石崎ひゅーいが奏でる、“今”の音 『劇場版 誰ガ為のアルケミスト』書き下ろし曲から分析
今風の石崎ひゅーい。モダンな石崎ひゅーい。
こうして字にすると、どうにも違和感を覚えてしまう。なにしろ、何事に対しても体当たりで挑むのがこの男。むしろその正直さ、自分を偽れないまっすぐさが伝わる歌こそが彼の魅力であるのは、言うまでもないからだ。
だからひゅーいの場合は、音楽性に関しても、ストレートでオーソドックスなサウンドやアレンジのほうが相性がいい。むしろ、ちょっと古めかしいもののほうが似合っているくらいである。ロックナンバーでもバラードでも、弾き語りでもバンドサウンドでも、とにかく彼自身の体温や感覚に寄り添ってさえいれば、今っぽい意匠なんて必要ない。そこまで強く意識していたわけではないが、僕自身、なんとなくそんなふうに捉えていた節がある。
しかし、このたびリリースされる「Namida」では、かなり“今”の音が鳴っている。そしてこのことに、ひゅーいがアーティストとして新しい段階に差しかかっている事実を感じるのである。
6月12日から配信される新曲は2曲。その両方とも、14日から全国公開される映画『劇場版 誰ガ為のアルケミスト』のために書き下ろされたものだ。『誰ガ為のアルケミスト』は世界レベルで人気のアプリゲームだそうで、今回はそのアニメーション映画版が制作されたということである。
同作品のストーリーは、自分に自信が持てない女子高生が錬金術と魔法を使って世界を救うというファンタジックなもの。映画の公式サイトの中で、ひゅーいはこんなコメントを寄せている。
「ゲーム原作のアニメーション映画の書き下ろしは初めてだったので自分の楽曲がどのように溶け込んでいくのは不安な部分もありましたが、河森総監督とお話をしていく中で次第にイメージが湧いてきて新鮮な気持ちで挑むことができました」
河森正治は『マクロス』や『アクエリオン』のシリーズで知られるベテランのアニメーション監督で、これが40周年記念作品になるとのこと。ひゅーいはこの総監督と事前に顔を合わせ、そこから楽曲を制作していったようだ。
では『劇場版 誰ガ為のアルケミスト』の主題歌である「Namida」について触れていこう。この楽曲、実は歌やメロディはまさに“ひゅーい節”といった感じで、大きな意外性があるわけではない。とくに切々とした歌声やサビ部分での静かな高揚は、彼の歌を愛してきた者であれば「これこれ!」と思ってしまうような快感を覚えるはずである。なお、この曲は4月下旬に行われたツアー『ゴールデンエイジ』でファンにはお披露目済み。これが仮に弾き語りで唄われても、今までのひゅーいの歌と並べて何の違和感もなく親しまれることだろう。
ただ、今までになかった秀逸さを感じるところもある。それは歌詞だ。ひゅーいは先のコメントで、こうも綴っている。
「キャラクターの心情や背景をイメージしながら制作しました。ストーリーと曲がリンクする事で、より皆さんの心に届く作品になるように心掛けました。劇場で楽曲にも注目してもらえればと思います」
ストーリーの詳細に触れるのは避けるが、事前に公開されている映像からすると、登場人物が涙を流すことが物語のポイントの1つになっている。ひゅーいはそうした視点からこの曲を書き、「Namida」というタイトルをつけたのだろう。