI NO OWARI、ゆず、でんぱ組.inc、SKY-HIなどを手がけるプロデュースチーム・CHRYSANTHEMUM BRIDGEに出会って作られた、壮大な一作だった。

 しかし、そこから約1年の期間を経てリリースされた新作ミニアルバム『まるとさんかく』は、明るく作風も一転。リアルサウンドでは、彼女にその変化の正体について迫るとともに、生活と音楽性の変化は関連するのか、というテーマについても聞いてみた。(編集部)

「宇宙的な視点も、部屋でのひとりごとも私にとっては一括り」

ーー前作アルバムをリリースしてから、ワンマンライブに至るまでは、それこそ「命日にするくらいに頑張ろう」というモードだったようですが、本番を振り返ってみてどうでした?

新津由衣(以下、新津):自分のなかで1つのピリオドがついて、新しい扉が開けたというタイミングではありました。昔の曲も初めて歌ったりして、今までの15年間の歌手活動を一気に振り返ったタイミングでもありましたし、音楽にすごく苦しんできたり、音楽に助けられてきた時期が走馬灯のように蘇ってきたんです。今まで、私にとって音楽って“自分の人生の鏡”みたいな存在だったんですけど、このタイミングでそれを俯瞰して見ることができて、「この感覚も面白いな」って。本名なのにまるで自分自身じゃないアーティストが新しく生まれたというか。

ーー以前のインタビューでも伺いましたが、今まで使ってたNeat’s名義がプライベートで、本名の新津由衣名義がパブリックになるという逆転現象がさらに加速したと。

新津:そうですね(笑)。

ーーそんなご自身のキャリアを総括するようなライブを経て、新たな自分のあり方も見えてきたことで、今回のミニアルバムをはじめとする、次のフェーズに向かうアイデアが続々と出てきたんですか?

新津:ライブを終えたことで、すごく清々しく、視界が一気に拓けたような気持ちになったんです。色んなものを気楽に捉えられるようになって、クリエイティブすることに対しても、苦しんでも生むぞというストイックさから、日常を楽しく生きることというのがまず一番の目標になって。充実した気持ちで生きていくことで、こぼれ出てくる豊かなものを音楽にしたいという気持ちに変わっていきました。

ーーなるほど。まさに新作『まるとさんかく』を聴いたときに思ったのは、そういう感情でした。配信リリースのシングル「ねぇ見て、今夜は星が綺麗だ。」「きえないもの~アンドロメダから続くキセキ~」は、1stアルバム『Neat’sワンダープラネット』の曲と地続きになっている印象だったんですが、「菜の花」で少し変化した感じがあって、新録の2曲「春和景明」「茶々」は、視界がクリアになったような晴れやかさがあるなと。

新津:おお! すごく綺麗に伝わっていて感動しています。曲に出ちゃってるんですね……(笑)。

ーーそのあたりをより細かく掘り下げたいのですが、やはり配信リリース前半2曲は、地続きのつもりで作ったんですか?

新津:そうですね。1stアルバムの制作時期と重なっていたこともあって、テンションやモチベーションもそのあたりの曲と同じだから地続きに聴こえるんだと思います。

ーーでは、転換点はやはり「菜の花」だったと。

新津:はい。前作が壮大な宇宙をテーマにした「きえないもの〜アンドロメダから続くキセキ〜」だったので、その真逆の大きさのものがテーマになっていたら面白いかなと。でも、その両方ーー宇宙的な視点の曲も、部屋でのひとりごとみたいな曲も私にとっては一括りの世界なので。それを伝えるのはなかなか難しいんですけど、これぐらい極端に並べてみたら、伝わるものがあるかもしれないなと思ったんです。

ーーその極端さがすごく面白いし、並べて聴いた時に良い違和感を覚えます。どのタイミングで、そこに2曲を足してミニアルバムにしようと考えたんですか?

