石崎ひゅーいが奏でる、“今”の音 『劇場版 誰ガ為のアルケミスト』書き下ろし曲から分析

石崎ひゅーい『誰ガ為』書き下ろし曲を分析

 といっても、彼の変わらない良さも健在である。今回リリースされるもう1曲の「あの夏の日の魔法」は、『劇場版 誰ガ為のアルケミスト』のエンディングソング。ひゅーいらしい優しいメロディをたたえたスローナンバーで、アコースティックギターとキーボードの絡みはまさに夏の匂いそのもの。歌詞にある、主に学生の目から見た夏の風景は、やはり映画のストーリーからインスパイアされているのだろう。ただ、秘密基地とかゲーセン、ジャングルジムといった描写は、女子高生というよりも、やはり男子(つまりひゅーい自身)が捉えた思い出の夏という趣がある。それと〈病室の花瓶〉という一節も含め、彼の初期作の傾向を今一度思い起こさせる部分も持っている。とても叙情的な味わいを持つ歌だ。

 「あの夏の日の魔法」のサウンドには、「Namida」ほどの新規性はない。ただ、これもおそらくトオミが弾いているキーボードの音色はややGファンク的で、アレンジ全体にアーバンな洗練が感じられる。泥臭くないこの音のあり方は、「Namida」と並べても遜色のないものになっている。

 そんなひゅーいの近況としては、5月にはドイツに渡航していたことをSNSに投稿し、また菅田将暉の2ndアルバム『LOVE』(7月10日発売)に「クローバー」という曲を提供したことも発表されている。

 そして先ほどの「あの夏の日の魔法」は、6月から始まる弾き語りの全国ツアーのタイトルにもなっている。その25公演はどこもこじんまりとした会場が選ばれており、彼の歌を間近で体験する絶好の機会となる。もっとも、この弾き語りのライブ自体、ひゅーいがずっとやって来たこと。変わらない姿勢の表れのひとつだ。

 思えば、ミニアルバム『ゴールデンエイジ』のタイトルの“成長期”という意味は、子供や青年に使われるものだった。そんな言葉を持ち出したあたりには、まだ大人になりきっていない自分への自覚も垣間見えたものである。

 ひゅーいは、それでもこうして、徐々にではあるが、変節の時期を迎えているのだ。その過渡的な感触も含めて、今の彼の歌を味わってほしいと思う。

■青木優
音楽ジャーナリスト/ライター。洋邦のロック、ポップスを中心に執筆。男。妻子あり。Twitterアカウントは、@you_aoki

石崎ひゅーい「Namida」

■配信情報
2019年6月12日(水)配信リリース
石崎ひゅーい「Namida」「あの夏の日の魔法」
「Namida」:『劇場版 誰ガ為のアルケミスト』主題歌
「あの夏の日の魔法」:『劇場版 誰ガ為のアルケミスト』エンディングソング

■公開情報
『劇場版 誰ガ為のアルケミスト』
2019年6月14日「TOHOシネマズ 新宿」他にてロードショー
映画公式サイト

■ライブ情報
『石崎ひゅーい アコースティックTOUR「あの夏の日の魔法」』
6月14日(金)[大阪]世界館
6月15日(土)[兵庫]神戸酒心館ホール
6月28日(金)[福岡]ROOMS
6月29日(土)[熊本]高瀬蔵
7月6日(土)、7月7日(日)[愛知]三楽座
7月11日(木)[宮城]誰も知らない劇場
7月13日(土)[岩手]岩手県公会堂 21号室
7月14日(日)[秋田]秋田THE CAT WALK
7月15日(月)[青森]ねぶたの家 ワ・ラッセ イベントホール
7月20日(土)[新潟]新潟ジョイアミーア
7月21日(日)[茨城]水戸voice
7月26日(金)[北海道]函館⼭⼭頂展望台ホール クレモナ
7月27日(土)[北海道]札幌プラザ2.5 (BFHホール)
8月3日(土)[沖縄]石垣 JAZZ BAR すけあくろ
8月4日(日)[沖縄]桜坂劇場ホールB
8月14日(水)[広島]LiveJuke
8月16日(金)[広島]尾道 汐待亭
8月17日(土)[岡山]MO:GLA
8月18日(日)[島根]松江 興雲閣
8月30日(金)[福島]郡山市公会堂
8月31日(土)[山形]山形県郷土館・文翔館議場ホール
9月1日(日)[宮城]気仙沼K-Port
9月7日(土)、9月8日(日)[東京]浅草花劇場

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