X JAPANは今もドラマを更新し続けるーー“無観客ライブ”決行した一夜を振り返る
17時からの開演時間にあわせて配信はスタートしたものの、実際にメンバーがステージに登場したのはそこから2時間近く経ってからのこと。もちろん、この緊急事態にさまざまな準備が追加されたことも大きい。画面には会場の様子が映されるのだが、当然フロアは空席でガランとしている。この絵自体が異常そのもので、ここから本当にライブが始まるのか……きっと、誰もが疑ったはずだ。
しかし、オープニングSEが流れ始めると同時に会場が暗転。メンバーが1人、また1人とステージに現れ、YOSHIKIがドラムセットの上に立つ。背面のスクリーンには両手を頭上で交差させる“Xポーズ”の観客の姿が映し出されるも、もちろんこれは前日までの様子を収めたものだろう。その直後に映る引き絵には、ガランとしたフロアが見えるのだから……。
ライブのオープニングを飾ったのは代表曲「Rusty Nail」。観客ゼロの幕張メッセにて、メンバーはどんなテンションでライブを進めていくのか……きっと多くの人がスタジオライブ的なものを想像したのではないだろうか。かくいう筆者も、落ち着いたテンションの5人がライブを淡々と進めていく、そんな絵を思い浮かべていた。しかし、そこはX JAPAN。我々の想像をはるかに超える豪速球をぶつけてくる。ステージ演出や照明、そしてメンバーのステージングやToshl(Vo)の煽り含め、普段のライブとなんら変わらない全力のライブを提供してくれたのだ。Toshlはこれまでの音楽番組やライブ生中継時のように、カメラに向かって「お茶の間〜っ!」と画面の向こうにいるファンを煽り続けるのだから、痛快ったらありゃしない。もうこの時点で、筆者含め視聴者はガハハと笑いながらテンションが上がったはずだ。
ライブのセットリストは初日、2日目と一緒。つまり、無観客ライブだからといって曲数を減らしたりすることなく、バンドは目の前に“見えない観客”がいるかのように普段どおりのステージングを繰り広げていく。もちろん、曲中に大合唱が起こることもなければ、曲間にメンバー名を叫ぶファンの声援も聞こえない。音が止まれば、そこにあるのは静寂のみ。
そんな異様な空気の中でMCが始まると、若干神妙な面持ちのYOSHIKIが「こういう結果(=開催中止)になってしまったことを、まず心からお詫びいたします。どうもすみませんでした」と頭を下げて謝罪する一幕も。しかし正直、そんなYOSHIKIやバンドを責めるファンはいないはずだ。たしかに、この日に向けて地方から幕張入りしたファンも少なくないだろうし、もしかしたらこれが初めて生で観るX JAPANのライブになるはずだった者もいるかもしれない。しかし、結果としてネットを通じてだが、こうやってライブを目にするチャンスを作ってくれた、そのために短時間で尽力したバンドを責められるはずがない。ときどき涙を浮かべながら話すYOSHIKIを目にしたら、もともとライブに行くつもりのなかった自分でさえも「いやいや、謝ることはないよ」と思ってしまったのだから。
その後もSUGIZO(Gt/Violin)のバイオリンソロや、YOSHIKIの繊細なピアノソロ&派手なドラムソロを挟みつつ、とても観客ゼロとは思えないくらい熱いライブが進行していく。「紅」でライブ本編を終えたあとも、バンドはアンコールに登場して「WEEK END」や「ENDLESS RAIN」などの代表曲を矢継ぎ早に披露。そしてラストナンバー「X」では曲中、YOSHIKIが客席に降りてCO2を噴射しまくる演出も決行される。誰もいない客席を練り歩きながらCO2を噴射する絵は確かにシュールなのだが、YOSHIKIはそんなことお構いなしに、いつもと変わらず煽りを続ける。もちろんその間、ステージ上に残されたほかのメンバーは演奏を続けながら、目の前にいる“はず”の観客への煽りを忘れない。
そうだ……彼らには見えているんだ。前日、前々日と同じ場所でパフォーマンスしてきた彼らには、そこにいるはずだった観客の姿が……。MCの際にYOSHIKIやToshlが何度も「透明のお客さん」と口にしたが、実際にはその場にいなくても彼らにとっては間違いなくそこに3万3000人のファンがいるのだと。彼らのように無観客でも普段と何も変わらないライブを最後までやり通せるバンド、果たしてどれだけいるのだろう……そう考えたら、それまでゲラゲラ笑っていたはずの自分もちょっとグッときてしまった。
2時間半以上にわたるフルスケールのライブを終えたYOSHIKIは、その場に倒れ込んだ。当然だ、一切手抜きのない、本気のライブをやり遂げたのだから。PATA(Gt)やHEATH(Ba)の表情もいつもと変わらない。SUGIZOなんてスマホを客席に向けて写真を撮っていたのだから……。