髭 須藤寿が明かす、15周年迎えたバンドの今「自分たちがカッコいいと思うことだけをやりたい」

髭 須藤が明かす、15周年への思い

「上手く演奏するだけでは共感できない」

ーーここからは15年の軌跡について聞かせてください。ベスト盤を聴いて改めて、髭の音楽のバックグラウンドにあるのは、オルタナティブロック、ロックンロールリバイバルだと思ったのですが……。

須藤:The Strokesとか。その影響は多分にありますね。

ーーそれらのルーツミュージックを日本語のロックンロールに結びつけるというスタンスは、今も変わらない?

須藤:うん、変わらないですね。というか、変えようがない……そのことについては、今回のアルバムを作る時にちょっと考えたんですよ。今の日本の時流と髭はぜんぜん違うところにあると思うんですけど、時流に合わせるのではなくて、自分たちのコンセプトを貫くほうがいいし、筋が通ってるんじゃないかなと。2年前にPixiesが新譜(アルバム『Head Carrier』/2016年)を出したんですけど、それを聴いた時に「この時期にそれをやるの?」と思ったんです。「今は1989年なの?」みたいな感じだったんだけど、そのスタンスはすごくいいなと。自分たちも髭というバンドを15年やってきて、居直るというか、ずっとやってきたことを貫くタームに入ってきたと思うんですよね。「アレをやろう、コレをやろう」と色々なテイストをつまみ食いするのではなくて、もともと持っているもの、沁みついているものだけでやればいいんじゃないかって。今回のアルバムはまさにそうですよね。当時の音楽を聴き返すことはあんまりないけど、メンバー同士の共通言語として1990年代の音楽があるということじゃないですか? だからバンドをやっているというか、それが今のメンバーとやっている意味でもあるので。最初のライブの話と同じで、あまり無理しなくなったせいもあるでしょうね。

ーー偶然かもしれないけど、1990年代のオルタナを代表するバンドも次々と活動を再開してますからね。Pixies、The Smashing Pumpkinsとか。

須藤:そういえばこの前、マイブラ(My Bloody Valentine)を豊洲PITで観ましたよ。ほとんど『Loveless』と『Isn't Anything』の曲だったけど、カッコ良かった。音のデカさには参ったけど。

ーー2013年の来日の時は、途中で演奏が止まったりしてましたけどね。

須藤:そうみたいですね(笑)。そこも“らしい”し、そういう愛嬌ってバンドに必要だと思うんですよ。上手く演奏することも大事だけど、それだけでは共感できないというか、まずは“そいつらがいる”ということが大事じゃないかなって。ストーンズ(The Rolling Stones)なんて、その最たるものですよね。

ーーどんな音楽をやっているかよりも、まずは誰がやってるか? が重要。

須藤:うん。ライブでいちばん見逃したくないのは、ステージに出て来る時なんです。そこが見れたら、もう帰ってもいいくらい。メンバーが出て来て「あ、ホントにいた!」という瞬間が僕にとってのライブだから、開演時間に遅刻しそうな時は冷や汗かいてます(笑)。

ーー(笑)。でも、わかる気がします。

須藤:登場した瞬間って、その人が見えると思うんですよね。演出とかは関係なくて、その人自身から何かを感じるか、どんな空気を生み出すのか……。ジャンルに関わらず、そういうものを持っている人が好きなんです。それがエンターテインメントだし、お金を払う価値があると思いますね。もちろん、髭もそうでありたいし。

ーー髭も間違いなく、独自の雰囲気を持ったバンドですよね。危うさとポップさを同時に感じさせてくれるバンドは稀だと思うし、このバランスを保ちながら15年続けているのはすごいことだなと。

