あいみょん、2019年も期待大 あらゆる世代から支持される理由を3つのポイントから探る
昨年、『獣になれない私たち』に初めてドラマ主題歌として曲を書き下ろし、『第69回NHK紅白歌合戦』にも初出場。さまざまな分野で活躍し、スタイル、生き方、美しさにおいて活躍した人に与えられる「VOGUE JAPAN Women of the Year 2018」を受賞するなど、とにかく勢いにのっているあいみょん。2019年の活躍も期待される彼女の魅力を歌詞・曲・スタンスの3つのポイントから改めて探ってみたい。
歌詞
若年層に響く理由
JOYSOUNDが発表している「“あいみょん”を歌う人の傾向」というデータによると、あいみょんを好んで歌う男女の比率は、おおよそ7:3となっている。男女ともにボリュームゾーンは10~20代だ(出典元:JOYSOUND)。あいみょんの歌詞が響く理由として、まず1つ挙げられるのは、彼女自身が「2010年代に青春を過ごしている若者」として時代の空気を汲み取り、生きることや恋愛で感じた、どうしようもないモヤモヤとした気持ちを表現するのがうまいことだ。
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あなたの両手を切り落として 私の腰に巻き付ければ
あなたはもう二度と 他の女を抱けないわ
あなたの両目をくり抜いて 私のポッケに入れたなら
あなたの最後の記憶は 私であるはずよね
逃がさないよ 離さないよ 私だけのあなたになるの
今すぐ部屋においで
ねえ? どうしてそばに来てくれないの
死ね。 私を好きじゃないのならば
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序盤からホラー映画のような描写のある、約4年前にリリースしたデビューシングル曲「貴方解剖純愛歌 ~死ね~」。タイトルも歌詞も過激なことで話題となり、YouTubeでのバズやTikTokの広告で使用されたのも手伝って、ティーン層を中心に人気が出た。
〈ねえ?〉と〈死ね。〉で韻を踏んでおり、純粋に好きな気持ちと、好きすぎて自分のそばから離れてほしくないという欲求が交錯して、混乱しているような女の子の姿が描かれている。「メンヘラな女の子の曲」と言われることも多いようだが、これは性別問わず、共感できる部分が大きかったことでバズを起こしたのではないだろうか。
「どこまでも純粋に好きだからこそ、なぜだか腹が立ってくる気持ち」を同世代の彼女がオブラートに包まずストレートに歌うからこそ、恋愛で悩み傷つくことの多い10代~20代前半くらいの世代には共感を覚える部分が多く、ストレートに響いたのだと思う。
若年層以外にも響く理由
デビュー時の過激さは、最新シングル曲「今夜このまま」を聴くと影を潜めているように感じるが、実はそうではない気がしている。単純に歌詞が過激ではなくなっているだけで、注射針をさされたような、どこかチクっとくる歌詞の方向性は一貫している。
先述したデータで少し気になったのは、女性よりも男性のほうが30~50代で歌っている人が多いことだ。これは「単に流行っているから」では説明ができない結果なのではないだろうか。
彼女の歌詞のもう1つの魅力は、「切り取る情景のセンス」だと思う。どこか懐かしい情景を織り交ぜつつ、もどかしさを洒落た言葉で表現している。
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・最初のサビ
バラの花に願いこめてさ 馬鹿な夢で踊ろう
・最後のサビ
バラの花もないよ 汚れてるシャツに履きなれたジーパンで
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愛を伝えたいだとか
臭いことばっか考えて待ってても だんだんソファに沈んでいくだけ
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2ndシングル曲「愛を伝えたいだとか」では、状況を直接的に描くのではなく、愛を表す〈バラの花〉をキーワードに、最初のサビでは何かを伝えたくてどこか浮足立った様子を、最後のサビではかっこよくない等身大の自分の姿を描き、最後は共通の〈だんだんソファに沈んでいくだけ〉という描写で、やはり一歩踏み出せず悩む姿を描き、曲が終わる。悩んでいる様子を描いているのに、こじゃれたワードを使いながも、短い言葉で軽快にクロージングするので、聞いた後がどこかさわやかな感じさえある。
また、3rdシングル曲「君はロックを聴かない」では、「レコード」や「ロック」に絡めて、好きな人に振り向いてもらえたら、という淡い気持ちを持つ自分を小さく鼓舞している。レコード全盛期だった時代に青春時代を送った人にとって〈埃まみれ ドーナツ盤には~〉というフレーズは共感できるポイントではないだろうか。
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埃まみれ ドーナツ盤には あの日の夢が踊る
真面目に針を落とす 息を止めすぎたぜ さあ腰を下ろしてよ
フツフツと鳴りだす青春の音
乾いたメロディで踊ろうよ
君はロックなんか聴かないと思いながら
少しでも僕に近づいてほしくて
ロックなんか聴かないと思うけれども
僕はこんな歌であんな歌で 恋を乗り越えてきた
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また、『紅白』でも披露したた5thシングル曲「マリーゴールド」では、以下のような描写が出てくる。
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麦わらの帽子の君が 揺れたマリーゴールドに似てる
あれは空がまだ青い夏のこと 懐かしいと笑えたあの日の恋
(割愛)
目の奥にずっと映るシルエット 大好きさ
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ひと昔前のユーミンのような、どこか懐かしい世界観のこの曲は、40代以降の世代にも共感を得られやすい。そして、歌詞のような経験をしないであろう世代が聴いても、想像できるわかりやすい表現だ。NHKでいうところの朝ドラっぽさすらある。今回『紅白』で歌われたことで、彼女の歌はさらに幅広い世代に届いたことであろう。
23歳にして、このような歌詞が書ける彼女の感性のするどさには、感服させられる。また、生まれ持った性別とは別に、元来人間のもつ女々しさを表現するのがうまい。リスナーが日々生活していて「あーだめだな自分」と思う部分が浮き彫りになったとき、人の背中をずっと見ている彼女がつくる「そういうこともあるよね」「こうなっていけたらいいよね」という「なんとなく自分を肯定してくれるような曲」が、年代を問わず今の時代の人の寄り添えているからこそ、人気があるのだろう。