『MUSIC FOR ANIMATIONS』インタビュー

TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND、音色や響きを突き詰めたアニメ音楽の歩み

音が揺れるからこそ人にとって気持ちいい部分を探すことができる

――ディスク2で他に印象に残っている曲はありますか?

松井:僕は「ロ・ロ・ロ・ロシアン・ルーレット」(中原めいこの『ダーティペア』OPテーマのカバー)。「アニソン」「(ロシア好きの)上坂すみれさん」というキーワードだけで「ロ・ロ・ロ・ロシアン・ルーレット」を選んでしまえる無茶加減は、アニソンでしか出来ないのかな、と思います。きっと上坂さんのことを知っていないと、「どうしたの?」と思うじゃないですか(笑)。僕らと上坂さんとが直近でお仕事をさせていただいたからこそだということも理解していないと、「何でここで?」とビックリしてしまうかもしれない。でも、それができるのが面白いところだと思います。それに、僕ら自身のアーティスト名義の楽曲で、ボーカリストの人自体にここまで寄り添って曲を作ったのも珍しい経験でした。上坂さんありきで作った選曲/アレンジ/年代というものを、僕らがどう調理していくか、という意味で。原曲はブラスが印象的でしたけど、石川にブラスを入れるか聞いてみたら……。

石川:「入れない」と伝えました。すっからかんにしてやろう、と(笑)。

松井:普通のアニソンの文脈で言うと、音がたくさん詰まっている方が喜ばれるじゃないですか。それもあって、あえてスカスカにするということを楽しんだ曲ですね。

――上坂さんのボーカリストとしての魅力というと、どんなところだと思いますか?

フジムラ:楽曲提供をした「CUBIC FUTURISMO」も「リバーサイド・ラヴァーズ(奈落の恋)」もそうですし、ラジオでお話させていただいてもそうですけど、上坂さんは、おそらく「こういうものを目指してこういうものを作っている」ということを理解してくださっていて。それに合う歌い方やニュアンスを、言わなくても出してくれるんです。例えば、「80年代のここがおいしいノリだよね」という要素を入れてくれるんですよ。

恋する図形(cubic futurismo)/上坂すみれ

松井:やっぱり、オリジナルを知っているということですよね。

フジムラ:高野さんもそうでしたけど、共通言語があるというか。

――ちなみに、今回の『MUSIC FOR ANIMATIONS』には、TECHNOBOYSさんバージョンの「CUBIC FUTURISMO」も収められています。

石川:これは狂気の沙汰ですね(笑)。

松井:原曲自体も僕ららしいサウンドではあったと思うんですけど、より自分たちだけのサウンドにしようと思って、歌も行き切ったものにしました。

フジムラ:昔の松井唱法なんですよね。

松井:デヴィッド・バーンやデヴィッド・シルヴィアンを聴きすぎていた頃の……(笑)。

石川:「♪And you may find yourself~」(Talking Headsの「Once in a Lifetime」の歌い出しを歌いはじめる)

――確かに、松井さんの歌はデヴィッド・バーンそのものという感じがします(笑)。「もってけ! セーラーふく EX.Motte[k]remix」についても教えていただけますか? これは随分昔、2006年頃のものですね。

石川:トラックをもらって、ボーカルトラックしか使わなかったといういわくつきのリミックスですね(笑)。

松井:「普通じゃないものの方が面白いだろう」と思って、全然違うものにしていきたいと思っていたんです。あと、今思うと間違えているのは、こういう曲って声優さんの声を聴くことを楽しみにしているわけじゃないですか。なのに、エフェクトをかけまくって、切り刻みまくって……。

フジムラ:ラジオボイスにしたりもして。

――しかも、ほぼ白石稔さんの声しか入っていないですよね(笑)。今でこそ、アニソンでここまで攻めたリミックスをしても受け入れられる状況が生まれていると思いますが、この頃はそうではなかったと思います。

石川:そうですよね。きっとこれのせいだと思います(笑)。

松井:オーディオのクリップノイズをあえて入れている部分も……。

石川:「不良品ですか?」と、当時のランティスに苦情が来たらしいです(笑)。

松井:今思うと、このときに考えたアレンジの仕方を、その後も受け継いでるな、とも思いますね。たとえば、コードを全部サンプリングしてからぶった切るから、手間が二倍かかる、とか(笑)。しかも、ソフトシンセならまだいいですけど、アナログシンセでのレコーディングなので、コードをちょっと変えるだけでも、全部をやり直す必要が出てきてしまう。

