ジャズ界の頂点に君臨するベーシスト、アヴィシャイ・コーエンとイスラエルジャズの今

 これまでアヴィシャイは前出のシャイ・マエストロを始め、若い世代の発掘に力を注いできた。過去のトリオメンバーに選出されただけでも(ツアー・メンバー含む)、第3世代(80年代生まれ)のオムリ・モール(Pf)、ニタイ・ハーシュコヴィッツ(Pf)、アミール・ブレスラー(Dr)、ダニエル・ドー(Dr)、イタマール・ドアリ(Per)、第4世代(90年代生まれ)のオフリ・ネヘミヤ(Dr)などが挙げられる。またアヴィシャイがコ・プロデュース(共同プロデューサー)し、<Razdaz Recordz>から『One World』(2016年)でデビューを果たした1993年生まれのシャハル・エルナタン(Gt)は今後が期待される注目株だ。

 筆者が過去に行ったインタビューでアヴィシャイは、「新しい世代が次々と出てきていて、彼らを表舞台に立たせることが私の使命だと感じている」と語っていた。イスラエルジャズの若き猛者たちは、まさにジャズ界のこれからを担う人材の宝庫といえるだろう。アヴィシャイ自身、自らのライフワークとして次世代の音楽家の発掘と育成を楽しんでいるようだ。現在、『アヴィシャイ・コーエン・ミュージック・アワード2020』を開催中の彼だが、コンテストの勝者は2020年に<Razdaz Recordz>からアルバムリリース権を得ることができるそうなので、こちらもぜひチェックしてもらいたい。

 ここ数年の間、毎年のように来日しているアヴィシャイであるが、昨年の8月には日本初演プロジェクトの『アヴィシャイ・コーエン トリオ with 17ストリングス』、今年2月にはアゼルバイジャン出身の気鋭エルチン・シリノフ(Pf)とイスラエル出身の盟友ノーム・ダウ(Dr)とのトリオ公演、8月31日の『第18回 東京JAZZ』ではエルチン・シリノフとマーク・ジュリアナを率いた1日限定トリオでの来日公演を成功させた。

アヴィシャイ・コーエン トリオ

 アヴィシャイの母親の言語ラディーノ語(スペイン系ユダヤ教徒セファルディムのスペイン語方言)で「木」を意味する新作『Arvoles』(ジャケットの絵画はアヴィシャイの母親によるもの)から多くの楽曲が披露された今回の『第18回 東京JAZZ』公演。今までにないほど穏やかで壮大な世界観は、アヴィシャイの新天地が垣間見えるような心打つものであった。

 2020年は50カ国で50公演を行うというアヴィシャイ・コーエン。同年4月に50歳の誕生日を迎える彼はこの先、どのような新世界を我々に見せてくれるのか。来年もアヴィシャイ・コーエンの動向から目が離せない。

Avishai Cohen - "Face Me" LIVE ('Arvoles' - New Album, 2019)

(文=落合真理)

アヴィシャイ・コーエンHP

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