サマー・ウォーカー、ファンテイジア、ニコール・バス……注目女性R&Bシンガーたちの新作
新進気鋭のR&Bシンガー、サマー・ウォーカーによるアルバム『Over It』 が、リリースから1週間で1億5470万回のストリーミング再生を記録。これまでビヨンセ『Lemonade』が保持していた、「女性R&Bアーティストによる1週間のストリーミング再生」の最高記録を更新した。デビューから1年足らずの新人アーティストとしては、これ以上ない大記録だ。今回はそのサマー・ウォーカーや今注目したいR&B女性シンガーたちを新譜とともに紹介する。
いきなりビヨンセ超え?! 話題の強力新人サマー・ウォーカー
アトランタ出身、1996年生まれの彼女。サマー・ウォーカーとは芸名のようだが本名で、YouTube上にカバーソングの動画を投稿していたところ、6LACKやドラムなどを擁するレーベル<LVRN(ラブ・ルネッサンス)>で働いていた同姓同名の女性が偶然サマーを発見し、その後契約に至ったという逸話を持つ。ジミ・ヘンドリックスやエイミー・ワインハウス、エリカ・バドゥに影響を受け、ギターやピアノも演奏する自演派であることから、真っ先に比較されるのはH.E.R.になりそうだが、クラシックソウルの系譜を色濃く残した彼女の開放感ある歌唱に比べ、「寝室でのひとり語り」とでも言いたくなるようなサマーの佇まいは圧倒的な密室度を感じさせる。淡々とした歌い口の中に潜むダーティーさと情熱は、アルバムで共演に至ったジェネイ・アイコとも近い存在だろう。なにしろ2人のデュエット曲のタイトルは「I’ll Kill You」だ。
アルバム『Over It』の注目曲は、1997年にビルボードのソングチャート“Billboard Hot 100”2位を記録したアッシャーの代表曲「You Make Me Wanna…」をサンプリングし、その当人も客演に迎えた「Come Thru」。原曲はサマーにとっては物心つく前の楽曲だが、それにも劣らない叙情的な表現は絶品。そして20年経ってもなお若々しいアッシャーの歌声といったら! またこの曲以外でも、「Playing Games」でデスティニーズ・チャイルド「Say My Name」の一節を、「Body」では702の「Get It Together」をトラックに引用するなど、随所にレイト90’sの雰囲気が満載。アルバムプロデュースの大半を手がけている同郷アトランタのヒットメイカー、ロンドン・オン・ダ・トラックの手ほどきかもしれないが(1991年生まれの彼にとってはドンピシャの青春曲のはず)、取ってつけたオマージュに終わらない完成度の高さは、恋仲でもある2人だからこそか。ちなみに、10月にサマーがInstagram上でシングルになったことを報告するも、翌日のライブ後にロンドンがサプライズで乱入。24時間経たぬうちに復縁するというお騒がせな事件も起こった。
ジャケットからは想像できないほど、とてもシャイな性格な彼女。セレブリティーな生活とは無縁なようで、直近のインタビューでは引退をほのめかすような発言もしていたが、そんな中始まった彼女のツアータイトルは『The First And Last Tour』。その意思が本気かどうかは定かでないが、今年下半期の目玉ともいえる傑作アルバムを聴いたあとでは、これからの躍進も期待せずにはいられない。
殻を打ち破った会心作! 唯一無二のクイーン、ファンテイジア
2006年の『The Definition Of…』を最後に<RCA>から離脱したファンテイジアが、3年ぶりの再出発作『Sketchbook』を自主レーベル<Rock Soul>よりリリース。当初に噂されていた、ブランディー、ジャズミン・サリヴァンとの夢の共演曲は実現しなかったようだが(無念!)、シングル曲「Enough」や「Bad Girl」を筆頭に、彼女のスケール感を損なうことないパワフルな楽曲がひしめく充実の内容となっている。「自分のことを“R&Bアーティスト”としての側面だけでは見ていない」と本人が語る意気込みはレーベル名にも表れているが、事実『アメリカン・アイドル』ではボニー・レイットやエルトン・ジョンの楽曲を歌い、ジャズスタンダードの「Summertime」で優勝を決めた彼女。元々すべてのジャンルを飲み込む器量がある人なのだ。T・ペインとトラップビートで攻める「PTSD」から、実の母親とデュエットするゴスペル「Looking For You(Mama Diane)」までを難なく繋ぐ歌ぢから。なんならもっと振り切れてほしい、ファンテイジア第2章の幕開けである。