松岡侑李として初のワンマンライブ 観客との間に築かれた“鏡”のような関係

松岡侑李、1stライブレポート

 歌唱の熱を落とすことなく、いよいよ後半戦へ。「零度」で身を焦がすように熱唱しては、「魂は消えない」で微笑みかけるなど、曲ごとに表情、動きを変えるのを忘れない。『.C』リード曲、「Bite the Bullet」の間奏ではバンドメンバーがステージ前方に身を乗り出し、演奏を披露する場面もあり、会場の熱を沸点へと導いていく。次が最後の曲と言い放った後に、寂しいといわんばかりの観客の声が上がると、松岡は笑みを浮かべてから、「ありがとう」と発した。観客の鏡に映った気持ちが、自分と同じ気持ちだとわかり、愛おしいと思えた時の笑みなのだろう。その一言は短いながらも、大きな感謝の意が込められているようだった。「初めて自分の素直なそのままの想いを乗せた一曲。次は僕が君たちを連れ出す番だよ」と優しさ滲む声で告げ、本編ラストに披露したのは、松岡が結城アイラとともに作詞を担当した「まだ見ぬ僕らの世界へ君を連れ出してみようか」。男性視点の歌が美しく感じられるのは、女性ならではの繊細な部分を持ち、かつ芯の通った松岡が歌うからだろう。伸ばす片手で、観客をまだ見ぬ新しい世界へ連れ出そうとする、等身大の松岡を見て、会場中が笑顔に包まれた。

 アンコールでは、初タイアップ曲(TVアニメ『臨死!!江古田ちゃん』エンディングテーマ曲 第12話)となった「Dear Gemstones」を初披露し、強勢なバンドサウンドが会場ごと揺らしていく。

 最後のMCでは、いかさん名義で開催した、『いかさん生誕祭2017』の後、喉の手術をして再手術するに至った経験や、昨年の9月22日の『いかさん生誕祭2018』で、2019年に松岡侑李名義のアルバムをリリースすることを発表してから、この日までの歩みを振り返る場面もあった。「ここまで来て辛いことも分からないこともあった。本当にどうしようもなくなって一度深呼吸をして振り返って後ろを見てみたこともある。そしたらね、信じて応援してくれてついてきてくれる皆がいた。自分の明日を初めて心から愛することができたのは、皆のおかげだよ。本当にありがとう。10年後は同じ景色が見れると確信している。楽しみで仕方がない。さぁ、どんな明日を見ようか」と伝え、ラストに届けたのは「TEN YEARS AFTER」。曲中、松岡も観客もそれぞれに10年後の自分を描いたことだろう。松岡の言うように、松岡と観客は本当に鏡のような関係でありながらも、この先お互いがどのような道を歩むかはわからない。それでも、今こうして同じ場所に同じ思いを持った者同士として居合わせている。それは奇跡だ。松岡は、そんな奇跡がこれからも重なっていくことを期待しつつも、今ある、この幸せを噛み締め、この日を締め括った。

 メンバーが去った後、ステージ脇でもお辞儀をし、手を振るなど、最後まで会場に向けての感謝を伝えることを忘れなかった松岡。一回限りのこの日のステージで、精一杯に届けた松岡の思いが、相対する鏡に反映し、この先も続いていくことを願う。

(写真=岡本麻衣(ODD JOB))

■小町 碧音
1991年生まれ。歌い手、邦楽ロックを得意とする音楽メインのフリーライター。高校生の頃から気になったアーティストのライブにはよく足を運んでます。『Real Sound』『BASS ON TOP』『UtaTen』などに寄稿。
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■セットリスト
1.Burn!
2.イディオティックエレジー
3.GlossyXXX
4.Starting Chapter
5.Mind Bounce
6.ジプソフィラ
7.Louder!Louder!
8.Beyond all…
9.E.X.I.T
10.サヨナラのうた
11.零度
12.魂は消えない
13.Bite the Bullet
14.まだ見ぬ僕らの世界へ君を連れ出してみようか

En1.Dear Gemstones
En2.TEN YEARS AFTER

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