FORWARD ISHIYAのアメリカツアー体験記 現地のパンクシーンから学んだ伝え続けることの重要性

 そんなこともあったツアーの道中で、テキサスを一緒に周ったCRIATURASのベーシストでありメキシカンであるエディーが、筆者がライブ時に着ていたEZLN(メキシコサパティスタ人民解放軍)のTシャツとMCに反応してくれ、こんなことを言ってくれた。「お前はYA BASTA!(スペイン語で“もうたくさんだ”の意)と書かれたEZLNのTシャツを着て、アメリカに変われと言っているが、アメリカにそれは無理だ。俺はメキシカンでアメリカに住んでいるが、それは無理なことなんだ」と。しかし、それは諦めと取れる言葉ではなかった。何よりも、こんな日本から来たちっぽけなバンドの人間が言っていることや体現しているメッセージに反応してくれたことに感動し、バックヤードでエディーと二人きりのそのときに涙がこぼれた。

 そして、こういう人間がいるからこそ諦めてはいけない、何か別のやり方を提示するべきだと思い、翌日からは「違う世界を作り上げて、みんなで認め合い、繋がり合わないか」とMCで伝えるようになった。

 今回アメリカで伝えて来たメッセージが理解されたかどうかは、また次回行ったときにわかることだろう。新しいことというものは、こうした積み重ねの上に出来ていくのではないだろうか。無理をする必要などない。信じてやり続けることで、新しいこと、新しい価値観は自然と生まれていくのだと実感できるツアーでもあった。

(撮影=木野内哲也【word and sentence】)

 音楽以外にも大きな経験があった今回のツアーだが、今までの経験と今回の経験により、ひとまわりもふたまわりも大きく深くなれたような感覚がある。それはサポートしてくれたアメリカの友人たちや、ライブに来てくれた観客たちのおかげだというのは言うまでもないが、お互いを受け入れ合い助け合う精神が「常識」であるアメリカ・パンクシーンは、多くの人が思い描くものとは全く別のものだ。

(撮影=Albert Licano)

 音楽で何かを変えようなんて、馬鹿げたことだと思う人間はたくさんいるだろう。しかし、本気でやっている人間がいることを理解しても、悪い人生にはならないと思う。人生が音楽で変わったことがある人もたくさんいるはずだ。少しでもいいから認めること。受け入れること。それは人生に劇的な変化をもたらす。そんなことの手助けをできるのが音楽ではないだろうか。それは日本もアメリカも変わらない。音楽をそういった感覚で受け止めるのも「HAVE FUN」なのではないだろうか。

(メイン写真撮影=Albert Licano)

■ISHIYA
アンダーグラウンドシーンやカウンターカルチャーに精通し、バンド活動歴30年の経験を活かした執筆を寄稿。1987年よりBANDのツアーで日本国内を廻り続け、2004年以降はツアーの拠点を海外に移行し、アメリカ、オーストラリアツアーを行っている。今後は東南アジア、ヨーロッパでもツアー予定。音楽の他に映画、不動産も手がけるフリーライター。FORWARD VOCALIST ex.DEATH SIDE VOCALIST

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