須藤:もちろんメンバーやスタッフのおかげなんだけど、バンドがここまで続いたのは偶然ですよね。15年の間には色々なことがあったし、解散の一歩手前だったこともあるので。ずっとモチベーションを高く持とうとがんばってきたけど、「続けることが大事なんだ」と意識していたわけではないし、ここまでやれたのはラッキーですね。あと、最近は解散しても再結成することが多いじゃないですか。解散ライブとか再結成ライブは良いインカムになるんだろうけど(笑)、僕らはあまのじゃくなので、その流れには乗りたくなくて。解散とか再結成するバンドが増えているから、僕らは解散しません! ……って、何の宣言だ、これ(笑)。

ーーこの15年は日本にフェス文化が定着した時期でもありますけど、髭はフェスのオーディエンスにも迎合してなくて。

須藤:それをやっちゃうと、らしくない気がするし、カッコいいとは思えないので。髭はだいぶ歪なバンドだけど、自分たちがカッコいいと思うことだけをやりたいし、そうじゃなかったら、今ここにはいないんじゃないかな。

ーーまさに〈お互い らしくありたい〉(「きみの世界に花束を」)ですね。

須藤:それを失ったら、バンドをやってる意味がないので。上手く立ち振る舞うことはできないけど、自分たちらしさを持ったまま、新しい音楽を作っていけたら一番いいじゃないですか。そうすればファンの人も喜んでくれるだろうし、自分たちも嬉しいので。

ーー今年3月にはデビュー15周年イヤー企画「STRAWBERRY ANNIVERSARY」第2弾として2003年発表の作品『LOVE LOVE LOVE』『Hello! My Friends』の収録曲をすべて演奏するライブを行いましたが、初期の楽曲をライブで披露することで「やってきたことに間違いはなかった」という実感もあったのでは?

須藤:どうだろう? 「このフレーズ、じつはこういうふうに弾くべきだったんだな」という技術的な発見はあるんだけど、失ったものもあるんですよ。ライブで歌っている時に感じたんだけど、「この歌詞、一体何が言いたいんだ?」と思うことがあって。もちろん当時は「今の気分を言い表せた」と思ったからレコーディングしたんだろうけど、15年経って歌ってみると「何だこれ?」っていう(笑)。まあ、また時間が経てば「やっぱりいいな」と思うかもしれないけど。今の自分もまだ“途中”なので。

ーーでは、夜の本気ダンス、CHAIといった下の世代のバンドからリスペクトされていることについては?

須藤:それは嬉しいですよ、もちろん。この前もTempalayのリョート(小原綾斗)に「ギターに貼ってるステッカー、ストラップの位置までマネしてました」と言われて。踊ってばかりの国の下津光史、Yogee New Wavesの角舘健悟、Helsinki Lambda Clubの橋本薫もそうだけど、ちょうど一回り下の世代、俺らが27、8才くらいの時に中高生だった人たちに声をかけてもらえることが多いですね。すごい才能を持った人たちばかりだし、髭がどれだけ影響を与えたかはわからないですけどね。普段も友達として食事に行ったり、飲んだりしてるので。フラットな関係として繋がって、音楽を通じて何かやれたらいいなとは思ってます。

ーーまずはアルバム『STRAWBERRY ANNIVERSARY』を引っ提げたツアーですね。

須藤:そうですね。アルバムがメインになるんですけど、他の曲に関してはオールタイム(ベスト)な感じにしたいです。みんなが知っていそうな曲もどんどんやって、盛り上がりたいですね。

(取材・文=森朋之/撮影=三橋優美子)

■ツアー情報
『STRAWBERRY ANNIVERSARY TOUR』
10月20日(土)横浜 BAYSIS
10月27日(土)神戸 VARIT.
10月28日(日)京都 磔磔
11月3日(土・祝)仙台 LIVE HOUSE enn 2nd
11月10日(土)札幌 DUCE
11月15日(木)福岡 CB
11月17日(土)梅田 CLUB QUATTRO
11月18日(日)名古屋 CLUB QUATTRO
11月23日(金・祝)東京 LIQUIDROOM

