真心ブラザーズが語る、時代の波を乗りこなす音楽哲学 「退屈に慣れておいたほうがいい」

真心ブラザーズが語る、音楽哲学

桜井秀俊が考える“幸せの定義”

――桜井さんの「バンブー」の歌詞も、なかなかですよ。〈そこそこ〉という言葉がだいぶ沁みる。

桜井:そこですか(笑)。

――「そこそこ」って深い言葉じゃないですか。良いともとれるし、なんか足りないともとれる。

桜井:幸福論の流れで言うと、不幸ではない状態ですね。

――そうそう。でもこれでいいのか? と言われると、何とも言えない。

桜井:たとえばエレキギターも、僕が中学生の頃は、6万円とか出さないと「よし頑張るぞ」と思えるようなギターは買えなかったんですけど、今はもう、3万円代のエピフォンの韓国製とかで、全然楽しく弾けちゃうものがあったりとか。昔のビンテージの、コンプレッサーの音をシミュレーションしたものが安く買えるとか、そういうものがたくさん手に入るようになったんだけど、そのぶん、それを超えるものは絶対にないじゃないですか。シミュレーションである以上は、みたいな悲しみは、実務の上でもあったりして。

――うーん。なるほど。

桜井:だからみんな、喰うに困ってるわけではない。そういう人もいるだろうけど、おしなべて国民の暮らしは上がっていて、おいしいものも食べられる。でもそれを幸せと言い切れるか? みたいなところですね。

――そこですよね。

桜井:こっちは、ものを作る仕事ですから。昔の良いものよりも、もっと良くなりたいんだけど、それがないっていうのは、やっぱり悲しいことですよね。そんなことを、松・竹・梅の竹で、「バンブー」と表現させてもらいました。

――なるほど。何事も中庸な「竹」。

桜井:そう。竹だけど、うな重だからいいじゃん? とも言えるんだけど。

――みなさんぜひ、このアルバムは深読み気味に聴いていただけると。ぐっとくる言葉、多いですよ。しかも、基本明るい感じなので。お説教くささもないし。

YO-KING:そこだけですね、危惧は。説教くさくならないように考えていれば、あとは本能のままにやればいいと思ったので。

桜井:そこは気を付けないとね。年とってくると、ついつい説教くさく聴こえちゃうからね。そんなつもりじゃなくても。

真心ブラザーズとレコード

――ちょっと、おまけの質問いいですか。前回に続いて、今回もアナログ盤が出ますね。普通に聴きます? 家でアナログ盤って。

桜井:うん。

――どうなんですかね、今の若い世代って。いろんなアイテムで楽しんでるのかしら。

桜井:いやー、スマホで聴いてるんじゃないですか。

――桜井さんも?

桜井:使い分けですよね。普通に外ではスマホで聴いてるし、うちで娯楽として聴く時は、ベストな音響で鳴らしてますけど。アナログレコードをかけて、ギターアンプのシミュレーターにギター入れて、ガン! ってやりながら酒を飲むのが最高。受験勉強してる、隣の部屋の娘に怒られますけど(笑)。

――あはは。うるさいお父さん。

桜井:何やってんだ! って。本当にごめんなさい(笑)。

――YO-KINGさんは。

YO-KING:僕もレコードばっかり。9割はレコード。最近は、朝いちはクラシックとか聴くようになりましたね。

桜井:マジか。すごい。

YO-KING:四重奏ぐらいの、隙間があるやつ。人の声を聴きたくない日もあるんですよ。最近好きなのは、「Waltz for Debby」。

――ビル・エヴァンス。

YO-KING:ここ2、3年で、一番聴いてるかもしれない。あれを大音量で聴くと、ゾクゾクするね。よく聴くと、ナイフとかフォークのカチャカチャいう音が入ってる。とんでもない、いい録音ですからね。ハイハットとか、すごいよ。しかも、何本マイクで録ってるのか。

桜井:あれはどういう録音なのか、本当にわからない。

YO-KING:60年代のマイルスとかね。

――そんなに、録音技術が高かったとは思えない。

桜井:相当、適当だと思いますよ。

YO-KING:選択肢がないぶん、太い音で録れるのかもしれない。何も考えてない、と言ったら言い過ぎなのかもしれないけど、その時の状況で、ベストな録り方をする時に、選択肢がなかったんじゃない?

