『Grape』インタビュー

Base Ball Bearに聞く、バンド力学 スリーピースで立ち返るサウンドの原点とこれから

関根史織(Ba/Cho)

TRICERATOPS、NUMBER GIRL、下北沢からの影響

――日本のロックシーンのここ10年、20年を振り返ると、スリーピースバンドのフォーマットって、いわゆるメロコア以降のストレートな8ビートをイメージしがちだと思うんですが、Base Ball Bearはちょっと違いますよね。特に関根さんのベースにブラックミュージック的な横ノリの要素があってドラムにも個性がある。そういうアンサンブルを踏まえて、J-POPとして成立するスリーピースのバンドという点で考えると、やっていることは違うんですけれど、TRICERATOPSとの共通点が実は大きいんじゃないかと思ったんですが。

小出:そこはすごく重要なポイントなんですよ。そもそも、自分たちにはTRICERATOPSの影響がものすごくあって。中3の時に初めて自分がボーカルで歌った曲が「ロケットに乗って」だったりするし、それくらい自分の根っこにある。でも、周りを見渡してみてもTRICERATOPSってフォロワーがいないんですよね。チャットモンチーの「シャングリラ」は「FEVER」とか「Raspberry」が元ネタになってると思うし、四つ打ちを取り入れていった我々世代のロックバンドのバックボーンとしてTRICERATOPSはすごく大きい。ただ、彼らがやってることは非常に高度なので、あれを継承できてるフォロワーのバンドがなかなかいない。

――非常に高度、というと?

小出:和田(唱)さんって、リフを弾きながら歌ってるわけじゃないですか。まずあれだけリフを弾きながらあれだけ歌える人がなかなかいない。コードをジャカジャカ弾きながら歌うのと、リフを弾きながら歌うのって全然違いますからね。さらに、コーラスがすごいんですよね。ライブ映像を観るとわかりますけど、林さんも吉田さんもめちゃくちゃ歌ってる。

堀之内:リハを見ても、コーラスのほうをちゃんとあわせたりしてるもんね。

小出:グルーヴがしっかりしていて、ギターがリフを弾いていて、コードに対して適正なボイシングがあって、コーラスがハーモニーを加えて、しっかりしたボーカルがあったら、それ以上余計なものが必要ないんですね。でも、あれだけしっかりしたアンサンブルを作れるスリーピースのバンドって、それ以降全然いないんですよ。だから、今もう一度急いで研究しないとって思っていて(笑)。

――Base Ball Bearって、2000年代から2010年代にかけて、日本のロックがどんどん洗練されていった、その重要なキーを握っているバンドの一つだと思うんですね。たとえばASIAN KUNG-FU GENERATION、チャットモンチー、フジファブリックなどゼロ年代にデビューしたいろんなバンドがいる中で、とりわけBase Ball Bearが特殊なのは、自分たちがどこから来て、何を受け継いで何をやってるかということに、きわめて明確な意識を持っている。

小出:そうですね。

――そのうえで、あえて聞きたいんですけれど、今語ってもらったようにTRICERATOPSはその源流として一つある。その一方で、下北沢で生まれた日本のギターロックというフォーマットに対しては、ずっと愛憎ありつつ、そこから完全に離れることなく今に至っていると思うんですね。で、その潮流の一つのルーツになっているのがNUMBER GIRLだと思うんです。そこに対してはどう受け継いでいると考えていますか。

小出:実は、世間一般、それから今の日本のロックが好きな人の中で思うNUMBER GIRL的なものと、僕らが捉えているNUMBER GIRL的なものって、ちょっと距離があるんじゃないかと思っていて。だから初期のBase Ball BearがNUMBER GIRLっぽいということを言われたりすると「NUMBER GIRLをそう捉えているのか、全然こんなんじゃないから」って思ってしまうんですよね。あそこから何か抽出して自分たちのサウンドに混ぜ込むのは本当に難しい。NUMBER GIRLって、何から何までアクが強いバンドなんですよ。4大怪獣が集まっているようなバンドなので(笑)。でも、僕らがちょうど下北でライブをやり始めた2000年代初頭には、NUMBER GIRLそのものを希釈して、薄めて使ってる人たちがものすごく多かった。僕らも最初はそういう風に始まっていますけど、脱したくても「手元にこれしかない」という自覚もあったんです。自分の中には、NUMBER GIRLとTRICERATOPSとSUPERCARしか取り扱える要素がない。あと、70年代のハードロック。あの時に自力で取り扱えそうなフォーマットはNUMBER GIRLを希釈したものしかなかった。それから、それこそ自分たちがどこから来ていて、これからどこに行くのかをはっきり意識しだした頃から、どんどん取り扱える材料が増えて、変わっていったんですけれど。

――どう変わっていったんでしょう。

小出: 2007年くらいから玉井健二さんのプロデュースが入って、そこから日本のポップスというものを解釈する時期に入っていくんです。だから、そこでギターロックがとか、下北沢が、という文脈は切り離されていった。『十七歳』とか『(WHAT IS THE)LOVE & POP?』とか、その次の3.5枚目という位置付けだった『CYPRESS GIRLS』と『DETECTIVE BOYS』の2枚はそういう作品ですね。だから『新呼吸』は全く関係ないものになっている。ただ、その流れの中で唯一「short hair」ははっきりと下北沢を意識した曲だった。

