音楽は生き続けるーーデヴィッド・ゲッタのリミックス曲を機にアヴィーチー『TIM』を改めて聴く

アヴィーチー『TIM』

 アヴィーチーことティム・バークリングがこの世を去ったときは、『TIM』の制作をほぼ終えるところだったという。遺族や関わったスタッフ、参加したアーティストたちがなるべくアヴィーチーの意志に近づけたい想いで完成された本アルバムは、楽曲のアップテンポとEDMらしいダンスサウンドを意識している一方で、アヴィーチーならではの内省的でダークなリリックやメロディも節々に感じられる内容となっている。自身の内省的な気持ちを正直に表現しながら、これほど聴く者の心が躍るような生命力を感じる楽曲を作るというのは、単にダンスミュージックだからという理由だけでなく、常にアヴィーチーが死生観を意識しながら「家族、まわりの人への愛」や「日常」という普遍的なテーマを投げかけて人々の心に寄り添ってきたからではないだろうか。

 今回ゲッタが発表した「Heaven」。アヴィーチーとクリス・マーティン(Coldplay)が2014年に制作をスタートし、2016年にアヴィーチーが最終バージョンのプロデュースを行ったが、それ以来この曲は手つかずのままだったという。アヴィーチーが自身でこの曲を発表することは最後までなかったのだが、〈僕はきっと死んだんだ 僕は死んだんだと思う〉〈死んで天国へ行ったんだ〉と歌うクリスの解放的な歌声が強く優しく響く。胸がキュッと締め付けられそうになる歌詞だが、美しい眺めや景色、自由になる瞬間を思い浮かべて書かれたアヴィーチーの「天国」は、音楽を共有していたファンの姿やステージの上でもあったのではないかと信じたい。

Avicii - Heaven (Tribute Video)

 また、『TIM』の収録曲の中で印象的だったのは「Freak(feat. ボン)」。坂本九の「Sukiyaki(上を向いて歩こう)」(1961年)をサンプリングした楽曲だ。実際に楽曲のクレジットには「上を向いて歩こう」を作った永六輔や中村八大の名前が記載されているが、公式でサンプリングされるのは初めてではないだろうか。口笛部分がフィーチャーされてた楽曲からは、ポップさとセンチメンタルが入り混じる独特な哀愁感が感じられ、前向きさと憂いを帯びた原曲「上を向いて歩こう」の本質を引き立たせているように感じられた。

 最後に、デヴィッド・ゲッタは「Heaven (David Guetta & MORTEN Tribute Remix)」発表の際に、次のようにコメントしている。

「Aviciiへのリスペクトをずっと何かの形にしたいと思っていて、正しいタイミングを待っていたんだ。「Heaven」を初めて聴いた時、そのサウンド、歌詞、そしてクリス・マーティンのボーカルに圧倒された。さらに特別だったのがクリス・マーティンはいつも大きなインスピレーションをティム(Avicii)と僕自身に与え続けてくれていたということ。だから僕にとってティムをトリビュートするリミックスを作るタイミングだと感じたんだ」

 憧れの存在であったゲッタからの称賛が、天国のアヴィーチーに届いていることを心から願ってやまない。

(文=神人未稀)

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