ボカロP Mitchie M×イラストレーター 美樹本晴彦 特別対談 初音ミクを通じて交わした創作への熱意

Mitchie M×美樹本晴彦 対談

“偶然”を楽しむ創作プロセス

初音ミク&鏡音リンのプロレス試合曲『リングの熾天使』実況はKAITO

ーーさて、ボーカロイドはテクノロジーの進化で生まれた新たな音楽の形ですが、イラストにおいてもCGを取り入れるなど、制作環境が変わっていますね。

美樹本:そうですね。「描く」というよりも「創り上げていく」といったニュアンスの方が近いかもしれません。もちろんラフは従来通りに描くのですが、CGを取り入れてからは、その後の作業は一枚絵としてではなく、アシスタントさんに協力してもらいながら、パーツを一つひとつ作っていって、ある程度仕上がったそれぞれのパーツを色や配置を変えたり、効果を入れたりしながら組み上げていくという。これが非常に面白いんです。結果として、自分が当初考えていたものとは、少し違うものになることもあって。

ーーMitchieさんも、打ち込みで楽曲を作るなかで、各パートの演奏を組み合わせるというところで、当初描いていた完成図とは変わってくる部分もあるのでは?

Mitchie M:最初に思った通りに完成したことはないですね(笑)。作っていく過程で変わっていく、というのは共感できます。美樹本先生は、本当に最後の細かい部分まで、修正してくださって。

美樹本:音楽の打ち込みも、途中で足し算や引き算をしつつ、仕上げていくんですか?

Mitchie M:そうですね。本当にいろんな組み合わせを試して、こっちがいい、もう少し調整しよう、というふうに進めていくので。

美樹本:なるほど。CGを使ったイラスト制作と、本当に作業としては似てますよね。思うのは、手描きだと、水彩の薄塗りでぼかしたりするときに、自分では計算できない部分が生まれるんですよ。塗りムラやシミがいい味になったり、それがとても面白い。CGだとそういう計算外の部分が少なくて、だいたい数値で決まっているんですけど、僕はあまり詳しくないので、レイヤーをいろいろと重ねたりするなかで、手描きと同じように偶然に出てくるものを楽しんだりしています。

Mitchie M:確かに、数値化されていても、数字では計算できないところがありますよね。

美樹本:これも数値ではないんですけど、よくキャラクターを描くときに、「裏返して透かして見ると、デッサンの狂いがわかる」と言われるんです。CGであれば簡単に反転処理ができるので、極力、裏返してもおかしくないように意識していて。ただ人によっては、反転して直していくと妙に大人しいイラストになってしまうから、デッサンが狂っていてもその勢いや迫力を大事にしたい、という方もいらっしゃいますね。そこもクリエイターによって違う部分ですけど、僕はやっぱり、どうしても細かく気にしてしまうんですよ。

Mitchie M:わかります! 音楽でも、なぜか上手く作れてしまう事があるんですけど、僕も自分なりの基準みたいなものがあって、そこから外れると検証しないと気が済まないんです。

美樹本:でも、そうやって修正を重ねるうちに、感覚が麻痺しちゃうことはないですか?

Mitchie M:ありますね。

美樹本:僕は不意に「あれ? 元のほうがよくない?」って思うことがあるんです。だから、最初の勢いというのは、それはそれで大事で。その上で、きちんと整合性を取るということを両立させたいんですけど、なかなか難しいですね。また、「修正」というときに、絵の場合はデッサンを変えてしまうこともできるわけですけど、音楽でも、例えばメロディを変えてしまうことはあるんですか?

Mitchie M:もちろんあります。今はPC上でバージョンもいくつも残せるので、積極的にいろんなパターンを作って、ダメだったら前のバージョンに戻ると。あとは、なるべく客観的になるために、何日かおいて聴き直すとか。きっと、絵もそういう時間が必要ですよね。

美樹本:時間が許せばそうしたいですね(笑)。

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