小沢健二『Eclectic』は“早すぎた作品”だったーー15年を経て理解された「ビート」という技術

 だが、リリースから15年が経過した今、『Eclectic』は2018年のシーンと完全にフィットしているように感じる。“時代が作品に追いついた”というクリシェを使いたくなるが、少なくともここ日本においては“早すぎた”作品だったということだろう。ceroが本作に収録された「1つの魔法(終わりのない愛しさを与え)」をカバーしたことも、本作の再評価につながった大きな要因だ。また、ロバート・グラスパー、ケンドリック・ラマー、サンダーキャットなど、ジャンルを超越、融合、“折衷”させた新世代のアーティストたちが次々と登場したことも、『Eclectic』の音楽的構造の理解に対する、重要な補助線になっていると思う。簡単に言うと“いろんな要素が混ざっている音楽に耳が慣れた”、そして“ビートに対するリテラシーが上がった”ということだ。

 2018年の秋にApple Musicで『Eclectic』を聴いて実感するのは、小沢が構築したビートのユニークさだ。前述した通り、このアルバムのビートには、当時のネオソウルの影響が明らかに反映されている。しかし、単にブラックミュージックのテイストを取り入れただけではなく、そのストラクチャーを詳細に分析し、再構築する過程のなかで、独自としか言いようがないグルーヴを獲得しているのだ。

 前述したceroのほか、DATS、D.A.N.、Suchmos、SANABAGUN、King Gnu、など現行のブラックミュージックの影響を受けながら、ジャズ、ヒップホップ、R&Bなどを融合させた音楽を体現しているバンドが目立っている現在の音楽シーン。『Eclectic』こそが、メインストリームにおけるその嚆矢であると断言したい。20世紀の終わりにひとりの日本のミュージシャンがニューヨークで作り上げた“ビートという技術”。さまざまな知的な操作の末に生まれたビートの豊かさをぜひ、たっぷりと味わってほしい。

■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。

■配信情報
『Eclectic』
iTunes
Apple Music

■関連リンク
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