丘みどりが語る、エンターテインメントとしての演歌の可能性「“非現実感”を楽しんでほしい」

丘みどりが語る、演歌の可能性

演歌の様式美を、歌って演じて魅せきる! 

ーー演歌は長く愛されている音楽で、昔から変わらない部分と新たに変わっている部分があると思いますが、変わらない部分はどこだと思いますか?

丘:変わらないのは、主人公の女性像です。愛する男性をいつまでも待ち続けている女性で、でも現代の女性は、そんなに長くは待たないですよね(笑)。だからそれはきっと、作詞家の先生方の理想なんじゃないかと、私は思っています。そういう女性像は、私が小さいころに聴いていた演歌も、母親や祖母が聴いていた演歌も、変わっていないところだろうと思います。

ーー演歌に明るく前向きな今風の恋愛観は似合わないですから、それは聴く側にとっても、こうであってほしいと願う定番なのかもしれないですね。

丘:そうかもしれません。もちろん演歌のなかにもいろいろあるでしょうけど……辛いことを辛いとは言わず、胸に抱え込んだまま、愛する男性をいつまでも待ち続ける女性たち。失恋したあとは、必ずと言っていいほど北に向かって、南に行く曲は聴いたことがないです(笑)。それに女性が波止場で待ち続けるのも、定番のシチュエーションです。

ーー逆に、現代的に変わっている部分はありますか?

丘:変わった部分は、逆にあまりないかもしれないです。理想とか定番というお話が出ましたけど、逆に言えば変わらないことを求められているとも思っています。そういう意味で演歌は、ある種の様式美の音楽と言えるのかもしれませんね。

ーーそういう女性像のストーリーや様式美という部分で、お好きな演歌の曲は何かありますか?

丘:石川さゆりさんの「天城越え」でしょうか。小さいころは知らない言葉ばかりでしたけど、歌詞の一行一行にどんな意味が込められているのかなって、歌詞カードを見ながら想像するのが好きでした。決して長い歌詞ではないのですが、短い歌詞の中に込められている奥深さみたいなものを、幼いながらに感じていました。今も自分の曲をいただいた時は、主人公がどういう気持ちでこの言葉を発したのかなど、歌詞の向こう側にあるストーリーを考えるようにしています。

ーーちなみに、演歌以外も聴きますか?

丘:普段は、サム・スミスとかEDMとか、洋楽もよく聴いているんです。楽屋でもテンションを上げるために聴くんですけど、すごく速いテンポのEDMをガンガンに流していて、ノリノリのままステージに上がったら、演歌のリズムに乗れなかったことがありました(笑)。それ以来、あまり大きな音量で聴くのは控えるようにしていますけど、普通にJ-POPのヒット曲も聴きますし、DA PUMPさんの「U.S.A.」も完璧に踊れますよ(笑)。

ーーそういうギャップを持っているところや、これまでの苦労も明るく話せてしまうところがありながら、歌い始めるとクッとその世界に引き込んでしまうところが、丘さんの魅力なんでしょうね。さて、今年は「鳰の湖」で、2年連続の『紅白』出場を狙っています。演歌の方は、1年に1曲を大事に育て、長い期間をかけて売っていくというタームなのが、他のポップスとは違うところです。その分丁寧に曲が作られているので、短期間で消費されることなく長く聴いてもらえるのかなと思うのですが。

丘:確かにそうだと思います。それは、歌いながらすごく感じます。曲を出してパッと一気に広がるようなことを狙うのではなく、自分の足で直接みなさんに聴いていただいて、1年かけて地道に全国を回るというスタンスです。先生が一生懸命作ってくださった楽曲を伝える側として、世界観や先生の思いをきっちり届けていかないといけないなという想いですね。

ーー消費されない音楽という部分では、ともすれば一生歌っていくことになるわけですから、曲ができる時は、どんな曲になるか楽しみですよね。

丘:できるまではドキドキします。一応、こういう曲が歌いたいですという要望をお伝えしますが、どういう曲にするかは最終的に先生が決めることですので。でも日々先生といろいろなお話をして、私というものを分かっていただいていますし、信頼関係もあった上で私に歌ってほしいと作ってくださるものなので、だからこそ生まれた曲に魂を込めることができます。

ーー丘さん個人として、今後演歌界をこうしたいというビジョンはありますか?

丘:私にできることがあるとすれば、演歌を聴いたことのない若い世代に、少しでも聴いてもらって、演歌を聴く人の人口を少しでも増やすことでしょうか。

ーー演歌の持つ情念の世界観は、若い世代には馴染みがないものですが、どうやって共感してもらおうと?

丘:共感というよりは、「こういう世界もあるんだな」と、お芝居を見ているような感覚になってもらえたら嬉しいです。非現実の世界にひたってもらうというか。「分かる、波止場で待つよね〜」ではなく、「へぇ〜波止場で待っちゃうんだ〜」みたいな、体験したことのない非現実感を、そういうひとつのエンターテインメントとして楽しんでほしいです。

ーー7月4日に中野サンプラザホールにて開催した単独リサイタル『丘みどり リサイタル2018~演魅~』では、セットの作り込みがすごく緻密で、演出も豪華で華麗、まるで舞台を観ているような感覚でした。

丘:歌を聴いてもらうのもそうですが、ステージを観てもらうことが演歌を楽しんでもらうには一番だと思います。演じるというお話をしましたが、演歌は歌舞伎にも通じていると思っていて。歌舞伎はもともと出雲阿国という女性が作ったもので、それが今は演じて魅せるものとして確立しています。今はまだ歌舞伎や日本舞踊などの作法や所作……目線の送り方や指先の動きなども勉強しているところですが、私なりの演歌を確立していく先には、きっと若い世代が観て“格好いい”と思ってもらえるものが、必ずあると思っています。過去にこういうものを目指した演歌歌手の方がいたかは分かりませんけど、演じて魅せきることで、きっと新しくて新鮮なものを感じていただけると信じています。

(取材・文=榑林史章)

■リリース情報
『鳰の湖 / 伊那のふる里』
発売:2018年7月4日(水)
【鳰の湖/伊那のふる里 4曲入り感謝盤】
<収録曲>
1.鳰の湖 (におのうみ)
作詞:たか たかし 作曲:弦 哲也 編曲:前田 俊明
2.伊那のふる里
作詞:たか たかし 作曲:弦 哲也 編曲:前田 俊明
3.霧の川
作詞:仁井谷 俊也 作曲:弦 哲也 編曲:前田 俊明
4.花ちゃん丸
作詞:松井 由利夫 作曲:四方 章人 編曲:南郷 達也

価格: 1,300円(税込)

【鳰の湖/伊那のふる里 DVD付き盤】
<収録曲>
1.鳰の湖 (におのうみ)
作詞:たか たかし 作曲:弦 哲也 編曲:前田 俊明
2.伊那のふる里
作詞:たか たかし 作曲:弦 哲也 編曲:前田 俊明
3.鳰の湖 (オリジナルカラオケ)
4.鳰の湖 (一般女声用半音下げカラオケ)
5.伊那のふる里 (オリジナルカラオケ)

DVD
1. 「鳰の湖」ミュージックビデオ
2. メイキング映像(約13分)

価格: 1,500円(税込)

オフィシャルサイト

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