――そうだったんですね。

小出:僕らは自分たちが出てきた2000年代初頭の下北沢のムードが大変恐ろしかったんですね。ASIAN KUNG-FU GENERATIONやACIDMANがデビューして、ART-SCHOOLもフジファブリックもメジャーに行って、全国区になっていった。その後の下北沢の氷河期っぷりがすごかったんです。みんな、やっているのは、明るいギターポップか暗いUKロック。TEENAGE FANCLUBかRADIOHEADか。で、NUMBER GIRLか。

堀之内:僕らはそこに入れなかったというか、馴染めなかったというか。

小出:ここにカテゴライズされたらマズいなと思ったし。音楽的にも全然違うことをやっていかないとマズいと思った。あの時期に下北沢で鳴っていた音は身体に染み込んでいたんですけれど、これを自分たちが扱うのは危険だという。柴さんが言った愛憎がないまぜになっているというのはそういうことなんです。「ここにいちゃいけない」っていうのと「あの匂いが懐かしい」というのが同時に存在している。だから玉井健二さんのプロデュースでポップスのことを勉強して、そこを離れてセルフプロデュースになって『新呼吸』のタイミングでやっと自分たちらしいサウンドを作ることができて、そこで初めて下北系ギターロックのフォーマットをやってみることができた。それからもずっと水面下でそういう匂いやムードに惹かれるところはあるんですけど、やっぱり両刃の剣なんです。でも今回の「いまは僕の目を見て」という曲は、久々に下北系ギターロックのフォーマットを使っている。これは通常ツインギター用のフォーマットなんですけど、これをスリーピース用にコンバートしているので、ありそうでないことになっているんですよね。

――どうして過去の話を聞いたかと言うと、『Grape』というEPがそういう作品だと思ったからなんです。『ポラリス』ではラップが入っていたり、わかりやすく「こういう要素が入っています」というトピックがある。でも『Grape』にはそれがなくて、むしろバンドの構造や発想が刷新された状態で、10年前に「王道ギターロック」みたいに言われていたかもしれないフォーマットの曲をやっている。だから新しいことをやっている感じがする、という。

小出:まさにおっしゃるとおりで。というか、一周して2000年代初頭のサウンドがちょっとフレッシュに聴こえる時期に差し掛かっているなと思っていて。周りを見ていても、僕らが『C2』~『光源』でやっていたような、シティ・ポップ的アプローチや、シンセを入れたグルーヴィーなバンドサウンドが増えてきてますよね。「やっぱりな」と思って。で、この次のタームに何が来るのかを考えたら、「単純に演奏が上手い」というところに戻ってくると思ったんです。ギターが上手い、ベースにグルーヴがある、ドラムがタイトである。その場の機材で、裸一貫で演奏できる。そういうことが武器になる時期になってくるんじゃないかなって。だから『ポラリス』はバラエティを見せたいというコンセプトなんですけれど、今回の『Grape』は「演奏、楽しい」とか「バンド、楽しい」みたいな、そういうのが詰め込めたらいいなと思ってましたね。ギターをジャカジャカ弾いて嬉しい、みたいな。

――関根さん、堀之内さんは『Grape』がどういうものに仕上がった実感がありますか。

関根:ベース単体で言うと、『ポラリス』のほうが自分のフレーズから作っていて、ファンキーなものだったり、今までにないようなことをした手応えがあるんです。『Grape』に関しては、自分たちの今の手持ちの武器に非常に自信を持って、それだけで戦えるっていう感覚かな。

Base Ball Bear - ポラリス (2019.3.2 Ver.)

堀之内:僕は前作と対になるというか、今回は「踏まえてる」感が出てるなって思います。3人のライブと『ポラリス』を経てきた感じが4曲に出ているというか。今回、自分のフレーズから作っているのが「セプテンバー・ステップス」と「Grape Juice」の2曲なんですけれど、特に「セプテンバー・ステップス」は、リズムを面白く聴かせるために、今まで以上に音を抜いている。そこでも自分のルーツにあるファンキーな部分、ホワイトレゲエの部分を見せられた。3人の音のキャラクターをより顕著に見せられた気がします。

――3人のその演奏力、フィジカルの強さが、曲作りにおいても土台となっている。そういう感じがある。

小出:そうですね。そういうところに自信がある、そういうポテンシャルが自分たちにあると思わないと、こういうアプローチは怖くてできないので。演奏していてもヒリヒリするんですよ。音数少ないから。埋まってると安心するんですけど。

堀之内:このヒリヒリ感が楽しいのがいいなって。

小出:だから今、TRICERATOPSがやってることって、改めてすごいなって思っているんですよね。Aメロからサビまでずっと同じリフで、ワンループ中でメロディの起承転結をつけている曲もある。あと、チャットモンチーは異様に音数を抜くんですよね。あれは歌が引っ張るから余計なものがいらなくなっていたんだろうし。つまり、人間力が前提になってバンドのアレンジが決まっていく。自信のある人は自信のあるアレンジになっていくんだなって改めて思いました。

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