Korn、Tool、Baroness、Opeth……独自のスタンスで“ヘヴィ”を表現するHR/HM新譜6選
アメリカ産の力作3枚を紹介したあとは、今回唯一のヨーロッパ圏から。来年で結成30周年を迎えるスウェーデンの至宝、Opethが9月末にリリースした通算13作目のオリジナルアルバム『In Cauda Venenum』です。ここ数作では初期のデスメタル的要素を排除し、70年代のプログレッシヴロックを彷彿とさせるメランコリックかつドラマチックな作品を発表してきた彼ら。今年12月には新作を携えた、単独来日としては久しぶりのジャパンツアーも控えています。
前作『Sorceress』(2016年)から3年ぶりとなる今回のニューアルバムは、基本的なスタイルこそ前作の延長線上にあるものの、ヘヴィさがここ数作の中ではもっとも高まっている印象を受けます。そこには、まもなく結成30周年を迎える彼らが自身のキャリアを総括する意味も込められており、なおかつ自身の原点も見つめ返した、原点回帰にして次の10年への橋渡し的な意味も込められた重要な役割も用意されているのです。それは、英語で歌われたアルバム本編とあわせて、母国語であるスウェーデン語で歌われた別バージョンが初めて用意されたことに象徴的です。英詞で歌われたオリジナルバージョンの素晴らしさは言うまでもありませんが、一方で耳慣れないスウェーデン語で表現された別バージョンもまた、このバンドが持つ神秘性を一気に高めることに成功。言語の違いから受ける印象の変化含め、ぜひ2枚あわせて楽しんでもらいたいところです。
5枚目はオーストラリア出身のサイケデリックロック/ヘヴィロックバンドのKing Gizzard & The Lizard Wizardが今年8月に発表した15thアルバム『Infest The Rats' Nest』です。彼らは今年7月に開催された『FUJI ROCK FESTIVAL '19』で初来日を果たし、2日目のWHITE STAGEで独創的なパフォーマンスを繰り広げたこともあり、その名前を記憶しているロックファンも少なくないのではないでしょうか。これまで日本盤こそリリースされてこなかった知る人ぞ知るマニアックな存在であり、特にエクストリームロックリスナーには多少縁の遠いバンドかもしれませんが、この最新アルバムはそういったハード&ヘヴィな音楽を愛好する人にこそ響いてほしい1枚なのです。
これまでの彼らの作品には多少なりともHR/HMの要素は含まれていましたが、ここまでど直球でこういったジャンルの音楽をアルバムまるまる1枚使って表現したのはこれが初めてのこと。生々しいまでのハードロックサウンドは、ハードロックとパンクを融合させた初期Motörhead、あるいはそのMotörheadに続いて80年代初頭のNWOBHM(New Wave Of British Heavy Metal)ムーブメントから登場したイギリスのHR/HMバンドや、それらの先人たちから影響を受けた初期のMetallicaにも通ずる要素が見え隠れします。また、突如飛び込んでくるファストチューンからはハードコアからの影響も伺え、少なくともこのアルバムに関しては“こちら側”の作品と断言できるでしょう。
最後にピックアップするのは、再びアメリカから。アリゾナ州出身の新世代メタルバンドGatecreeperによる2ndアルバム『Deserted』です。2013年に結成された彼らは、今回紹介する6組の中ではもっともキャリアが若いものの、そんな事実を微塵も感じさせない強烈な1枚を届けてくれました。
2016年の1stアルバム『Sonoran Depravation』に続く本作は、前作同様Convergeのカート・バルー(Gt)がミックスを担当。サウンドの殺傷力はもちろんのこと、Obituaryをはじめとする80年代のオリジナルUS(主にフロリダ)勢、GraveやDismemberなどの90'sスウェディッシュ勢、そしてイギリスのBolt Throwerに代表されるデスメタル始祖的存在に敬意を払いつつ、それらのエッセンスを最大限に取り込み、さらにXibalbaなどデスメタルやスラッジメタルに接近したハードコアバンドのカラーも持ち合わせた楽曲が並ぶ、まさに現代の最前線を生きるエクストリームなアルバムです。デスメタルライクなボーカルパフォーマンスにこそ“らしさ”を覚えますが、さまざまな形の“ヘヴィさ”を体現したそのサウンドからは強烈なインパクトを受けるはず。エクストリームミュージックを起点に、複数のジャンルに足をかけながらブレイクスルーしていくであろうその姿勢は、近年のDeafheavenやPower Tripにも通ずるものがあるのではないでしょうか。そういった意味でも、今回紹介したほかの5作品と同じくらい「2019年のエクストリームシーン」における重要作品だと断言したいと思います。
■西廣智一(にしびろともかず) Twitter
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。