前売¥3,800(税込・整理番号付/ドリンク代別)
チケットぴあ/ローソンチケット/e+にて一般発売中
ライブ詳細

■リリース情報
『STRAWBERRY ANNIVERSARY』
9月26日(水)発売
価格:¥2,700+税
<収録曲>
01. Play Limbo
02. アップデートの嵐だよ!
03. スライムクエスト
04. きみの世界に花束を
05. エビバデハピ エビバデハピ
06. a fact of life
07. 得意な顔
08. KISS KISS My Lips
09. ヘイトスピーチ
10. STRAWBERRY ANNIVERSARY

『STRAWBERRY TIMES (Berry Best of HiGE)』
9月26日(水)発売
【Deluxe Edition】
2CD / ¥4,000+税(1,500セット限定生産)
【Standard Edition】
1CD / ¥2,315+税
<収録曲>
01. 髭は赤、ベートーヴェンは黒(2005)
02. ダーティーな世界(Put your head)︎(2005)
03. ブラッディ・マリー、気をつけろ! (2005)
04. ロックンロールと五人の囚人(2006)
05. せってん(2006)
06. ボニー&クライド(2007)︎
07. ドーナツに死す(2007)
08. 黒にそめろ(2007)
09. 溺れる猿が藁をもつかむ (2007)
10. 夢でさよなら (2008)
11. 髭よさらば(2008)
12. D.I.Y.H.i.G.E. (2009)
13. テキーラ!テキーラ!(2010)
14. サンシャイン(2010)
15. 青空(2010)

『BLACKBERRY TIMES (Berry Rarest of HiGE)』
Deluxe Edition Disc2としてパッケージ
<収録曲>
★︎未発表音源 ♠ 初CD化音源

01. 髭は赤、ベートーヴェンは黒 -LIVE in Shinjuku LOFT 2005/0130 ★︎
新宿ロフトで行われた初の本格的ワンマンにしてメジャー進出直前 のライブ音源(2005)
02. アメニウタエバ –DEMO ★
メジャーデビュー直前にスタジオ録音された未発表デモ音源( 2004)
03. 夢の話をしましょうか
インディ3WAYスプリットアルバム『カウボーイ』のみに収録( 2004)
04. FREAKS
コンピレーションアルバム『HEDWIG AND THE ANGRYINCH TRIBUTE』のみに収録(2004)
05. ブラームスの子守唄 -I Love Rock’n’ Roll Tour Final 2006/0113 ♠
配信限定ライブアルバムのみに収録(2006)
06. 白い薔薇が白い薔薇であるように –Instrumental ★
アルバム『Thank you, Beatles』収録曲のインストゥルメンタルバージョン( 2005)
07. ロックンロールと五人の囚人 -テポドン自粛ver. ★
シングル発表時の国際情勢を踏まえ、 OA用に制作されたラジオバージョン(2006)
08. 王様はロバのいうとおり -PEANUTS FOREVER Tour Final 2007/0108 ♠
配信限定ライブアルバムのみに収録(2007)
09. ハートに火をつけて -Radio Edit ★
シングルのC/W収録・The Doors原曲のOA版に準じて編集されたラジオエディット( 2006)
10. 悪たれ小僧
映画『キャプテントキオ』 コンセプトアルバムのみに収録の頭脳警察カバー曲(2007)
11. Scentless Apprentice
ニルヴァーナ トリビュートアルバム『ALL APOLOGIES』のみに収録(2006)
12. 寄生虫×ベイビー×ゴー!-Chaos in Apple Tour Final 2007/1220 ♠
配信限定ライブアルバムのみに収録(2008)
13. Electric -Radio Edit
1song album『Electric』をOA用に編集した、 限定盤収録のショートバージョン(2008)
14. ギルティーは罪な奴 -DEMO ★
メジャーデビュー直前にスタジオ録音されたデモ音源(2004)
15. 家 -LIVE in Tokyo Coast 2009/0524 ♠
ライブ映像作品として発表された楽曲音源の初CD化(2009)

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