兵庫慎司の「ロックの余談Z」 第27回
岡崎体育が歌詞にまでして歌い続けてきた夢の場所 たまアリ単独ライブを振り返る
そして、今日来てくれた子供たちのために「ポーズ」「キミの冒険」のポケモン曲2曲を1コーラスずつプレゼント。さらに、歌うま風な自分に2コーラス目からツッコミ続ける「Voice Of Heart 2」でまた爆笑を巻き起こし、各地のワンマンやフェスで場をかっさらってきた「XXL」で今日何度目かのピークを作る。
本編の締めは、各地のワンマンやフェスを最後にジャンプの嵐で満たしてきた「Q-DUB」とインディー時代の「BASIN TECHNO」をミックスして生まれ変わらせ、『SAITAMA』のラストに収録した「The Abyss」だった。今日いちばんのジャンプでたまアリが埋め尽くされる。
・アンコールは、「ネタ曲じゃない方の岡崎体育の曲」としてインディー時代から高い人気を誇る「鴨川等間隔」でスタート。映像効果もあいまって感傷的でいい空気がたまアリを満たすも、歌い終えて本人、「おっさんのカラオケをカネ払って観に来てるだけやからな。みんなそうやで」と照れ隠しの言葉を吐く。客席から飛んだ声に何か返そうとするも、聞き取れなかったようで、「……ごめんなさい、アリーナクラスの野次、拾えないですね。そのレベルまで達しました」。みんな笑って拍手喝采。
そして「スペツナズ」と同じく、初期からあるがライブでやったことがなかった「エクレア」を、「6〜7年前、音楽活動やっていていいんかなって迷ってた頃に作った」という紹介から、歌い上げる。〈いい曲はいい人と共に〉のリフレインで、たまアリを大きな感動で満たしてステージを下りた……いや、下りない。ダブルアンコールまでの間を省略したのだった。
本当に最後の1曲は「この曲は、今日ここでやって、終わりです」と宣言しての「Explain」。〈いつかはさいたまスーパーアリーナで口パクやってやるんだ 絶対〉という最後のラインを現実にして締めくくった、ということだ。〈だから歌ってる途中に 水分補給もできる 便利〉のところで水を飲んでみせた。ここ数年、各地で観てきたパフォーマンスもこれが最後か、としみじみする。俺だけか。
去る前に、寿司くんことヤバイTシャツ屋さんのこやまたくやと対談した時に「これで燃え尽きんでくださいよ」と言われた、という話から、次の夢=2020年2月11日エディオンアリーナ大阪(大阪府立体育会館)の開催を発表。客席をバックに記念撮影の後、もう一度トロッコに乗ってアリーナを一周。進みながら四方八方にまんべんなく手を振るのが大変のようで、「バンドやったらよかったー!」と何度も叫ぶ。
最後の挨拶は「人生最良の日になりました!」「ひとりでさいたまスーパーアリーナワンマンできたよ!」だった。
客が全然いない7年前から言い続けてきた、地方のフリーターの青年の荒唐無稽な夢が叶ったーーというストーリーの他に、もうひとつストーリーがあった。この岡崎体育さいたまスーパーアリーナには。
「これが実現したら演者はやめて裏方(プロデューサー、曲提供)にまわる」と当初は公言していたが、活動を続けていくうちに大きく考えが変わり、たまアリ開催発表と同時に「これが終わってもやめません」と宣言。その考えが変わる過程で、最新アルバム『SAITAMA』は、いったん作ったネタ曲をすべてボツにして作り直したーーつまり、かなりリスキーな進路変更を行った。というストーリーもあったのだ。その両方の意味で、ここまでの大成功を収めたんだから、本人の達成感、それはもう大変なものだろうと思う。
ただし、観終わって、「集大成だなあ」とか「総決算だなあ」とか「これからどうするんだろうなあ」という気持ちは、一切湧かなかった。
25曲もやって、ネタ曲もシリアス曲もたくさん聴けた(観れた)けど、考えたら「弱者」も「私生活」も「Natural Lips」も「式」も「家族構成」もやってないんだなあ、とか。あと、シリアス曲はこのあとも順当に新しいのが作られていくだろうけど、ネタ曲、ほんとにもう作らないのかなあ? 『SAITAMA』でインタビューした時は、そんなニュアンスのことを言ってたけど、まったくやめなくてもいいんじゃないかな。ライブでやってそのたびにバカウケしてたけど、『SAITAMA』の方向性が変わったので収録されなかった(のだと思う)「ケルベロス」という曲、俺、大好きだから音源化してほしいんだけどなあ……。
と、次の岡崎体育のアクションについて、早くもいろいろ考えている自分に、帰りの埼京線の中で気がつきました。あ、エディオンアリーナ大阪は、このさいたまスーパーアリーナと近い内容になるだろうし、そうするべきだとも思うので、次の一手にはカウントしません。そのまた次を楽しみにしています、心から。
■兵庫慎司
1968年生まれ。音楽などのライター。「リアルサウンド」「DI:GA ONLINE」「ROCKIN’ON JAPAN」「週刊SPA!」「KAMINOGE」などに寄稿中。
■セットリスト
『JINRO presents 岡崎体育ワンマンコンサート「BASIN TECHNO」』
6月9日(日)さいたまスーパーアリーナ
【第1部】
01. Overture
02. Open
03. R.S.P
04. 感情のピクセル
05. からだ
06. Naked King ※初披露
07. FRIENDS
08. Horoscope
【第2部】幕間映像(1)岡崎体育とバーチャル食事デート体験
09. 今宵よい酔い ※初披露
10. MUSIC VIDEO (short version)
11. Voice of Heart
12. フェイクファー ※初披露
13. スペツナズ ※初披露
14. 龍
15. Okazki Hyper Gymnastic
【第3部】幕間映像(2)「なにをやってもあかんわ」MV
16. Stamp
17. トロッコにのって ※初披露
18. オーディオコメンタリー ※初披露
19. ポーズ~キミの冒険 (medley)
20. Voice of Heart 2
21. XXL
22. The Abyss
<En 1>
23. 鴨川等間隔
24. エクレア ※初披露
<En 2>
25. Explain
■関連リンク
岡崎体育 オフィシャルサイト