Awichと唾奇は自身のリアルをラップに昇華する カップリングツアー目前、両者の魅力を解説

 唾奇の名前を知ったのは、CHICO CARLITOのアルバム『Carlito's Way』に収録された「一陽来復 ft.CHOUJI,唾奇(Beats by Sweet William)」だった。「ツバキ」という音の響きとは裏腹な「唾」と「奇」という漢字の毒々しさに驚いた。そして唾奇は、美しいメロディに乗せてハードなリリックを陽気にラップする。この曲で彼が自分のバースで歌う〈ヤクザのパイセン/シャブ食ったMy Men〉というワードが気になって、すこし沖縄のことを調べてみた。その中で『ヤンキーと地元 解体屋、風俗経営者、ヤミ業者になった沖縄の若者たち』(筑摩書房)という本を知った。そこには沖縄における地元という概念、先輩との関わり、その背景にある沖縄の経済的厳しさが描かれていた。

CHICO CARLITO/一陽来復 ft.CHOUJI,唾奇 Beats by Sweet William

 唾奇のいた場所がこの本に描かれた状況と同じということではないが、彼のラップを聴いたり、インタビューを読んだりする限りはそう遠くない環境で生きてきたように思えた。詳細は『ヤンキーと地元〜』を読んでいただきたいが、沖縄には貧困に生きる人たちがどん詰まりから抜け出せない構造がある。唾奇にとってヒップホップは自身の置かれた状況を劇的に変えるための手段だったのかもしれない。

 唾奇の曲を聴いていると、よくレゲエを思い出す。レゲエは陽気な音楽で、日本でも「夏といえば……」といった認識がされている。そのイメージは間違っていないけれど、別の側面もある。ジャマイカは非常に治安が悪い。私自身が現地に行って直接取材をしたわけではないため偉そうなことは言えないけれど、関連書籍を読んだり映画を観たりした上で、レゲエの背景にはさまざまな悲しみや葛藤があることを知った。それを乗り越えての、あの陽気な音楽なのだということを。

 唾奇は以前ライブのMCで「俺の不幸で踊ってくれ」と言っていたそうだ(CDジャーナルインタビューより)。ラップは歌よりも言葉の数が多い分、個人の生き様や、感性の豊かさがリリックに表れやすい。それがよく言われる“言葉の重さ”で、故にリアルであることが求められる。彼は前述の記事で「俺のリリックの内容でドープなトラックでやると、さらに重たくなっちゃうんですよ」とも話している。唾奇の曲にはポップなメロディやアレンジの曲が多いため、構えずに聴けるし、楽曲の生まれた背景を知らなくても十分に楽しめる。しかし、言葉の裏にはさまざまな感情がある。だからこそ人の心に届くし、もう一度聴きたい、また聴こうと思わせるのではないだろうか。

 カップリングツアーというと、近年ではAKLOとZORNがジョイントツアーを開催していた。同じヒップホップでも両者のスタイルはかなり異なっていたが、ライブではそれぞれのファンが違うスタイルを認め合って、とんでもなく爆発的な盛り上がりを見せていて、ヒップホップの精神であるリスペクトとユニティを体験することができた。Awichと唾奇のツアーは果たしてどんな内容になるのだろうか? やはりスペシャルなコラボセッションなどもあるかもしれない。互いをリスペクトして違うスタイルがユニティする瞬間は本当にヒップホップだ。しかも二人はめちゃくちゃリアルなアーティスト。歌って、踊って、アガって、泣いて。こちらが想像する以上に、濃厚な音楽体験を届けてくれるはずだ。

■宮崎敬太
音楽ライター1977年神奈川県生まれ。「音楽ナタリー」「BARKS」「MySpace Japan」といったインターネットサイトで編集と執筆を担当。2013年に巻紗葉名義でインタビュー集『街のものがたり 新世代ラッパーたちの証言 (ele-king books) 』を発表した。2015年12月よりフリーランスに。柴犬を愛している。

■ツアー情報
『Awich×唾奇 Supported by Reebok CLASSIC』
6月14日(金)名古屋 CLUB QUATTRO
6月15日(土)梅田 CLUB QUATTRO
6月29日(土)恵比寿 LIQUIDROOM
6月30日(日)沖縄 音市場

<Awichバンドセット>
Vocal : Awich
Piano : 丈⻘(SOIL&”PIMP”SESSIONS、J.A.M)
Bass : 秋田ゴールドマン(SOIL&”PIMP”SESSIONS、J.A.M)
Drums : みどりん(SOIL&”PIMP”SESSIONS、J.A.M)
Manipulator : 社⻑(SOIL&”PIMP”SESSIONS、J.A.M)
Percussion : 小林うてな ※沖縄公演は除く
Chorus : Meg
Chorus : 綿引京子

<唾奇バンドセット>
Vocal : 唾奇
Drums : 荒田洸(WONK)
Bass : 井上幹(WONK)
Sax : 安藤康平(MELRAW)※沖縄公演は除く
Keyboard : George(MOP of HEAD)
Guitar : 小川翔 ※沖縄公演は除く
MPC : Disk Nagataki
MPC : hokuto

時間:開場 18:00/開演18:45
料金:前売 ¥5000+D代別
チケット:各プレイガイドにて5月18日10:00から一般発売開始

■関連リンク
Awich公式HP
唾奇 Twitter

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