山崎まさよし、映画主演&主題歌で浮き彫りになる魅力 『月とキャベツ』『8月のクリスマス』から考察

 そして、2005年には韓国発の名作『八月のクリスマス』をリメイクした映画『8月のクリスマス』で山崎は再び主演を務め、主題歌と劇伴も担当。役者としては小さな写真館を営む青年をやはり自然体で演じ、小学校の臨時教員(関めぐみ)との淡い恋模様を美しく伝えてくれた。同名主題歌の「8月のクリスマス」も素晴らしく、こちらは書き下ろし曲なので、『月とキャベツ』とはまた違った感じで歌詞を読み解く楽しさがある。

 「8月のクリスマス」では、自身が演じた主人公の抱える葛藤を、劇中で発することができなかった心の声を歌に変え、映画を一段と切なく揺るぎないものにしている。〈ありふれた出来事が/こんなにも愛しくなってる〉〈わずかな時間でも/ただ君のそばにいたかった〉というのはすなわち、不治の病に侵されて余命わずかな状況にある青年の本音だ。彼女と出会って心底生きたいと思えた気持ちが、しっとりとしたピアノの旋律と共に胸を打つ。この捉え方だけでももちろん感動できる曲だけど、山崎まさよしの歌詞が味わい深いのは、至極ストレートな表現に見えてナチュラルに映画の枠を飛び超えてくるところだと思う。

《予告編》 8月のクリスマス

 たとえば、先の〈ありふれた出来事が/こんなにも愛しくなってる〉〈わずかな時間でも/ただ君のそばにいたかった〉というラインには、映画本編のみならず、現実で普通に暮らす私たちの傍らに漂える普遍性がある。いつかの思い出ともスッと結びつくだろうし、結婚式での親への手紙を読む際のBGMなどにもふさわしいのではないだろうか。また、山崎まさよしの歌声を通して、普段から本音を心の奥底にひた隠しにしている自分の姿が浮かび上がってきたり、そんな言葉にならない葛藤に寄り添ってくれるような温かみも感じたりできる。生活ベースのフラットな目線が存在するからこそ、山崎の楽曲はとても人間くさい。喪失さえも美しく描けるほどに。

山崎まさよし / 8月のクリスマス

 絶賛公開中の映画『影踏み』の書き下ろし主題歌「影踏み」(最新アルバム『Quarter Note』に収録/movie ver.は配信のみ)も、主人公の揺れ動く繊細な感情を想起させる、余韻たっぷりのミディアムバラードとなっている。11月22日20時より放送の『ミュージックステーション 2時間スペシャル』(テレビ朝日系)では、同作で共演した山崎まさよし×北村匠海(DISH//)によるコラボレーションで「影踏み」を披露する予定だという。こちらもチェックを!

山崎まさよし / 「影踏み movie ver.」Music Video -Short-

■田山雄士
フリーのライター。元『CDジャーナル』編集部。日本のロックバンド以外に、シンガーソングライター、洋楽、映画も好きです。

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