石川:(フジムラさんと松井さんを見ながら)こいつらがよくやるんですよ……! 「この一音……。この一音だけが違うんだよ……!!」って。

松井:石川くんのコード、難しいんだもん(笑)。

――音にこだわられている方々だからこその苦労ですよね。

松井:その極みが『魔法陣グルグル』の劇伴ですね。全部アナログシンセで作るという……。

フジムラ:あれは大変だった……。いまだに考えると怖いですよね。よくやったな、と。

松井:そんな作品なのに、僕は途中で一回、他の仕事のPro Toolsのデータを読んでしまって。いつもと設定が変わってしまったことに気づかずに作業して……。全部データを書き直すという経験をしました(笑)。しかもそれが、トラックダウンの日だったんです。すぐに家に帰ってやり直しましたね。

――楽曲のスマートな雰囲気に反して、実際の作業は血と汗と涙の歴史なんですね。

フジムラ:そうですよ、本当に(笑)。グルグルの頃は僕の家に和音のアナログシンセが2台しかなかったので、それを使い倒して、どうにも違ったらモノシンセを何個か重ねたりして。「今は一体何年だ? 俺は一体何をしているんだ……?」と思ったりもしていましたね。

――(笑)。そうまでしてアナログシンセの音にこだわるのは、なぜなんでしょう?

石川:まずは意地(笑)。あとはやっぱり、音にそれが出るんですよ。プラグインシンセサイザーだけを使った音をTVで聴くと、どうしても立体感が全然なくなってしまう。

――音に対する至上主義であるからこそ、その方法を変えない、と。

石川:そうです。アナログで出す音って、ピッチが一定じゃないんですよね。和音のシンセであっても、単音のシンセであっても、音が揺れるからこそ、人にとって気持ちいい部分を探すことができる。たとえば、ジャズの生演奏も、ミュージシャン同士のお互いの気持ちいいリズムが「合って」「離れて」「また合って」「また離れて」ということを繰り返すからこそ、人が聴いていて気持ちいいものになると思うんですよ。

――音楽自体が「音と音をあわせて生まれるもの」だからこそのお話なのかもしれません。

松井:そうですね。ずっとピタッとはまっていたら、意外と面白くないものになる。同じ音階の音を出したとしても、その出し方によって、受ける印象は全然変わってくるんです。

フジムラ:これは本当に不思議なことで。でも、やっぱり全然違うんですよ。

石川:だからこそ、アナログシンセにこだわることは大切にしていますね。

――では最後に、2枚組のラストに収録された新曲の「ORB」についても聴かせてください。この曲はどんな風に作っていったんですか?

石川:この曲では、アルバムの最後に「25周年の先を見せたい」と思っていました。そこで「イメージが広い音楽を作れたらいいな」と考えていましたね。

――よくテクノやハウスのアルバムやミックスCDで、最後に未来に向かっていくような雰囲気の楽曲が挿入されて終わるものがありますよね。そういうイメージですか?

石川:はい、それを意識していました。未来的な音楽がイメージできる曲、ですね。

フジムラ:あとは、アルバムの最後の曲なので、「3人で完結させたいね」と話していました。歌詞もTECHNOBOYSが25年間でやってきた言葉数の少ないもので、内容も「あるようでない」「ないようである」という雰囲気になっていて。集大成とまでは言わないですが、TECHNOBOYSがやってきたことのミックスになっていますし、これからのことを暗示するようなものにしたいと思っていました。この曲にはSIMMONS(「トゥーン」という音が印象的なシンセドラム)の音も入っていないですし、タイトルも3文字で、アルバムのラスト曲として3人だけで完成させた曲ですね。

松井:エンドロール的にこういう曲を入れたい、という気持ちでした。映画の最後に主題歌が流れて、盛り上がったあとに雰囲気の違う曲が流れる瞬間があるじゃないですか? あのイメージです。新しいことをやりつつも、ヴァンゲリスの匂いがしたりもする曲で、TECHNOBOYSのルーツ感もあるような、全部があるような曲になっていると思います。それに、「グラデーションが見える音楽が大切になってくるんじゃないか」ということを石川がずっと言っていたので、音数が少ないものにもなっています。

石川:せっかく高いリバーブを使っているんだから、それをしっかり聴いてもらえるような音楽があってもいいんじゃないかな、と思うんですよ。


松井:ベスト盤のインタビューの最後の話が「リバーブを聴け」(笑)。しかも、アナログシンセの話をあれだけしたのに、最後は「最新のデジタルリバーブがいい」という話で……。でも、その感じがいいのかな、と思いますね。それがTECHNOBOYSらしいと思うので。

(取材・文=杉山仁/写真=はぎひさこ)

TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND『MUSIC FOR ANIMATIONS』

■商品情報
『MUSIC FOR ANIMATIONS』
¥3,200(税抜価格)+税
2019年3月27日(水)

