鳥居咲子の新譜キュレーション(年末特別編)

鳥居咲子が選ぶ、2019年韓国ヒップホップ年間ベスト10 頭角を現し始めた若手ラッパーからベテラン勢まで

Jay Park『The Road Less Traveled』

 このように今年は若手の活躍が目立ち、ベテラン勢を押すほどの良作を世に送り出した。しかし健闘したベテランももちろんいる。例えば日本でも知名度を上げてきたJay Park。今年キャリア11年目を迎えた彼は、3年ぶりのフルアルバム『The Road Less Traveled』をリリース。ワールドワイドに活躍する彼らしく、多くの国内外のアーティストを客演に迎えた。その数、実に28組。Jay Parkは数年以内に引退する意思を表明しているが、本作からはやりたいことをすべて詰め込んだ彼なりの心構えが感じられる。

Paloalto『Love, Money & Dreams: The Album』

 15年以上のキャリアを誇るPaloaltoも毎年欠かさず良作を送り届けている。ニューアルバム『Love, Money & Dreams: The Album』は、タイトルが示す通り愛とお金と夢について語った曲を集めている。ヒップホップでは、昔から歌詞の中で大金を稼ぐことを自慢することが常だが、本作でPaloaltoはもう少し深いところまで掘り下げている。愛やお金といった普遍のテーマを語る上で、社会の中に生じる格差、嫉妬、愛憎など様々な角度から訴えかけることのできる彼は真のリリシストである。

 最後に紹介したいのは、多くの韓国ヒップホップリスナーが長年待ち望んだカムバック2作品。まずはC Jammのアルバム『KEUNG』。本作は、麻薬取締法違反によってしばらく表舞台を離れていた彼が4年ぶりにリリースしたアルバムだ。アルバム名はコカインを鼻から吸引するときの音を表しているとも言われている攻めっぷり。対してトラックはかつてのタイトなラップスタイルから一変し、スムーズなシンギングラップが続く。最新トレンドを取り入れた本作で新しいファン層を多く獲得した。

 同じく4年ぶりのアルバムとなったE SENSの『The Stranger(異邦人)』は、リリース前から大きな話題を呼んだ。限定盤CDの予約イベントに前日からファンが並び、最終的な予約販売枚数が17,000枚にまで上ったのだ。非メジャーのラップ専門アルバムとしては異例の数字である。トレンドから距離を置いた抑え気味のサウンド、ストーリー性を重視したリリック、抑揚や発音の強いラップなど、自分の持ち味を最大限に発揮した。従来のスタイルを貫いたという点ではC Jammと対照的。

 ラストに紹介した2作品は本国の各種音楽アワードで受賞最有力候補と予想されており、年明けの発表が楽しみである。

RealSound_Best2019@Sakiko Torii

■鳥居咲子
韓国ヒップホップ・キュレーター。ライブ主催、記事執筆、メディア出演、楽曲リリースのコーディネートなど韓国ヒップホップにおいて多方面に活躍中。著書に『ヒップホップコリア』。
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