RAZORとキズ、2度目のツーマンライブ『錆』開催に至るまで 両者の歩みとライブの魅力を考察

 ヴィジュアル系のライブに足繁く通っていると、時折窮屈な気持ちになるのは私だけだろうか。ヴィジュアル系のライブでは、「ここはヘドバン」「ここは左右にモッシュ」「ここは手扇子」と、曲によってある程度のノリ方が決まっている。オールスタンディングのフロアにも、なんとなく列を乱さないように隣の人に合わせて並ぶ。周りに迷惑をかけないように空気を読むのが鉄則なのはわかっているが、爆音の中に身を委ね、衝動のままに腕を上げ、周りを気にせず頭を振る……そんな風に本能に身を任せたくなることはないだろうか。ステージで吠えるバンドマンの姿に、心を揺さぶられたときに私はそう感じる。それでも大体は理性が勝ち、秩序を守ったノリでそこそこ満足して帰るのだが、この日はきっと理性なんて吹っ飛んでしまうのではないかと思う。それが2019年6月28日に新宿BLAZEで行なわれるRAZORとキズのツーマンライブ、『錆』だ。

RAZOR『千年ノ調べ』

 RAZORとキズは、始動時期の近い同期のような存在であり、どちらもシーンを牽引する注目のバンドである。ex.BORNの猟牙、ex.Sadieの剣を中心に結成されたRAZORは、バンド名の通り“剃刀”のように激しく、メロディアスな楽曲が特徴的。RAZORのライブでは観客が左右に分かれ身体ごとぶつかり合う、ウォール・オブ・デスなどもあり、演奏後は観客とメンバーの熱気でライブハウスの湿度が急上昇する。さらに、猟牙(Vo)は「アイラブヘッドバンキング!」と叫び、自らお手本のように頭を振って見せたり、観客にマイクを向けて「声聞かせて!」と歌わせたり、煽りが天才的に上手い。どこかコミカルにも感じられる猟牙の煽りに乗せられて身体を動かすうちに、気づいたら汗だくになっているのがRAZORのライブだ。そんなライブを全国各地、過密なスケジュールで開催するRAZORは、まさに“ライブバンド”といっても過言ではないだろう。

 対するキズは、白塗りメイクを施した奇抜なヴィジュアルと、来夢(Vo)の力強いハイトーンボイスが特徴だ。始動からわずか10カ月でTSUTAYA O-WESTでのワンマンライブをソールドアウトさせるなど、爆発的な人気と動員を誇る。ワンマンライブでは、オリジナルのイメージ映像やリリックビデオを常時スクリーンに流すなど、こだわりの演出が見られ、スクリーンに映る衝撃的な歌詞を通じて、キズの世界観にどっぷりと浸かることができる。“メンヘラ”が流行しているV系シーンでは、心の弱さや痛みに寄り添った歌詞が多いが、キズの歌詞は一味違う。ライブの定番曲でもある、1stシングル曲「おしまい」には〈この手でお前を救うことはできない〉〈傷負いながら好きに描け〉という歌詞がある。寄り添わず、むしろ現実を突きつけ、突き放すような言葉だ。しかし、ステージ上で全身を震わせて叫ぶ来夢や、時折涙すら浮かべて歌詞を口ずさむメンバーの姿を見ると、“自分の足で歩け”と愛のある激励を受けていることに気づかされる。激しいノリはもちろんあるが、心の奥を強く揺さぶられるのが、キズのライブだ。

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