新津:今年の初めくらいです。1stアルバムを出してワンマンを終えて、2ndアルバムを作るという前に、「新津由衣が次のフェーズに向かって変化している」というテンションを1回形にして提示しておいたほうがいいなと考えたんです。

ーーだから、前作と同時期に作っていた2曲があり、2ndアルバムのフェーズに入った曲があることで、1stアルバムと2ndアルバムの接着剤になるような作品になっていると。前回は「あなたと私の間にある見えないもの」を音楽にしていく、というお話がありましたが、今作はそこをもっと凝縮したようなミニアルバムだとも思いました。

新津:そこは2ndアルバムまで続いていくテーマで、人生を楽しく豊かに過ごすために必要なことだと思っているんです。何気ない日々に宝物を見つけるために、心の目を磨いて透明にしていくっていう作業は、音楽活動ももちろんだけど、自分が楽しく生きていくためにすごく大事なことなんです。それを真面目に整えていくのが、今のクリエイティブのモチベーションになっているので、必然的に作られる曲もそういう透明な心でありたいっていう気持ちに向かっていると思います。

ーーその「整える」という表現を聞いて思ったんですが、最近お茶の教室に通い始めたらしいじゃないですか。まさにお茶って禅の精神にも通ずるもので、心を整える作業のひとつですよね。

新津:まさに! 禅やお茶の世界には、たまたま『日日是好日』という作品を通じて出会ったんです。これは自分がずっと大事に持ってきたものに似ている匂いがするなと思ったんですよ。20代の時に悩んでいたことや、欲しかったものの答えがそこに見出せそうな気がして。言葉にするとすごくシンプルなんですけど、あるがままの今、あるがままの自分をそのまま受け止めるっていうことなんですよね。もっとこうなりたいっていう欲に縛られて苦しくなっちゃったりするけど、バツもマルもサンカクも全部ひっくるめて、今の自分を生きようよと教えてくれたのがお茶だったんです。

ーーお茶以外にも、生活を豊かにするために意識的にやっていることはあるんですか?

新津:もともと料理が好きなんですけど、今は難しいものを作るというよりも、素材を楽しんだり定番なお料理を丁寧に作ったりすることが豊かだなと感じます。料理が好きな理由も、音楽とすごく似ていると思うからなんですよね。

ーーすごくわかります。僕の場合はストレス発散ですが、それも自分を「整える」ってことですもんね。

新津:そうなんです。それが多分すごく自分にとって栄養になっていて、旬な素材はあまり味付けをしないほうが美味しいんだな、ということは、自分の音楽も味付けの前に素材が命だな、メロディーは考えず旬なものを残そう、と繋がったりとか。そういうところにクリエイティブのヒントを見出すことが面白いです。

ーー今回の新録2曲についてはもう少し掘り下げたいんですが、「春和景明」は時候の挨拶に入れるフレーズが元になっていますね。

新津:四季をその場で捉えて実感して味わうっていうことも、日本ならでは豊かさなんだと思って、季節の香りを楽曲に入れようと決めて作った曲です。

ーーギターリフの感じや、コード感が洋楽のギターポップバンド的だったり、転調の仕方が面白いです。これまでの楽曲と雰囲気だけでなく、構成が変化したようにも感じるんですが、どうでしょう?

新津:じつは、最近曲作りの仕方が少し変わってきたんです。新しいサウンドに挑戦したり、今までと違うアイデアがないかと模索した時期を経て、今は自分の血にもともと自然に流れてくるメロディーをなるべく崩さないように形にしているんですよ。多分、15年の活動を自分の中で消化できたからこそだと思いますし、高校生の時の作り方に戻ったともいえるんですよね。

ーー改めてその作り方と今までの作り方を比べたときに、ご自身から見ても出来上がる曲の方向性は全然違うものだと感じますか?

新津:出てる温度やエネルギーが違うなと思います。緻密に制作して磨かれるものもあるけど削がれていくものもある気がして、今はできるだけ瞬間的なものを、旬のものをパッケージしたいっていう気持ちで作っています。人間的な手仕事に興味があるんでしょうね。

ーーもう1曲の「茶々」は、ベースラインがどっしりしているのに、歌とメロディが跳ねながらグルーヴする軽やかさが気持ちいいです。

新津:これもポンって生まれたフレーズですね。自分的には得意なメロディーなので懐かしい感じもするし、ここ最近はやらなかったから新鮮な感じもしますね。

ーー個人的に耳に残ったところは、サビ終わりのリードシンセなんですけど、あれはアレンジャーの石崎光さんのアイデアですか?

新津:そうなんです。私もあそこはお気に入りで、初めて聴いたときに「来た! 石崎サウンド!」と思いました(笑)。

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