堀込泰行は予想のつかないミュージシャンだ 最新ツアーのライブに満ちた意外性

 ライブは「スクランブルのふたり」からスタート。〈俺の未来をつかまえるんだ〉というみずみずしく前向きな歌詞、ニューアルバムの方向性をよく示す1曲で今回のライブが始まったことが嬉しい。1カ月のツアー期間を経て、バンドとしての一体感が生まれてきた最終日、メンバーが演奏を楽しんでいる様子が伝わってくる。「砂漠に咲く花」「Cherrs!」とニューアルバムからの楽曲がつづけて披露される合間に、堀込泰行名義の1stアルバム『One』やソロプロジェクト・馬の骨、さらにはキリンジの曲も合わせて演奏された。特に記憶に残るのは「Chewing Gum On The Street」「エイリアンズ(Lovers Version)」など、ライブPA内田によるダブ処理が加味された楽曲。生演奏でしか体験できないパワフルなサウンドがすばらしい。

 やや口下手なMCも見どころである。演奏を終えた堀込泰行が「さて、ここからはどうでもいい話をする部分なのですが……」と律儀に前置きするところは、いかにも彼らしく、こうしたキャラクターもまたファンに応援されるゆえんであると感じる。また「各会場でさまざまなトークを試みたが、観客からは失笑が漏れるばかりで、数多くの失笑がボディーブローのように効いてきた」という話で、会場がどっと湧くのも実にいい。「滑舌教室に通おうかな」と言おうとして、肝心の「滑舌教室」の語を噛んでしまうなど、どんな話がでてくるのかわからない、話し始めた内容がどこへ着地するのかもわからない、そんな堀込泰行ならではのMCもまた、予想がつかないミュージシャンらしい自由さに満ちている。

 今回のライブは、ギタリスト堀込泰行の魅力を再発見するものでもあった。わけても、白いテレキャスターに持ち変えて演奏した楽曲「Destiny」「最低速度を守れ!」などでは、非常に熱の込もったギターソロが演奏され、セットリスト全体を通してもいちばんの盛り上がりが見られた。積極的にギターを弾くツアーにしようという狙いがあったのかどうか、「最低限度を守れ!」のようなギターが前面に出た曲を選んだ点にも、今回のテーマが見えたように思う。トータルで20曲以上の演奏をエネルギッシュにこなしたバンドは、ニューアルバムのリードトラック「WHAT A BEAUTIFUL NIGHT」をプレイしていったんステージを降り、アンコールで「燃え殻」「足跡」の2曲を披露したところでライブは終了。ふりかえってみれば、やはり予想のつかない演奏、意外性を体験させてくれる貴重なライブであった。

■伊藤聡
海外文学批評、映画批評を中心に執筆。cakesにて映画評を連載中。著書『生きる技術は名作に学べ』(ソフトバンク新書)。

(写真=立脇卓)

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