花譜、「粉雪」カバーでも注目集める15歳バーチャルシンガー リスナーを魅了する歌声の特徴は?
生身の人間を彷彿とさせるセンチメンタルな歌声
例えば、美波、ずっと真夜中でいいのに。、ヨルシカを中心として、自身の鬱屈とした感情を、情緒に訴えるような歌声で届けるアーティストが注目を集めている。それらに共通するのは、指一本触れた途端に崩れてしまうような危うさのある、繊細な歌声でありながら、根っこの部分には、限りなく真っ直ぐに思いを伝えようとする強靭な意志がうかがえるところだ。花譜の歌声にもそれ同様の匂いがするのだが、15歳という年齢なだけに、全てが未成熟なものとして映りやすい。ゆえに、みずみずしい。例えば、淡々と語りかけるような歌詞が続く「不可解」。一番のAメロ〈そう思えばなんだか人間全てが汚く思えてくるな。〉から顕著になる、震えるような歌声は、彼女の魂から自然と湧き出たもののよう。取り繕うことのない歌声が波となり、リスナーの心に押し寄せ、巨大な感動を生み出すのだ。
また、カンザキイオリのほかにも、Eveやずっと真夜中でいいのに。の楽曲MVを担当したアニメーション作家・Wabokuが、「夜行バスにて」のアニメーションを制作するなど、花譜はボカロ界隈との繋がりも強い。今注目を集めるクリエイターとのタッグは、ファン層を広げるとともに、奥行きのある作品を生むひとつの理由となる。
歌を届けるバーチャルシンガー/バーチャルYouTuberは、、アイドル要素が強い傾向があるのに対し、花譜の場合はアーティスト色が強い。もともとは、シンガーソングライターとしてのデビューを考えていたところも大きいのだろう。バーチャルという形が、花譜にとってはひとつの手段に過ぎなかったとしても、そのあり方が彼女をより神秘的なものにしているのは紛れもない事実。特異な存在として、新たな表現/アーティスト像を見せてくれる可能性は大いにあるのではないだろうか。
一般的に顔出しをしない歌い手シーンは、女性のようなハイトーンボイスを持つ男性、あるいは男性のようなイケメンボイスを持つ女性が活躍するなど、男女の垣根をなくした。同様にバーチャルシンガーシーンも、様々な事情を持った人の可能性や表現活動を広げるためのひとつの手段となっている。バーチャルでありながらも、生身の人間を彷彿とさせるセンチメンタルな歌声を放つ花譜が、シーンの常識、イメージをガラリと変える先駆者となるのは、時間の問題だろう。
■小町 碧音
1991年生まれ。歌い手、邦楽ロックを得意とする音楽メインのフリーライター。高校生の頃から気になったアーティストのライブにはよく足を運んでます。『Real Sound』『BASS ON TOP』『UtaTen』などに寄稿。
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