THE YELLOW MONKEY「DANDAN」は、バンドの30年間を振り返る楽曲に? 映像作家・山田健人によるMV&楽曲から考察

 バンドにとって記念すべき年である2019年を祝うために制作された楽曲である「DANDAN」は、その立ち位置的にはもちろん記念碑的な作品として存在しているが、その楽曲性はあくまでもシンプルなものだ。すでに触れたようにサウンドは古式ゆかしいロカビリーの香りを感じられるドライブ感のあるものになっている。

 一方、吉井和哉(Vo)が手掛ける作詞も“ビリー”という人物を主人公とした物語調のものになっている。その端々にはTHE YELLOW MONKEYがこれまで歩んできたバンドとしての人生、決して平坦なものではなかったその歩みをしっかりと感じることができるだろう。たとえば、1番のBメロ〈何も言わずに出てった ボロいデニムと缶コーヒー/恋人に別れを告げて〉や2番のAメロ〈浅瀬で遊んだつもりが深いとこまで持ってかれた/もがけどもがけど離岸流 波しぶきに慄いた〉といった表現には、若者たちが出会いを別れを繰り返し、それを糧に音楽を生み出すさまや、ふとしたきっかけで音楽の世界に足を踏み入れた若者がその奥深さに夢中になり、プロのミュージシャンとして音楽界の荒波に揉まれるようになる様子が想像できる。これは、ひとつのバンドが芽吹き、ミュージシャンとして音楽を生業とする自覚が目覚め、花も嵐も乗り越えて成熟していくさまを描いた物語であるといえる。そしてそのモデルとなっているのは、THE YELLOW MONKEYそのものなのだろう。

 THE YELLOW MONKEYはいつでも人の人生を“物語”として描き続けてきた。吉井が得意とするロマンチックさと生々しさの共存する情景描写はどこか非現実的で、それでありながらも聴く者の胸にリアルに迫り、一度耳にしただけで忘れられない表現の妙がある。「DANDAN」のMV内に登場した楽曲たちにも――たとえば、「球根」の〈土の中で待て命の球根よ/悲しいだけ根を増やせ〉、「JAM」の〈この世界に真っ赤なジャムを塗って/食べようとする奴がいても〉、そして「バラ色の日々」の〈砂漠の荒野に倒れても 長い鎖に繋がれても/明日は明日の風の中を飛ぼうと決めた〉など――、抗えないこの世の宿命に流されながらもひたむきに生きる人の営みを過剰に美化することなく、それでいて美しい日本語で描き出した印象的なフレーズが多数存在している。

 「DANDAN」のシンプルでどこか天邪鬼にも思えるほどの歌詞表現からも、吉井がTHE YELLOW MONKEYとしての活動の中で貫いてきた表現の系譜をしっかりと感じられる。また、その詞の内容からは、ソングライター吉井和哉なりのTHE YELLOW MONKEYへの最大の謝辞や、THE YELLOW MONKEYからリスナーへの至上の感謝も込められているように思う。

 30年間の歩みをわかりやすい形で提示するのではなく、物語に仮託して歌い上げるTHE
YELLOW MONKEYのスタイルはどこまでもロックンロールバンドらしい。バンドが残した大いなる足跡に囲まれて最新のロックンロールを鳴らすTHE YELLOW MONKEYの姿を見ていると、これからの活躍にますます期待したくなる。

■五十嵐文章(いがらし ふみあき)
音楽ライター。主に邦楽ロックについて関心が強く、「rockinon. com」「UtaTen」などの音楽情報メディアにレビュー/ライブレポート/コラムなどを掲載。noteにて個人の趣味全開のエッセイなども執筆中。ジャニーズでは嵐が好き。
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