SHISHAMOが放ち続けるエネルギーと瑞々しさ ベスト盤を機に辿るバンドの成長の軌跡
また「明日も」は、NTTドコモのCMソングに抜擢され、紅白でも披露した現時点において彼女たちの代表曲とも言える1曲だ。〈良いことばかりじゃないからさ 痛くて泣きたい時もある〉〈ダメだ もうダメだ 立ち上がれない そんな自分変えたくて 今日も行く〉と、ポジティブなメッセージの込められた歌詞が幅広い世代に響き、バンドの知名度も評価も一気に押し上げた。『SHISHAMO BEST』では、それらが年代順ではなく新旧織り交ぜて並べられている。すべての楽曲を並列に配したことで、むしろ自身の目指す音楽に向かうブレない姿勢が露わになったかたちだ。まさに、どこをとってもSHISHAMO。バンド結成時の初期衝動のような瑞々しさを失わずに走り続けている彼女たちの姿が、しっかりと刻まれている。
初めて恋人ができた抑えきれない喜び(「僕に彼女ができたんだ」)、片思いの相手に好きな女の子がいると知った時の哀しさ(「君とゲレンデ」)など、青春時代に誰もが経験する普遍的なシーンを、等身大の言葉とエモーショナルな音で表現してきたSHISHAMO。そこに描かれるのは決してキラキラした輝きばかりではない。苦く切なくやるせない赤裸々な心にも目を背けることなく向き合ってきた。誰にも吐き出せずにいた思いを歌にしてくれるバンド。彼女たちを取り巻くリスナーが、まるで“戦友”に向けるような眼差しを注ぐのもそれゆえだろう。SHISHAMOの奏でるロックのエネルギー源は、紛れもなく彼女らの音楽に共感するファンたちにあるのだ。
9月にはベストアルバムの発売を記念して、『SHISHAMO NO BEST ARENA!!!』が、大阪城ホールとさいたまスーパーアリーナでそれぞれ開催されることも決定。単独公演として過去最大キャパシティのライブとなるだけに、盛り上がりも最高となることが期待できる。5年間を支えたファンの前で披露するパフォーマンスは、きっと彼女たちにとっても新たな音楽を生み出す原動力となるに違いない。
■渡部あきこ
編集者/フリーライター。映画、アニメ、漫画、ゲーム、音楽などカルチャー全般から旅、日本酒、伝統文化まで幅広く執筆。福島県在住。