KREVA、ソロデビュー15周年キックオフインタビュー ヒップホップの変化とともに進化する表現

ヒップホップが音楽としてだいぶ変わった 

ーーそうやって『908 FESTIVAL』が培ってきた武道館の文脈がある一方で、その対極にあるものとして、「完全1人武道館」から去年の「完全1人ツアー」の文脈がある。あれも大きいと思うんです。たしか、最初に一人でやったのは2007年のツアーですよね。

KREVA:そうですね。最初の武道館も2日間で、最初は派手にやって、次は一人だったという。

ーー最初はどんなアイデアだったんでしょう?

KREVA:最初のとっかかりは思い付きですね。それこそ対比で、派手な武道館と、完全に俺だけの武道館があったら面白いんじゃないかという。それがいろんな人に褒めてもらったんですよね。それこそ大ちゃん(三浦大知)ともそこがきっかけで知り合った、仲良くなったところもあるし。あれはすごく大きなライブだった。自分が好きなところのコアな部分をエンターテインメントにすることができるんですよ。いわゆる「ザッツ・エンターテインメント!」っていう感じとは違うのかもしれないけど。本来はニッチでマニアックな世界をエンターテインメントにするみたいな。

ーーあのスタイルはフォロワーがいないですよね。

KREVA:近いのはあるけどね。難しいんじゃないかな。

ーーただ、最初は「一人でやった」ということで観客も同業者も驚いたと思うんですけれど、回を重ねるごとに、どんどんその見せ方も進化していったと思うんです。それが「完全1人武道館」から去年の「完全1人ツアー」への流れだったんじゃないかと。

KREVA:そうですね。あとは、ヒップホップが音楽としてだいぶ変わったと思うんです。俺が最初に完全1人武道館をやった時のヒップホップは、もう「ブーンバップ」っていう違うジャンルの名前で呼ばれちゃってるじゃないですか。機材もだいぶ進化しているし。そこについていくとなると、よりミニマムな世界になってくる。昔のヒップホップはブロックパーティでガンガン聴く音楽だったけど、今はどんどん一人で聴く音楽になって密室感が増している気がするんですよ。もちろん今もデカいところで盛り上げたりもしているけれど、俺の印象ではどんどん密室感が増してきていると思うし、作り方もだいぶ違ってきてる。

ーー機材の進化とトレンドの変化を、今のヒップホップの最先端の変化を知らない人にも嚙み砕いて説明してもらえればと思うんですが。どう変わってきているんでしょう?

KREVA:簡単に言うと、昔は、古き良き音楽をサンプリングして、そこから作るっていうことが主流だったし、サンプラーという機材があって、ターンテーブルがあって、レコードをサンプリングして音を作るという世界だった。そこから、パソコン一台、何ならiPadでもいい世界になってきた。でも、出てくるものはヒップホップと両方呼ばれていて、今はコンピュータのほうが主流になっている。で、自分はレコードとサンプラーの良さも知ってるし、コンピュータでできることの良さもわかってるから、両方見せたいっていう感じかな。変わってきてるんだよっていうのを見せたい。最初に言ったバンドで録り直したという話と全く同じなんだけど、どっちもいいと思っているんですよ。どっちがいい、じゃなくて、そういう風に全部で捉えたい感じなんで。

ーーちなみに、前にマンブルラップはイヤモニの進化によって生まれたジャンルなんじゃないかという話をしてましたよね。

KREVA:ああ、言っていましたね。ヘッドフォンとイヤモニ。ああいうのがあれば、デカいとこでもラップができるじゃないですか。ただ、それこそ、ケンドリック・ラマーのライブなんてだいぶ鬼気迫るものがあるけど、あれもしっかりイヤモニして、かなり正確にやってる感じが出てると思うんです。あのとんでもないパフォーマンスを可能にしてるのもイヤモニの発展があると思うし。

ーーそうなんですよね。機材の発展が新しい音楽を生むというのは、これまでもずっとある話なわけで。たとえばロックンロールはエレキギターから生まれたジャンルだし、ヒップホップだってターンテーブルだった。でも、そういう新しい音楽性を生むような機材のイノベーションってもうないのかなって思ってたら、イヤモニだったんだ! っていう。

KREVA:まさかのね(笑)。やっぱり、イヤモニだったらいつもと同じ音が鳴ってるわけだから、リハなしで出番お願いします! みたいな世界でもラップの奴は強いと思うんですよね。

ーーなるほどねえ。脱線しましたけど、「完全1人ツアー」に至るまでのライブ表現の進化には、一つはそうやってヒップホップの世界が変わってきたっていうのが背景にある。

KREVA:うん、あると思う。

ーーで、もう一つは、ライブ評にも書いたんですが、よりエデュテイメントの要素が強くなってきていると思うんです。DJがどういうことをやっているのか、どんな機材を使ってどんな風にトラックメイキングしているのか、そういう手の内を明かしている。このへんは、どういう理由だったんでしょうか。

