『STRAWBERRY TIMES(Berry Best of HiGE)』&『STRAWBERRY ANNIVERSARY』インタビュー

髭 須藤寿が明かす、15周年迎えたバンドの今「自分たちがカッコいいと思うことだけをやりたい」

 デビュー15周年を迎えた髭がベスト盤『STRAWBERRY TIMES(Berry Best of HiGE)』とあわせて、前作『すげーすげー』以来、約1年4カ月ぶりとなるニューアルバム『STRAWBERRY ANNIVERSARY』を完成させた。1980年代後半~1990年代前半のオルタナティブロック、ロックンロールリバイバルの影響を独自のロックミュージックへと昇華してきた髭。すでにライブで披露されている「KISS KISS My Lips」、先行配信された「きみの世界に花束を」を含む本作は、髭の音楽的なキャラクターがしっかりと刻み込まれた作品に仕上がっている。今回はバンドのフロントマン・須藤寿(Vo/Gt)にインタビュー。新作の制作プロセスを中心に、バンドの現状、15周年に対する思いなどについて聞いた。(森朋之)

「髭らしくない曲は書こうと思っても書けない」

ーーここ1~2年くらい、「髭のライブ、今、すごくいいよ」という話をよく聞くんですよね。

須藤寿(以下、須藤):あ、本当ですか?

ーーはい。僕も何度か観させてもらってますけど、バンドのコンディションの良さがしっかり感じられて。

須藤:そういう雰囲気が伝わっているとしたら嬉しいですね。何だろう? あんまり頑張らなくなったのかな、いい意味で……わからないですけど(笑)。何か意図しているわけではなくて、自然にやってるんですけどね。

ーー今回のアルバム『STRAWBERRY ANNIVERSARY』にも、今の髭の状態の良さ、好調さがはっきり表れていると思います。“15周年記念アルバム”ということですが、制作に入った時は、どんなことをイメージしていましたか?

須藤:前作の『すげーすげー』のツアーを終えたのが去年の年末だったんですけど、15周年の話をメンバーとした時に「来年(2018年)もツアーをやるべきだね」ということになって。せっかく15周年の年にツアーを回るんだから、ベスト盤に加えて新しいアルバムを携えて行きたいと思ったんですよね。今の自分たちを表現したアルバムを作って、それを持ってツアーを回るのがいちばんいいだろうなって。で、急ピッチでアルバムの制作に入ったんです。だから、何か作りたいものがあったというよりは、“15周年”が先にあったんですよね。

ーーベストアルバム(『STRAWBERRY ANNIVERSARY』と同時にリリースされる『STRAWBERRY TIMES (Berry Best of HiGE)』)だけではなく、オリジナルアルバムが必要だと。

須藤:はい。ベスト盤は(以前所属していた)ビクターのスタッフが愛情を持って「15周年のお祝いにベストを出しませんか?」と働きかけてくれたから、「ぜひ」という感じで。久々に当時のスタッフと会って食事しましたけど、ベストの制作は基本的にはお任せという感じで、ツアーの前までに新しいアルバムを作りたいという気持ちが強かったです。ただ、いつもだったら(アルバムをリリースした後)少し時間を置くんですよ。いろいろとインプットして、「こういうアルバムを作りたい」というイメージが出来てから制作に入るんですけど、今回はその時間がなくて。新しい吸収がない状態だったから、自分たちに沁みついているもので作った感じですね。コンセプトは“15周年”だけで、新しい試みをやってみようというのはなかったです。

ーーバンドがもともと持っているもの、これまでに積み重ねて来たものを注ぎ込んだ、と。曲作りは順調でした?

須藤:髭にはストック曲がないからーー自慢して言うことじゃないけどね(笑)ーーほとんど新曲なんですよ。制作は前半と後半の2タームに分かれていて、1stセッションは僕が作曲した曲が中心でした。具体的に言うと5曲目の「エビバデハピ エビバデハピ」から6曲目(「a fact of life」)、7曲目(「得意な顏」)、8曲目(「KISS KISS My Lips」)、9曲目(「ヘイトスピーチ」)ですね。ただ、好きなようにやりすぎてメチャクチャになってきたから、2ndセッションでは「今の髭として、ひとつのアルバムにまとめよう」と思って。アルバム全体の流れも意識しながら制作していました。

ーーすごく髭らしいアルバムですよね。オルタナ、ガレージロックのテイストが濃厚で、それがさらにバージョンアップされていて。15周年というタイミングでもあるし、“髭らしさ”も意識していたのでは?

