aikoの楽曲は、なぜJ-POPの典型を守りながらも洒脱に感じられるのか 譜割&リズム感覚を分析

 が、ここで耳を傾けるべきは、反復の量よりもそこに隠れた質のほうだろう。「冷凍便」の該当箇所は16分のなかにところどころ8分が混じって、シンコペーションがところどころに生じる。たとえば〈あなたが宅急便で送った凍ったままの甘いハートは〉のうち、〈凍ったまま〉の箇所は前の小節に16分音符ひとつぶん食い込んで表と裏が反転している(譜例1)。けれどもここは(促音の処理の仕方によるが)シンコペーションを起こさずに16分音符を整然と並べても辻褄が合う(譜例2)。マス目を埋めるように音を並べるのではなく、「こおっ」を口語的なスピードで8分音符に詰め込むことでちょっとした破調が生じているわけだ。

譜例1
譜例2

 膨大なディスコグラフィーのうちの一曲のごく些細なディテールとはいえ、この部分には、aikoの身体的なリズム感覚があらわれているように思う。aikoの楽曲を聴き返すと、16ビートを身体化したうえで、溜めたり先走ったりすることで生まれる躍動感や、さりげなく三連符へとリズムを溶かす緩急の見事さに聞き惚れてしまう。列挙するときりがないが、「キラキラ」のAメロからBメロのメロディ上のアクセントの置き方も味わい深い(延々と聴いてしまっている)。

aiko-『キラキラ』(from Live Blu-ray/DVD『ROCKとALOHA』)

 楽器の編成(バンド的なリズム隊に加えてピアノ、ストリングス、アコギ等々が満載)や構成(A-B-サビ……)といったJ-POPのある種の典型を守るaikoの作品がこれほど洒脱に感じられるのは、ハーモニー云々もさることながら、このリズム感覚にもよるのかもしれない。

 以上のように、aikoの唯一無二のキャラクターとその人気の源泉は、リズムにも求められるはずだ。

■imdkm
ブロガー。1989年生まれ。山形の片隅で音楽について調べたり考えたりするのを趣味とする。
ブログ「ただの風邪。」

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