「melt(with suis from ヨルシカ)」インタビュー

TK from 凛として時雨×ヨルシカ特別鼎談 3人が語り合う、音楽や創作に向き合う姿勢

バンドで培った“処女性”を捨てて、別の女性として声を出すイメージ(suis)

――サウンドに関しては、TKさんの楽曲でここまで打ち込み主体で作られたものは珍しいですよね。

TK:さっきもお話ししたように、今回はふと楽曲を作ってみたいと思ったので、タイム感的にCDを出すのは難しくて、配信リリースをしたいって話をしたら、配信だとそんなに予算が組めないと。だったら、ピンチはチャンスじゃないけど、一回自分の手の届く範囲で完結させてみようと思って。「生ドラムは録らない」って決めたときに、自分がどういう音を作るのか、自分自身知りたいっていうのもあったり。これまで生バンドの中にプログラミングが入ってることはありましたけど、最終的に生にしないのは初めてですね。打ち込みのドラムを聴いてると、「お前が3分後に叩くフレーズを俺はもう知ってる」って気持ちになっちゃって、生ドラムにしたくなっちゃうんですけど(笑)。

――気持ちはわかります(笑)。

TK:今の時代、リスナー側は「打ち込みでも生でもどっちでもいい」という人も多いと思うんですけど、自分がどう思うかって、音楽の中で一番重要なところなので、今回はあえて無機質なものにして、温度感は言葉で出す方に振ってみて。なので、自分の中では「配信」だからこその、いろんな要素を含んだチャレンジですね。

――「音源は打ち込みで、ライブは生で」っていうのは、現代的ではありますよね。

TK:そうですね。サポートメンバーから「どうすればいいの?」って、連絡が来てます(笑)。曲にもよりますけどトム・ヨークのソロは音源が全部打ち込みで、ライブでは生になって、全然違う楽曲に聴こえたり、最近そういうアーティストも多いと思うんですけど、僕はやってこなくて。どちらかというと、CDを作るときにベストを尽くしてるので、それをやりたいっていう気持ちでした。なので、今回は自分でも「どうしよう?」って思ってるんですけど。

n-buna:僕、The 1975が好きで、彼らも今は打ち込みっぽい要素を取り入れてますけど、ライブは生バンドですよね。この間『SUMMER SONIC』で観て、めちゃくちゃよくて。もともとは1stアルバム(『The 1975』2013年)らへんのインディロックな感じが好きだったんですけど、最近の曲がライブで再現されたときの感動はすごかったですね。

TK:音源を打ち込みで作って、それを生に落とし込むのって、危ないところもあると思うんです。ライブを観て、「生になると、こんなにいいんだ」ってなるアーティストは、実は相当いろんなバランスを取っていると思うんですよね。まだ今の段階ではいつライブで披露できるかわからないですけど、自分はライブアレンジは初めてのチャレンジなので、「こんな風に有機的に変わるんだ」っていうのをちゃんと見せたいなと思います。

――suisさんは「melt」の歌詞をどのように捉えて、どう歌に還元させましたか?

suis:ヨルシカにはまずありえない歌詞だったので、バンドで培った“処女性”みたいなものをかなぐり捨てて、別の女性として声を出そうっていう、ざっくりとしたイメージはありました。あとは、すでに入れてもらっていたTKさんの歌声と歌詞を体感して、そこに自分も入って行く。それこそタイトルが「melt」なので、曲の中に溶けるようなイメージで歌いました。

――ヨルシカのときは、処女性というか、ある種の純真さを意識してる?

suis:意識していると思うけど、意識しなくても、根が純粋なので……って自分で言うのもおかしいですけど(笑)。「役を演じる」部分も当然あるんですけど、根っこの部分ではそんなに意識せず、ありのままで歌っているので、純粋なものになってるかなって。なので、今回に関しては、背伸びをした感もあったと思います。

TK:ヨルシカの“少年と少女”って感じはすごくいいですよね。n-bunaくんがレコーディングに立ち会ってないっていうのを聞いてちょっと納得したんですけど、曲を作っているプロデューサーとボーカルという組み合わせの場合、ボーカルが強い意志を持っていない場合が多い気がして。でも、suisさんはそこがちょっと違って、音源を聴くと、しっかり意志を持っている感じがする。さっき「背伸びをした」って言っていたけど、今回の「melt」はもともとsuisさんが持っているものがより強く出ている気もして。無理してると感じたら、「もうちょっとこうして」って言ってたと思うんですけど、「むしろこれが素なんじゃないか」って感じもあって、そこが天性の勘なのかもしれないですね。「無理して、大人っぽくしている」声色ではなかったですし、Aメロから「入ってきてるな」って感じました。

