『藤巻亮太 弾き語りLIVE TOUR “In the beginning”』
藤巻亮太の音楽は強い意志をもって続いていく 『弾き語りLIVE TOUR』Zepp Tokyoレポ
藤巻亮太が2019年4月29日、Zepp Tokyoで『弾き語りLIVE TOUR 2019 “In the beginning”』の東京公演を行った。2012年に3人組バンド、レミオロメンの活動を休止し、同年よりソロ活動を行ってきた彼は、昨年、所属事務所から独立。本ツアー直前の今年4月にリリースした新作アルバム『RYOTA FUJIMAKI Acoustic Recordings 2000-2010』でアコースティックアレンジによるレミオロメン時代の楽曲のセルフカバーに正面から取り組み、ソロアーティストとしての大きな節目を迎えつつある。そんななか、弾き語りライブと銘打った今回のツアーは、全20公演のうち、この日を含め、Zeppで行われた4公演のみ、弾き語りとバンドが同居した変則的なセットリストが組まれた。
開演直前の場内に流れていたのは、アイリッシュソウルシンガー、ヴァン・モリソンが伝説的なソロのキャリアを幕開けた最初の1曲「Astral Weeks」だ。その選曲には、7年のソロ活動を通じ、レミオロメンとして築き上げてきたものとソロとして築き上げるべきもの、過去、現在、未来……その全てを受け入れたことで新たなスタートラインに立った彼の偽らざる心境が重ねられていた。
藤巻は、独りステージに登場すると、レミオロメンのメジャーデビュー曲「電話」をアコースティックギター一本で歌い始め、静かに、そして、力強く、ライブを幕開けた。続いたのは、自らが新しい世界に通じる扉を開ける鍵になろうと歌う「マスターキー」に情熱の炎が欠けた月を輝かせる「指先」。技巧を交えつつもミニマムなアコースティックアレンジが施されたソロ曲2曲の弾き語りが、強さと繊細さを兼ね備えたボーカルの豊かな表現力と曲に込めた思いの強さを際立たせた。そして、「永遠と一瞬」ではドラムに河村吉宏(よっち)を迎え、レミオロメン時代の感情を激しく増幅してみせると「五月雨」からベースのなかむらしょーこが加わったトリオ編成へ。同じ編成とあれば、当然、レミオロメンを思い起こさずにはいられないが、それ以上に、ミニマムな編成からマキシマムな創造性が引き出されうる3ピースに対する彼のこだわりや過去の経験を踏まえ、新たな表現の可能性を模索しようという前向きな姿勢が強く印象に残った。
ストリングスやキーボードをフィーチャーした原曲の解放感がタイトでソリッドなバンドアンサンブルへと見事に変換された「Sakura」をはじめ、ベースの太いファンクグルーヴが躍動感をもたらした「南風」や昭和歌謡的な原曲がシンセパッドを交えて、モダナイズされた「昭和」。パワーバラードにリアレンジされた「春景色」、疾走感はそのままにオルタナティブな質感が与えられた「雨上がり」。数々のレミオロメン・クラシックに新たな息吹が吹き込まれる一方で、ソロ作品からは「紙飛行機」と「北極星」、今という瞬間を肯定する「日日是好日」、ソロ以降に強まったロック色を象徴する「花になれたら」、「ゆらせ」を披露。そして、ラストは新曲「僕らの街」だ。静岡と藤巻の地元山梨を繋ぐ中部横断自動車道のCM用に新たなに書き下ろされたこの曲は、日常の機微に目を向けてきた藤巻が街での日々の暮らしとこの先も続くささやかな幸せをミッドテンポの楽曲と確かな言葉で描いたもの。過去と現在を繋げた藤巻亮太の眼差しはその先の未来へと向けられた。
アンコールは、レミオロメンがフジテレビ系列の北京オリンピックテーマソングとして発表した「もっと遠くへ」。東京オリンピックを翌年に控え、藤巻が辿った長い道のりを想起させながら、トリオ編成による演奏がストリングスをまとった原曲に引けを取らない壮大な楽曲世界を表現した後、マイクを用いず、弾き語りで歌われたのは代表曲「粉雪」。かつてはレミオロメンとソロでいかに差別化を図るか。また、ソロでどんな音楽性を追求していくかで試行錯誤を重ねてきた彼は、ありのままの歌と以前より遥かにたくましく、クリアな響きで会場を満たすと、この日のライブを終えた。光明が差す藤巻亮太の音楽活動は、強い意志と確かな足取りと共に今後も続いていくことだろう。
(文=小野田雄/写真=樋口 涼)
■公演情報
『藤巻亮太 弾き語りLIVE TOUR “In the beginning”』
日程:4月29日(月)開場16:00/開演17:00
場所:東京・Zepp Tokyo
・バンドメンバー
藤巻亮太(Vo, Gt)
河村吉宏(Dr)
なかむらしょーこ(Ba)
・セットリスト
M1. 電話
M2. マスターキー
M3. 指先
M4. 永遠と一瞬
M5. 五月雨
M6. Sakura
M7. 南風
M8. 紙飛行機
M9. 昭和
M10. 春景色
M11. 北極星
M12. 日日是好日
M13. 花になれたら
M14. ゆらせ
M15. 雨上がり
M16. 僕らの街
EN1. もっと遠くへ
EN2. 粉雪