King Gnuはポップミュージックの価値基準をひっくり返す 「白日」から楽曲のユニークさを解説
さらに「白日」が配信リリースされた2月22日に、King Gnuは『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)に初登場を果たした。披露したのはアルバム『Sympa』収録曲の「Slumberland」。拡声器を用いた常田大希(Gt/Vo)の刺々しいボーカルから、井口理(Vo/Key)の色気ある歌声、勢喜遊(Dr/Sampler)と新井和輝(Ba)のリズム隊のテクニカルな演奏と、そのパフォーマンスがかなりのインパクトを視聴者に残したのは間違いない。ここで4人の姿を初めて見たという人も少なくないはずで、一つのきっかけになったことは明白だ。
ただ、最も大きいのは、やはり楽曲の力だと思う。中でも筆者が強く感じるのはメロディの強烈な記名性だ。「トーキョー・ニュー・ミクスチャー・スタイル」を標榜するだけあって、音楽性の幅は広い。が、どの曲にも一聴しただけで彼らとわかるような美学が貫かれている。特に「白日」は、それが強い印象を残す曲になっている。
「白日」はどういう点でユニークな楽曲なのか。それをいくつかのポイントにわけて解説したい。
まず一つ目は、旋律の上下の動きが激しいメロディであること。〈真っ新に生まれ変わって/人生一から始めようが/へばりついて離れない/地続きの今を歩いているんだ〉という歌詞のところが象徴的だが、オクターブの音域を超えてかなり忙しく音程が飛び回っている。どちらかと言うとテクニカルで器楽的なメロディだ。
二つ目は、いわゆるJ-POPの王道の“Aメロ・Bメロ・サビ”の曲構造を使っていないこと。と言っても海外のポップソングに目立つシンプルな“ヴァース・コーラス”の構造でもない。
曲は歌とピアノをフィーチャーした〈時には誰かを/知らず知らずのうちに〉というパートから始まる。そこから横ノリのリズムが入ってきて45秒からの〈今の僕には/何ができるの?〉というパート、1分8秒からの〈真っ新に生まれ変わって〉というパートと、ワンコーラスぶんのおよそ90秒に3つのパートがあるのがこの曲の特徴なのだが、これ、全部サビと言ってもいいくらいフックの強いメロディなのである。イントロからAメロで情景を描写して、Bメロで気持ちを盛り上げて、高揚感あるサビに突入する、という90年代のJ-POPの定番のフォーミュラとは全く違う。むしろ、どこを切っても強烈なロマンティシズムが伝わるような“濃さ”を持ったメロディを最初から畳み掛ける構造になっている。
そして三つ目、これが一番重要だと思うのだが、こういう特異なメロディセンスと特異な曲構成を持った曲を「よくわからない」ではなく「なんだかすごい」という説得力を持って感じさせる演奏力、そして井口の歌声が持つ陶酔感が大きなポイントになっている。特にファルセットで抜けるハイトーンの歌声が素晴らしい。常田のソングライティングの才能は間違いなくKing Gnuの核だが、ここにやはり彼らがロックバンドである意味と必然がある。おそらくこの曲を起点にKing Gnuがさらにブレイクしていくのは間違いないだろう。
冒頭で「時代をひっくり返す」と書いたのだけれど、King Gnuの成功が日本のロックシーン、ポップミュージックのシーンにおける価値基準をどう変えていくのかも、今のうちに予言しておこう。それは「こういう曲調がフェスで盛り上がるから」とか「こういう歌詞が共感を呼ぶから」とか「SNSでバズを生むにはどうすればいいか」みたいなマーケティング的発想が先に走ったクリエイティブではなく、むしろ、自らの美学を研ぎ澄まし、その強度を世に問うようなクリエイティブが“ポップ”の力学になっていくのではないか、ということ。すなわち戦略性よりもアート性がヘゲモニーを握る時代がやってくるような予感がする。そういう意味でも、すごく楽しみだ。
■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば」/Twitter
■リリース情報
King Gnu 配信シングル「白日」
日本テレビ系土曜ドラマ『イノセンス 冤罪弁護士』主題歌
配信中
ダウウンロード/ストリーミングはこちら。
■ツアー情報
『King Gnu One-Man Live Tour 2019 “Sympa”』
3月3日(日)東京・STUDIO COAST
開場17:00/開演18:00
3月7日(木)名古屋・DIAMOND HALL
開場19:00/開演20:00
3月9日(土)福岡・DRUM LOGOS
開場17:00/開演18:00
3月17日(日)大阪・BIGCAT
開場17:00/開演18:00
3月18日(月)大阪・BIGCAT
開場19:00/開演20:00
3月21日(木・祝)高松・MONSTER
開場17:00/開演18:00
3月22日(金)広島・HIROSHIMA CLUB QUATTRO
開場19:00/開演20:00
3月30日(土)札幌・cube garden
開場17:00/開演18:00
3月31日(日)札幌・cube garden
開場17:00/開演18:00
4月5日(金)仙台・Rensa
開場19:00/開演20:00
4月12日(金)東京・STUDIO COAST
開場17:30/開演18:30
※ALL SOLD OUT
■関連リンク
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