須藤:どうだろう? そこまで器用ではないし、「これしかできない」という感じもあるんですけどね。髭らしくない曲は書こうと思っても書けないというか。自由に曲を作って、自分とメンバーが気に入ればレコーディングする感じだったので。メンバーにも曲を書いてもらってるんですよ、今回は。そのほうがファンも嬉しいと思うし、僕らが楽しんでいる感じが伝わればいいかなと。さっき「バンドの雰囲気がいい」みたいな話がありましたけど、たしかにそうなんですよね。いまさらギスギスしてもしょうがないし(笑)、お互いにいい距離を保ってバンドをやれているので。

ーー以前は違っていた?

須藤:20代、30代の前半は違う雰囲気だったと思います。みんな「俺が俺が」という感じだったし、ぶつかることも多かったので。今はケンカもしないし、ひとつのチームとして、ずっと仲良くやれたらいいなと。メンバーのことは大切に思っているし、尊重し合うことが大事なので。

ーー「きみの世界に花束を」のような温かい心情を歌った曲もあるのも、心境の変化の表れなのかも。

須藤:「きみの世界に花束を」の歌詞はプライベートな出来事がもとになってるんですよ。その時に感じたことを素直に書いてみようかなと思って。メンバーに聴かせたら「いいね」って言ってくれたから、じゃあ、アレンジしようと。

ーーリスナーに向けられた曲ではないんですね。

須藤:違いますね。こういう書き方、たまにやるんですよ。「君のあふれる音」とか「せってん」、「魔法の部屋」という曲もそうなんですけど、自分自身に巻き起こったことを書くっていう。数としては少ないんですけどね。日々、感情に振り回されることもあまりないし、わりとボーッとしているので(笑)。

ーー「エビバデハピ エビバデハピ」「KISS KISS My Lips」など、髭らしいナンセンスな歌詞も多いですからね。

須藤:自分自身のことと切り離して書くことのほうが多いんですよ。いちばんイヤなのは、特に意味はないのに、意味がありそうな歌詞になっちゃうこと。そういう歌詞は気恥ずかしいというか、気後れちゃうんです。何も思っていないんだったら、何も思っていない歌詞を書き上げたいので。「俺はわかってる」みたいな歌詞を見ると「は?」って思っちゃうんですよ(笑)。意味はないけど、この感じはよくわかる、カッコよく聴こえるというのが理想ですね。たとえば「アップデートの嵐だよ!」は、朝起きた時に浮かんできた言葉をメモして、それをそのまま使っていて。

ーースマホを持っていれば日々やらされますからね、アップデート。

須藤:そうですよね(笑)。やっと使い慣れたと思ったら、なぜかデザインが変わったり。「使いやすかったのに、なんでこんなことするんだよ」みたいなことって、怒りじゃないですか。それは僕だけじゃなくて、みんなとも共有できると思うんですよね。

ーーたしかに。アルバムの最後に収録されている「STRAWBERRY ANNIVERSARY」は15周年の記念ソングですよね。

須藤:それもね、偶然なんです。斉藤(祐樹/Gt)がサビのメロディを持ってきて、最初は「歌詞を乗せるのが難しそうだな」と思ったんだけど、〈STRAWBERRY ANNIVERSARY〉というフレーズを乗せてみたら上手くハマって。ライブでも盛り上がれそうだし、こういう曲が出来て良かったです。

ーーライブ映えする曲も多いですよね。

須藤:そのあたりは斉藤が考えてくれたのかも。後半のセッションは斉藤の曲が多かったし、ライブでやることを意識してアレンジしてくれたんじゃないかな。自由にやるのが基本なんですけどね、もちろん。特に何も意図していないし、いい曲ができればそれでいいので。そういうスタンスはずっと変わらないです。

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