▼disc-1
1.打ち寄せられた忘却の残響に(TVアニメ『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』ED主題歌)
TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND feat. 大竹佑季
2.WHIMSICAL WAYWARD WISH(TVアニメ『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ ドライ!!』ED主題歌)
TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND feat. 幸田夢波
3.Round&Round&Round(TVアニメ『魔法陣グルグル』ED主題歌)
TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND feat. ボンジュール鈴木
4.Magical Circle(TVアニメ『魔法陣グルグル』2クール目ED主題歌)
TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND feat. 中川翔子
5.Wind Climbing ~風にあそばれて~(TVアニメ『魔法陣グルグル』挿入歌)
TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND feat. 奥井亜紀
6.ISBN ~Inner Sound & Book’s Narrative~(TVアニメ『ガイコツ書店員 本田さん』OP主題歌)
TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND feat. 本田(CV.斉藤壮馬)
7.Book-end, Happy-end(TVアニメ『ガイコツ書店員 本田さん』ED主題歌)
TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND feat. 高野 寛
8.ウィッチ☆アクティビティ(TVアニメ『ウィッチ☆クラフトワークス』EDテーマ)
KMM団(倉石たんぽぽ(CV.井澤詩織)、宇津木環那(CV.夏川椎菜)、飾鈴(CV.麻倉もも)、目野輪冥(CV.飯田友子)、桂虎徹(CV.日岡なつみ))
9.BEAUTIFUL≒SENTENCE(TVアニメ『トリニティセブン』エンディング・ソングTheme1)
メイガス・トゥー(浅見リリス(CV.原 由実)&神無月アリン(CV.内田 彩))
10.SIX SAME FACES ~今夜は最高!!!!!!~(TVアニメ『おそ松さん』EDテーマ)
イヤミ feat. おそ松×カラ松×チョロ松×一松×十四松×トド松(CV.鈴村健一、櫻井孝宏、中村悠一、神谷浩史、福山 潤、小野大輔、入野自由)
11.LoSe±CoNtRoL(TVアニメ『紅殻のパンドラ』ED主題歌)
七転福音(CV.福 沙奈恵)、クラリオン(CV.沼倉愛美)
12.TRUE LOVE(TVアニメ『ひとりじめマイヒーロー』EDテーマ)
大柴康介(CV.前野智昭)、勢多川正広(CV.増田俊樹)、支倉麻也(CV.立花慎之介)、大柴健介(CV.松岡禎丞)
13.LAYon-theLINE(TVアニメ『賭ケグルイ』EDテーマ)
D-selections
14.BAKA BONSOIR!(TVアニメ『深夜!天才バカボン』OPテーマ)
B.P.O -Bakabon-no Papa Organization- (古田新太、入野自由、日髙のり子、 野中 藍、森川智之、石田 彰、櫻井孝宏)
15.KI-te MI-te HIT PARADE!(TVアニメ『叛逆性ミリオンアーサー』ED主題歌)
パーリィ☆フェアリィ(ナックラヴィ(CV.茜屋日海夏)、ティターニア(CV.高橋李依)、クーピー(CV.東山奈央)、ブリギッテ(CV.芹澤 優)、ボダッハ(CV.三森すずこ)、ベトール(CV.日高里菜)
16.幻想レボリューション(TVアニメ『コンクリート・レボルティオ~超人幻想~』第6話挿入歌)
マウンテンホース(TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND feat. 松岡英明)
17.DOKURO ~恍骨礼讃歌 第1章~(TVアニメ『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』挿入歌)
聖鬼-MkⅡ
18.恋のロシアンルーレット(TVアニメ『賭ケグルイ』9話EDテーマ)
蛇喰夢子(CV.早見沙織) & 夢見弖ユメミ(CV.芹澤 優)

▼disc-2
1.風の想い出 ~La Mémoire Perdue~
火々里綾火(CV.瀬戸麻沙美)
2.Sakurako’s Investigation
3.Ein Thema Prisma Illya 3rei!!
4.ex-ist/entia
5.Application Metrics
6.MAGUS MODE
7.ENTER THE NEW WORLD!
入野自由
8.Salty Squid
Salty Dogs
9.ロ・ロ・ロ・ロシアン・ルーレット
TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND feat. 上坂すみれ
10.夏と猫のソネット
TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND feat. 井澤詩織
11.もってけ! セーラーふく EX.Motte[k]remix
Remixed by TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND
12.M-6 remixed
Remixed by TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND
13.ヒャダインのカカカタ☆カタオモイ-C ”Forbidden Cats” sakamoto playing the Orchestronica REMIX
Remixed by TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND
14.CUBIC FUTURISMO
15.Nervous Sightseeing
16.ORB

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