バーチャルYouTuber 富士葵が語る、“歌”を通じて伝えたいこと 「ファンの方々に恩返しがしたい」

バーチャルYouTuber 富士葵が語る、“歌”を通じて伝えたいこと 「ファンの方々に恩返しがしたい」

 バーチャルYouTuberの中でも屈指の歌唱力と澄んだ歌声で知られ、シーンの黎明期からバーチャルな存在による歌手活動を切り開いてきた富士葵。彼女がメジャー第2弾シングル曲「エールアンドエール」を完成させた。この楽曲は、「エイリアンエイリアン」や「惑星ループ」「太陽系デスコ」「ダンスロボットダンス」といった「歌ってみた動画」でも人気の楽曲で知られるボカロPのナユタン星人がプロデュースを担当。彼女の活動を通じたコンセプトでもある「キミの心の応援団長」をテーマにしながらも、自身の「ちょっとダメな部分」を歌詞に盛り込むことで、聴く人々に「そのままの自分でいいよ」と伝える楽曲になっている。そのレコーディング風景について、本人に聞いた。(杉山仁)

「エールアンドエール」のテーマは“ダメな自分も好きになっていいんじゃないか”

ーー2018年5月のメジャーデビュー以降の期間は、どんな経験になっていますか?

富士葵:メジャーデビューをさせていただいてからの活動は、普段のYouTube動画とはすべてが違っていて、レコーディングの際に曲ごとのプロデューサーの方がいらっしゃったりもしますし、「トラックダウン」や「マスタリング」のような専門用語も覚えました(笑)。それに、動画であげているカバー曲は、自分で歌いたいように歌っているんですけど、シングル曲ではプロデューサーの方にアドバイスをいただいて歌うので、色々な面で勉強にもなっています。自分の中では抑揚をつけているつもりでも、「その何十倍も強調しなければ人には伝わらない」ということを教わりましたし、「したい」ではなく「スぃたい」と子音を意識するような、これまで経験したことがなかったポップス的な歌い方も学びました。今では、他の曲を歌わせていただくときも、そういうことを気を付けるようになっていて。「歌の引き出しが増えて、少しずつ成長していけているのかな?!」って感じています。

ーー今年に入ってからは、憧れの存在、布施明さんとのデュエットも実現しました。

映画『アラジン』 「ホール・ニュー・ワールド」を歌ってみた / 富士葵&布施明 編

富士葵:これはもう、夢どころか、絶対に実現しないことだと思っていました……! まさか憧れの方と、大好きな『アラジン』の「ホール・ニュー・ワールド」で、一緒にデュエットができるなんて……!! もう、「夢」に「夢」と「夢」を重ねたような感覚です(笑)。関わってくださった方々や、これまで応援してくれたファンの方々に本当に感謝しています。

ーー葵さんのオリジナル曲は「応援歌」がテーマになっている曲が多いですし、配信限定カバーアルバム『声 〜Cover ch.〜』ではファンの方々の投票結果が選曲に反映されていましたし……「誰に歌うのか」ということが、すごく意識されているように感じます。

富士葵:「誰のために歌うのか」ということは、歌うときにはいつも考えているんです。葵の活動はファンの方々がいないと成り立たないので、葵ができる「歌」という表現方法を通して、ファンの方々に恩返しがしたい、と思っています。

ーーもともと、葵さんが歌を好きになったきっかけはどんなものだったんですか?

富士葵:母がピアノの先生をしていたので、物心がついたときから、「母がピアノを弾いて、葵が歌う」ということを、遊び感覚でやっていました。そこから、徐々に「この曲を歌いたい」とリクエストをするようになって、「この曲を歌うなら、もうちょっと高い声を出さないとな」「この曲なら裏声を使わないとな」とか言いながら。母が撮ってた小さいときの動画にも、七五三のときに、おじいちゃんやおばあちゃんの前で歌っている動画が残っているんです。そのときは、ミュージカル『レ・ミゼラブル』のコゼットの曲を歌っていて、おめでたい日なのに、「お母さんに会いたい……」というものすごく悲劇的な歌を歌っていました(笑)。

ーー(笑)。それ以降、歌にのめり込んでいく中で影響を受けた人はいますか?

富士葵:本当にたくさんいるんですけど、椎名林檎さんの「NIPPON」をカバーさせていただいたときに、あの特徴的な声のすごさを感じました。椎名林檎さんは何を歌ってもかっこいですよね。葵はこれまでバラードを歌うことが多かったので、「どうやったらこんなにかっこよく歌えるんだろう?」ということを、何回も聴きながら考えたことはいい経験になりました。布施明さんや玉置浩二さん、あとはアニソンなら『マクロスF(フロンティア)』の「射手座☆午後九時Don’t be late」を歌っているMay’nさん(シェリル・ノーム starring May’n名義)やLiaさん、Aimerさんのような方々にも影響を受けました。それと、米津玄師さん。葵は声が真っすぐなタイプなので、魅力的な声のクセを持っている方に憧れて、「こういういいクセをつけるにはどうすればいいんだろう?」ということも考えていたんです。あとは新妻聖子さん。どんな歌を歌っても本当に上手い方ですし、ブレないところが素敵で影響を受けています。