KREVA:考え出したのは一昨年ぐらいからかな。誰かに何かを教えるとか、そういうことをあまりやってこなかったなと思って。あとはヒップホップのトラックメイカーがあまり育ってないと思うし、もっと出てきたらいいなと思ってるから。俺が求めてるのって「どこから出てきたの? その才能?」みたいな人なんですよ。俺が「ビートメイカー集まれ!」って言ったって、本気の奴が「お願いします!」みたいに集まっちゃうわけで。それより「やることないからiPhoneに入ってたアプリで作ってみました」みたいなやつのほうが爆発力のあるものが生まれるんじゃないかなって。

ーーということは、興味を持った人に「やればできる」と思ってもらえるのが大事なポイントなわけですよね。

KREVA:そう、まさに。で、やってみたら全然できないっていうのも、俺がやっていることのすごさや深さをわかってもらえると思ったし。ぜひやってみてほしいなっていう気持ちが強いですね。まずは自分のライブに来てくれる人がそうなってほしいし、ゆくゆくは自分からもっといろんな形でそういうことを発信していければいいなとは思ってる。

ーーそうやって「1人ツアー」で培ってきたものも、今年の武道館に反映させたい?

KREVA:うちのバンドのメンバーが観に来てくれて話してたんですけど、「繋ぎ方がクレさんっぽかった」って言ってたんですよ。「それに合わせたら面白いと思う」って。今度は自分も機材をある程度持っていって、参加しつつやれば、もう少し面白いライブになるかもしれない。そういうところはあってもいいかなって思いましたね。

ーーいろんな話を聞いていると、15周年のアニバーサリーだからといってキャリアを総括するわけじゃなく、どんどん新しいことに挑戦する一年になりそうですね。

KREVA:確かに。改めて、この機会にいろいろやってみようかなと思ってますね。それが成功するかしないかはわからないけど。

ーーわかりました。これは、KREVAさん自身とは別の、どちらかと言うと国内外含めたシーンの状況的な話ではあるんですが、ここ最近、海外ではヒップホップという音楽が完全にメインストリームになっているし、日本においても、BAD HOPが武道館公演をやったり、どんどん大きな潮流になっている。

KREVA:ねえ。ちょっと怖いぐらい。

ーーさらにいえば、たとえば88risingが象徴するアジアの盛り上がりがあって、たとえばSKY-HIさんは「アジア人であることがこんなにアドバンテージに思える時代はないんじゃないか」と言っている。いろんな意味でヒップホップをめぐる状況が変わってる、と。

KREVA:うん。ガンガン変わってる。

ーーそういう時代において、日本でKREVAという人が15年ポップスのマーケットで戦ってきたことの強みはすごくあると思うんですが、そのあたりはどう捉えていますか?

KREVA:あのね、今の話を聞いて途中ぐらいからずっと思っていたのは、もうちょっとその恩恵を受けたい!

ーーあははははは! 

KREVA:フリースタイルブームの恩恵もあまり受けなかったし、世界的にヒップホップが流行っていることの恩恵もあまり受けられてない感じがするんですよね。それは、シンプルに自分が売れたいというのもあるけれど、あとは、ラップが完全なるポップミュージックになったことの強みがもうちょっとあっていいのになって思う。

ーーというと? 

KREVA:さっき言っていた話で、今の時代、海外ではビートメイカーの無名性がハンパないんですよ。「誰!?」っていう。5年前、10年前とかだったら、やっぱりファレル(・ウィリアムス)がやってるから売れるとか、ティンバランドがやってるから売れるとか、そういうのがあったのに。今はそうじゃない奴もガンガン出てくる。日本がそういう感じになってないのはちょっと残念なんですよね。ヒップホップなんて、なんでも乗っかれてるし、言ってることさえ面白ければ人気出るっていう世界だと思うから。たとえばインドのナショナルチャートにも、自分たちの伝統音楽をサンプリングしたラップが入ってるんですよ。タイとかでもそうなってるし。もっとそういう土壌になったほうがいいんじゃないかと思う。

ーー日本にも「野良トラックメイカー」がもっと出てきてほしい。

KREVA:野良トラックメイカーと、土足感満載のラップ。まあ、出てきてるんだけど、もっととんでもないヤツが出てこないかな、もっともっと行けるんじゃないかなっていつも思ってる。たとえば自分に急に送られてきたトラックがむちゃくちゃヤバくて、それでその時に考えてることをラップしたら、それがみんなに届くっていうことがあったりしてほしい。そういうのが、自分が受けたい恩恵の一番大きなことかな。

(取材・文=柴那典)

■リリース情報
シングルカセット
『基準 ~2019 Ver.~/ストロングスタイル ~2019 Ver.~』
発売:2019年2月27日(水)
価格:¥1,700(税抜)

『音色 ~2019 Ver.~』
2019年1月15日より配信中

■ライブ情報
『KREVA ワンマンライブ』
6月30日(日)東京 日本武道館

『ビクターロック祭り2019』
3月16日(土)千葉 幕張メッセ国際展示場 9、10、11ホール

■関連リンク
KREVA 15TH ANNIVERSARY YEAR特設サイト
オフィシャルサイト

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