MYTH & ROIDが語る、「shadowgraph」に取り入れた理論 「7年周期で音楽が変わる」

MYTH & ROIDが語る、「shadowgraph」に取り入れた理論 「7年周期で音楽が変わる」

80年代『となりのトトロ』と2000年代R&Bの掛け合わせ

――歌っていくときに、歌詞で特に意識した箇所はありましたか?

KIHOW:冒頭からいきなり「自分の中にある意味が見えるか?〈Can you see the meaning inside yourself…?〉」という歌詞が出てきますよね。その言葉で説得力のある歌い方をしてしまうと、その言葉自体に「はっきりとした答え」があるように聞こえてしまうと思って。それで、自分の中で何が起こっているかわからないという感情が伝わるような声の使い方を意識していきました。

――なるほど、〈Can you see the meaning inside yourself…?〉という歌詞自体に、余計な意味が生まれてしまう、と。曲の一番最後に「私は誰?」とかすかに聴こえてゾクッとする箇所とも見事に繋がっているような気がしますね。ロールシャッハテストじゃないですが、聴いた人によって、受け取れるものが変わっていくような雰囲気があると言いますか。

Tom-H@ck:この曲は「色即是空」のように「世の中の形あるものは実は仮のもので、無である(=形は変わっていく/不変のものはない)」ということを言っている曲で、でも同時に、「空即是色」のように「でもそれが世の中の不変の要素である」ということも言っているんです。つまり、「あるものはあるわけではない」。でも、「ないものから“ある”が生まれる」ということで。感じ方も人それぞれ違うし、あるものはないし、何を言っているのかも分からない……。その雰囲気を表現するむずかしさがありました。だから、KIHOWちゃんが「誰かを想像していた。でも、その人が誰なのかは分からない」ということも含めた全部が、『ブギーポップは笑わない』のシュールさを表現しているというか。……と同時に、商業音楽や芸術作品って、人に見せてこそ初めて価値が出てくるものだと思うので、色々な人に聴いてもらいたいという思いがあって。そういう意味でも、今回は2000年代前後にR&Bで流行った、同じストリングスのフレーズをループさせてキャッチーに聴かせていくような方法を取り入れました。あの時代、R&Bがかなり流行っていましたよね。

――いわゆる、ネオソウルのムーブメントがありました。

Tom-H@ck:まさにそれです。僕の中で「7年周期で音楽が変わる」という理論があって、7年前の音楽が一番古く感じられる、と思っていて。でも、7の倍にあたる14年前の音楽は、ビンテージになって逆に新鮮に感じられる。それがちょうど2000年代の前半頃なんですよ。そしてそのさらに倍のだいたい28年前――。たとえば今だと80年代後半の雰囲気というのも、逆に新鮮に感じられると思っていて。これはたとえば、今だと星野源さんが人気を経ていることにも繋がります。「shadowgraph」を作るときもこの理論を応用していて、ストリングスのループはそこから着想したものでした。でも、ただ昔と同じようにストリングスをループさせるだけだと意味がないし、2019年にやるんだったら新しいことをしようと思って、今回はストリングスをチェロだけにしています。チェロ一本だけでキャッチーに聴かせて、メロディと対向にしている曲なら、「あまりないな」と思ったんです。


――確かに、今回の楽曲はチェロの存在感もかなり大きいですね。それがKIHOWさんの歌とお互いに存在感を出し合うような雰囲気で。

Tom-H@ck:チェロの音自体も、エンジニアさんと一緒にこだわって録りました。弦楽器や和楽器のような音ってレコーディングしてCDに収めると、音が細くなってしまうことが多いんですよ。ストリングスのスタジオミュージシャンの方でも、現場でいい演奏をしても、それがなかなか作品にはいい形で収められない、ということをよく言っていて。だから、今回は絶対そうはならないようにしようと、チェロが活きる隙間をちゃんと用意して、エンジニアさんとも話し合いながら、ソロのチェロを太い音で録音してもらいました。

KIHOW:ボーカルRECの直前にチェロの録音があったので、私が歌うときには録ったばかりのチェロの音が素敵な形で入っている状態で。正直、初めて聴いたときは、心の中で「これはやばい」と思っていました(笑)。ただ、「shadowgraph」の場合、じゃあチェロに対抗して思いきり歌えばいいかというとそうではないので、自分の出来ることをやっていこう、と。「自分の歌が食われてしまうのでは」と思うくらい、素敵な演奏でした。

――2000年頃のR&Bを参照してストリングをループさせたのは、『ブギーポップ』シリーズのライトノベルの刊行が98年にスタートし、2000年に一度『ブギーポップは笑わない Boogiepop Phantom』としてアニメ化されたこととも関係しているんですか?

Tom-H@ck:それを意識したかしていないかというと、少しは意識した部分はあったと思いますね。でも、実はそれほど意識していたものでもなくて。逆に、僕の原作に対する意識が浅かったからこそ入った要素があったんですよ。イントロの部分のマリンバみたいなシンセの音がありますよね? あれってみんな好きな音で、何かと言うと……『となりのトトロ』なんですよ。

――ああ!!

Tom-H@ck:そして『となりのトトロ』は、30年ほど前の作品で、さっき話にも出た「80年代の後半」なんですよね。今回『ブギーポップは笑わない』の原作を読んだときに、僕の知識が浅かったことによって、自分としては80年代末ぐらいの感じを受けたんです。僕が生まれたのは85年ですけど、その当時にあった『となりのトトロ』的なシンセ音を、2000年代のR&Bと掛け合わせていきました。なおかつ、そのシンセ音自体も昔YAMAHAから発売されていたFMシンセで鳴らしていて。いわゆるFM音源のソフトではなくて、実際のハードを使って、80年代後半の音を実際に入れているんです。

――なるほど。それがTom-H@ckさんの音楽の周期の話にも通じる「今新鮮な音」を表現することと、今回新たに蘇った『ブギーポップは笑わない』という作品の成り立ちの両方に繋がっている、と。

Tom-H@ck:ビンテージ感がちょうど蘇ってきた、という意味でも色んなものが繋がっていますよね。

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