桜井:飲食店にレコーディング機材を持ち込んでるわけだから。ウェイターに「そんなところにマイク立てるな」とか言われるだろうし(笑)。

YO-KING:時々、音楽を聴いてるというよりは、楽器の音を聴きだしちゃう時があるのね。もちろん、トータルでいい演奏してるに越したことはないわけ。でも「このハイハットは何だ!」みたいな感覚で、レコードを聴いてる時はありますよね。その上で、さらいいい演奏してるじゃんみたいな。それは当たり前で、いい演奏してるから聴いてるんだけど、逆転してる時がある。楽器の音を聴くために、再生してる時がある。

――いいですね。贅沢。

YO-KING:アナログだと、大きい音でも嫌にならない気がする。大きい音で聴くのは、だいたい午後帯ですね。午後2時から6時ぐらい。その時間に家でレコード聴いてるのって、最高でしょ?

――最高です。普通のお父さんはそんなことしないですからね(笑)。

YO-KING:その代わり、土日に働いてますから。

「年をとってもミーハーな気持ちを忘れない」(YO-KING)

――一方で、配信とか、否定してるわけではない。

YO-KING:まったく否定はしないですよ。

桜井:サブスク、最高ですよ。

YO-KING:音楽本とか読みながら、聴く時に使ってる。今年、『BRUTUS』で(山下)達郎さん特集があったでしょ。それをさ、誰かがご丁寧に、1ページごとの曲をYouTubeに上げてるの。そこに行くと、読んだ順に聴けるようになってるわけ。この人ありがとう! と思った。

桜井:へええ。あの号、まだちゃんと読んでない。

――そうか。そういう使い方もできる。

YO-KING:うん。サブスクも、確かにいいよね。

桜井:読んでるだけだと、ただの知識だけど、音楽を聴きながらだと、感じることができるからね。

YO-KING:大瀧(詠一)さん関係の本とかもね、読んでる時に、これが大活躍する。「どんな曲だっけ?」って、パッと聴けるじゃない。音楽本を読むことも、増えましたね。

桜井:仕事で必要な音源も、「送ります」「あ、大丈夫です」って、サブスクで済むものは全部聴けちゃうから。

――使い分けですね、要は。

桜井:うん。楽しむ範囲が広がって、かゆいところに手が届くわけで。それがアナログではどう聴こえるの? というものを、本当に体験したければレコードを買う。それでいいんじゃないですかね。裾野が広がるに越したことはないですよ。あと、こういう仕事してると、持ってるレコードに、関わったミュージシャンにサインとかしてもらえる。そういうアイテムって、圧倒的にアナログレコードがいいんですよ。(鈴木)茂さんの3枚目のソロアルバムに、極太のマジックインキを持って行って、目の前でサインしてもらうとか、めっちゃ興奮しましたね。これはCDじゃ物足りない。

YO-KING:俺も、この前、「東京ラッシュ」が入ってる細野(晴臣)さんのアルバムに。

――『はらいそ』。

YO-KING:そう、『はらいそ』にサイン書いてもらった。いろんなつてを頼って、目の前で書いてもらったわけじゃないけど、うれしかったな。けっこうあるよ、うち。サイン入りレコードが。やっぱり、そういうミーハーな気持ちを忘れちゃダメよね、いくら年とっても。

――それはいい言葉だなあ。

YO-KING:子供の頃、アイドルだった人とかね。(忌野)清志郎さんのサインも、三つぐらい持ってる。もらっておいて良かったなと思うよね。本人に書いてもらったんだけど、でも、アナログにはやってもらってないんですよね。なぜか、当時かぶってた野球帽のつばの裏に書いてもらった。

桜井:俺が、衣笠(祥雄)さんに書いてもらったのと同じだ(笑)。

YO-KING:でも、お宝ですよ。うれしいですよね。30年やってて、いろんな人にお会いしてたのに、全員にもらっときゃよかったなって。そういうのはかっこ悪いのかな、とか思った時期もありつつ。でも、意外に、ちゃんとした感じで、ちