KREVA、“通過点”としての武道館公演 バンドスタイルでの“成長の記録”を柴那典が解説
アンコールで登場したKREVAは「ひとつ、成長の記録としてやり切れてなかったことがあるので」と語り、5月に急逝したベーシスト岡雄三のベースラインが印象的な楽曲をつなげたDJプレイを披露した。これまでのライブや『成長の記録~全曲バンドで録り直し~』のレコーディングでもバンドの支柱として大きな存在感を持っていた岡を追悼した。ちなみにこれまでは岡がバンドマスターだったが、今後はその役割を白根がつとめるという。
さらには、岡とレコーディングしたというJQ(Nulbarich)とのコラボ曲「One feat. JQ from Nulbarich」を大音量で流す。そして最後はエモーショナルな新曲「無煙狼煙」を披露し、KREVAはステージを降りた。
つまり、今回のライブにはポイントが2つあったわけだ。一つは、これまで書いてきたような、楽器ごとにスポットライトを当てて音楽の成り立ちを解説するという、『完全1人ツアー』に通じるエデュテインメント的な構成。そしてもう一つは、このライブがアニバーサリーイヤーの“大団円”ではなく“通過点”である、ということ。
たぶんそのこともファンは予想していただろう。今年でソロデビュー15周年を迎え、今年の1月から9カ月連続リリース企画を展開中のKREVA。普通に考えれば、『成長の記録~全曲バンドで録り直し~』のリリースも、それを引っさげたライブも、アニバーサリーイヤーの企画の到達点になっておかしくない。しかし、『成長の記録~全曲バンドで録り直し~』は「第6弾」。この日の終演後に一気に発表されたのは、続くリリースと、9月26日の『908 FESTIVAL 2019』の開催だった。
まずは「第7弾」としてライブ当日の24時に「無煙狼煙」を、「第8弾」として8月5日に「One feat. JQ from Nulbarich」を配信リリース。さらに「第9弾」として、9月4日にはBlu-ray&DVD『完全1人ツアー2018 at Zepp Tokyo』のリリースが決定。
そして、9月18日に、通算8枚目、約2年7カ月ぶりとなるアルバム『AFTERMIXTAPE』がリリースされることが発表された。つまり、今回のライブは「9カ月連続リリースの全貌」を武道館に集まったファンに誰よりも先に告げる場でもあったわけだ。
おそらく当サイトに掲載されたソロデビュー15周年キックオフインタビューの時にも、アルバムに至る構想はあったはずだろう。その時のインタビューでも現在の世界的なヒップホップシーンの潮流についての話をしているが、それを踏まえても、アルバムのタイトルが『AFTERMIXTAPE』となっていることは、とても興味深い。
アニバーサリーイヤーの“到達点”として発表された『908 FESTIVAL 2019』も含め、この先が楽しみになるようなライブだった。
(写真=岸田哲平、中河原理英、川澤知弘)
■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」/Twitter