はるまきごはん、キタニタツヤ、堀江晶太……ボカロ/歌い手カルチャーが拓くアニメ音楽の新潮流

ボカロ/歌い手カルチャー拓くアニメ音楽の新潮流

 2016年にTVアニメ化されて好評を博したワザワキリ原作の人気コミック『不機嫌なモノノケ庵』。現世(うつしよ)に留まる妖怪を隠世(かくりよ)へと導く「妖怪祓い」を生業とする物怪庵の主・安倍晴齋と、彼の奉公人として妖怪祓いを手伝うはめになった主人公・芦屋花繪のコンビが、様々な人々や妖怪と交流しながら互いへの理解を深めていく、現代の日本を舞台にした心温まるファンタジー系ヒューマンストーリーだ。

ウォルピスカーター MV 『1%』

 そのTVアニメ第2期として今年1月より放送されているのが『不機嫌なモノノケ庵 續』(TOKYO MXほか)。キャラクター同士の関係性や心の繋がりなどを主題に置いたストーリーは前作と同様だが、今回はアニメ『戦国BASARA』『パパのいうことを聞きなさい!』などの川崎逸朗が新たに監督を務め、彼の代表作である『レンタルマギカ』や『レディ ジュエルペット』などで仕事を共にしていた音楽家・市川淳が劇伴音楽を担当。作品の世界観とリンクする和のテイストもほんのりと感じさせつつ、それを強調しすぎない柔らかなメロディの楽曲が多く、『不機嫌なモノノケ庵』という作品におけるヒューマンドラマ志向の部分を巧みに演出している。

 そんな本アニメで毎回、物語の終わりに爽やかかつ甘酸っぱい余韻を与えてくれるのが、“高音出したい系男子”として人気の歌い手・ウォルピスカーターによるエンディングテーマ「1%」。コーラスやハーモニーを幾重にも重ねた美麗なハイトーンボイスと、エレクトロニカ要素の強いポップでファンタジックなサウンド、サビの〈きらめいてきらめいて メロンソーダ こぼれちゃったような午前0時〉というフレーズに象徴される幻想的で詩情豊かな歌詞は、どこか青春時代の切ないきらめきを感じさせるもので、川崎監督みずから絵コンテ・演出を担当したエンディングアニメの美しい情景も相まって、今期のアニメのなかでも非常に印象に残る楽曲になっている。

 この鮮烈な名曲を作詞・作曲・編曲したのが、今ボカロシーンで注目を集めている新世代クリエイターのはるまきごはん。楽曲はもちろん、イラストや動画もみずから制作し、「八月のレイニー」(2015年)、「銀河録」(2016年)、「ドリームレス・ドリームス」(2017年)など、数多くの投稿動画が殿堂入りを果たしているマルチな才能を持った存在だ。青々しくもメルヘンチックな世界観が魅力の彼は、すでに『BLUE ENDING NOVA』(2016年)、『ネオドリームトラベラー』(2018年)という2枚のボカロアルバムをリリース。また自身で歌唱も行い、3月2日には初のワンマンライブ『ドリームシネマ』を成功させている。楽曲提供という面でも、そらる、ナナヲアカリなどの実績を持っているが、アニメソングを手がけたのは「1%」が初めて。だが、その作風とアニメとの相性の良さは今回の楽曲で実証されたと言っていいだろう。

【sajou no hana】「メモセピア」(TVアニメ「モブサイコ100 Ⅱ」エンディングテーマ)

 そして実は、今期のTVアニメの主題歌においては、はるまきごはんの他にも多くのボカロカルチャーをルーツに持つクリエイターが、作家もしくはアーティストとして起用されている。例えば、こんにちは谷田さん名義で「芥の部屋は錆色に沈む」(2016年)などのボカロヒットを生んできたことで知られるキタニタツヤ。現在はシンガーソングライター、ベーシスト、作曲家としても活動する彼は、2018年に作曲家の渡辺翔、シンガーのsanaと共にsajou no hanaというバンドを結成。同バンドでTVアニメ『モブサイコ100 II』のエンディングテーマ「メモセピア」を担当しているほか、「グレイ」「目蓋の裏」といった話数限定の特殊エンディング曲も提供。さらにMOB CHOIR feat. sajou no hana名義で同アニメのオープニングテーマ「99.9」も手がけており、キタニはこの曲で作詞・作曲・編曲を行っているほか、sanaと共に歌も歌っている。ベーシストらしいリズム面での主張を感じさせつつ、ヒップホップやEDMなどの現行の洋楽シーンも見据えたオリジナリティーのあるサウンドメイクは、今後のアニソンシーンでも重宝されることになりそうだ。

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