ーー葵さん自身が歌うときに意識していること/大切にしていることも教えてください。

富士葵:「歌なんだけれども、“歌わない”」ということですね。これは母の教えなんですけど、小さい頃から、「歌に歌われないようにしなさい」と言われていたんです。ただ歌うだけではなくて、「詞の意味や曲が伝えたいものを考えていく」ということですね。でも、あまり歌に感情を込めすぎると、カバー曲でもTwitterとかで「もっと気楽に聴きたい」という声をいただくので、最近では、曲に合わせて「この曲はもっと軽く歌った方がいい」とか、「この曲は詞の意味を理解しながらも、わざと楽曲に埋もれるように歌ってみよう」とか、歌い方に色をつけられるよう意識しています。

ーー今回のシングル『エールアンドエール』の収録曲も、3曲それぞれに歌い方や声の出し方が全然違っていますね。

富士葵:そうですね。「エールアンドエール」は「普段の葵/日常の葵」の雰囲気を出していて、普段のYouTube動画そのままの高い声で歌いました。一方で、カップリング曲では低めの声で歌っています。葵の場合、普段の声は高いのに、歌うと少し声が低くなるんです。

ーーでは、それぞれの楽曲について詳しく聞かせてください。タイトル曲の「エールアンドエール」はナユタン星人さんのプロデュース曲です。

富士葵:ご本人にも熱弁させていただいたんですけど、ナユタンさんの曲はどれを聴いてもナユタンさんだと分かるのに、どの曲も違うものになっていると思うんです。葵はそこがすごく好きで、2番のところで急に早口になったりと、曲の中に面白さが詰まっているところも魅力的だと思っていて。そこで、「エールアンドエール」も、「葵がこういう曲を歌いたい!」というものではなくて、「ナユタンさんらしい曲を作っていただきたいです!」とお伝えしました。

ーー優しくそっと背中を押すような応援歌だった「はじまりの音」と比べると、「エールアンドエール」はストレートに応援歌を連想させるようなサウンドがまずは印象的です。

富士葵:曲調が「三三七拍子」になっているんですよね。そういう意味では、サウンドはストレートな応援歌です。ただ、葵はこれまで活動してきた中で、「応援することって難しいなぁ」とも感じていたんですよ。「応援する」と言っても人によって受け取り方がそれぞれ違って、たとえば、キラキラしている人から「頑張って」と言われても、逆に辛くなったりすることがあるじゃないですか。だからこそ、「はじまりの音」も背中をそっと押すような楽曲にしたいと思っていたんですけど、今回の「エールアンドエール」は、「ダメな自分も好きになっていいんじゃないか」ということをテーマにしています。タイトルはナユタンさんがつけてくださったんですけど、葵自身へのエールと、みんなへのエールを詰め込んでいるので、「エールアンドエール」というタイトルだと解釈しています。

ーー「エールアンドエール」の歌詞には、葵さんの様々な要素が詰まっていますよね。〈いっそlike a HUNTER〉の「HUNTER」は、葵さんが好きな『HUNTER×HUNTER』にかけられていると思いますし、〈クソダサムーブ〉などもファンの方にはお馴染みの言葉です。

富士葵:ナユタンさんから「富士葵語録のようなものをたくさんください!」とお話いただいて、これまでの動画での発言や、普段の口癖や、活動していくうえで目指していることをたくさんお伝えしました。「クソダサムーブ」は、語録の中でも一番のお気に入りだったみたいです(笑)。

ーー(笑)。ちなみに、葵さん自身も「応援が必要」と思う瞬間はあるんでしょうか?

富士葵:めちゃくちゃあります! 活動を通して「応援」をテーマに活動しているからこそ強くいられる面もありますけど、やっぱりみなさんに「葵ちゃん頑張って! 応援してるよ!」と言っていただけるからこそ、日々頑張れている部分が大きいので。葵自身も、色んな方に応援してもらっていると、いつも感じています。

ーーこの曲のボーカル面で工夫したことはありますか?

富士葵:この曲は普段の葵を出す曲なので、等身大で歌うことを大切にしました。台詞のような歌詞も多い曲なので、普段の動画のような雰囲気でレコーディングをしていって。「よっ!」「ほっ!」という合いの手も、その場のアドリブで歌っていきました。最後の「応援だ!」と繰り返す部分も、その裏に歌劇団(葵歌劇団/ファンの総称)の方なら分かるような単語が、隠されていたりするんですよ。よーく聴いたら、「あれ、葵ちゃん、〇〇って言ってる?!」って気づくと思います(笑)。あと、最後に「頑張れー!」という台詞が入っていますけど、それもレコーディング現場で色々なパターンを録りました。フレーズの1つひとつに「この言葉は左耳からちょっとだけ聞こえるようにしよう」という工夫をしていて、パズルみたいに組み合わせていきました。

ーー今回はジャケット写真も、歌詞の内容と密接に繋がったものになっていますね。葵さんのズボラな面を表現したものになっている、といいますか。

富士葵:葵からは、「靴下を脱ぎかけの状態にしてほしい!」とお伝えしました。綺麗に脱ぐんじゃなくて、「靴下を引っ張ってほしい!」って(笑)。あと、頭にティアラが乗っているのは、実は「ズボラの王女様」のようなイメージからなんです。ダーティーなズボラではなく、「可愛いズボラを目指したいな……」と思って(笑)、公開されているMVでも、ティアラだけではなく“ズボラの魔法のステッキ”を持っています。

富士葵「エールアンドエール」Music Video

ーーなるほど!(笑)。 MVでは、途中で宇宙に行くシーンも印象的でした。

富士葵:あの場面は2番の歌詞とも繋がっていますし、宇宙人であるナユタン星人さんに書いていただいた曲だからこそでもあると思いました。とても素敵なMVにしていただきました!

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