ーーやはり、憑依型といいますか。

TK:だから、僕の音楽の中でsuisさんが生きている瞬間は、「むしろヨルシカのときに背伸びしてる?」とも思うし、でもヨルシカを聴くとやっぱりその中で生きてるsuisさんがいて。結果として双方の音楽の奥行きを作るというか、「どっちが本当なのかな?」って……どっちも本当なんですけど。

suis:そう言われると、自分の本当がどっちなのかわからなくなりますね……本当なんてないのかもしれない。

n-buna:いろんなタイプの曲を歌うボーカリストとして、理想的だと思います。

TK:カメレオンタイプもいろいろで、何でも歌える人って、「じゃあ、その人の色って何なの?」ってなりやすいと思うんです。その人自身は無色透明で、だからどんな曲にも馴染みやすいって人もいると思うけど、ちゃんとその人の色があった上で、全体を透き通らせてくれるって意味では、(suisさんは)類稀な方のカメレオンタイプだと思う(笑)。自分の色を持ちながら、相手の色にも合わせられるって、なかなかできないことだと思います。アクが強過ぎても、「その人が入った」ってだけになっちゃいますしね。

suis:ホントにありがたい言葉をいただけて……いい人生でした(笑)。

――最後に、これはちょっと深読みかと思うんですけど、様々な場面で大小の「分断」が起こっている現代において、フラットに作った楽曲のタイトルが「melt」だったというのは、ある種のメッセージ性を読み取ることもできると思ったのですが、いかがでしょうか?

TK:そういった時事的なものは意図的にメッセージには込めないですね。一番重要視してるのは、自分が今何を欲していて、何を伝えたいのか、なのでその中で生まれた言葉でしかないです。それが結果的に自然と聴き手の中でリンクしていくものだと思うので。「聴いてくれる人がいるから」とか言いたいものですけど、それって余裕がある人じゃないと言えないのかなって。もちろん、聴いてくれる人がいるからこそ、活動ができている側面はありますけど、「みんながいるから、この楽曲ができました」とは感じたことがないというか。誰もいなくても、この音楽は生まれてるはずだと思っていたいんです。もちろんそうやって生まれた楽曲が響いてくれる人がいるっていうのは、嬉しいですけどね。

n-buna:すごくわかります。いつも僕が言ってることと同じだったから、おこがましいですけど、自分と同じ面が感じられて、嬉しいです。僕は誰が聴いてなくても曲はずっと作り続けると思いますし、suisさんはその曲をヨルシカのフロントマンとして人に届ける意識でやってくれてると思うんですけど、根本的なところは同じだと思うんですよね。僕はヘンリー・ダガーという、イリノイ州のマンションで50年間一人で小説と絵を描き続けて、それが死後に発表された人をリスペクトしていて。これって創作のあり方としては一番美しいと思うんです。

――じゃあ、「melt」の歌詞に「ヨルシカ」が隠れているのも、シンプルにTKさんがやりたくてやったことだと(笑)。

TK:そうですね(笑)。

n-buna:あれは嬉しかったなあ。

suis:嬉しかった。粋ですよね(笑)。

(取材・文=金子厚武)

TK from 凛として時雨「melt (with suis from ヨルシカ)」

■配信リリース情報
TK from 凛として時雨
Digital Single「melt (with suis from ヨルシカ)」
2019年10月2日(水)out

■ライブ情報
『TK from 凛として時雨 Bi-Phase Brain “L side”』

2019年10月3日(木)新木場STUDIO COAST
Open 18:30/Start 19:15
Info. HOT STUFF PROMOTION 03-5720-9999
Gäste Act:österreich
[Support Member: Vo: 飯田瑞規(cinema staff), Vo: 鎌野愛, Pf: 佐藤航(Gecko&Tokage Parade), Ba: 三島想平(cinema staff/peelingwards), Dr: GOTO(DALLJUB STEP CLUB), Vn: 須原杏]

2019年10月8日(火)名古屋DIAMOND HALL
Open 18:30/Start 19:15
Info. JAIL HOUSE 052-936-6041
Gäste Act:Cö shu Nie

2019年10月9日(水)なんばHatch
Open 18:30/Start 19:15
Info. 清水音泉 06-6357-3666
Gäste Act:Cö shu Nie

Ticket
1F立見 ¥5,000(税込/D代別)
2F着席指定席 ¥5,800(税込/D代別)
※名古屋公演は立見のみ
一般発売日:2019年8月10日(土)

『TK (凛として時雨) Bi-Phase Brain “R side”』

2019年12月13日(金)大阪市中央公会堂 大集会室
Open 18:15/Start 18:45
Info. 清水音泉 06-6357-3666

2019年12月23日(月)Bunkamura オーチャードホール
Open 18:45/Start 19:15
Info. HOT STUFF PROMOTION 03-5720-9999

Ticket
全席指定 ¥6,600(税込)
一般発売日:2019年10月5日(土)

ヨルシカ『エルマ』(通常盤)

■リリース情報
ヨルシカ『エルマ』
発売日:8月28日(水)
形態:
初回限定盤(CD+日記帳)¥4,500+税
※ “エルマが書いた日記帳仕様”、CD、写真、日記帳 封入
通常盤(CD)¥3,000+税
<収録曲>
01 車窓
02 憂一乗
03 夕凪、某、花惑い
04 雨とカプチーノ
05 湖の街
06 神様のダンス
07 雨晴るる
08 歩く
09 心に穴が空いた
10 森の教会
11 声
12 エイミー
13 海底、月明かり 
14 ノーチラス

■関連リンク
TK from 凛として時雨オフィシャルサイト
ヨルシカオフィシャルサイト

関連記事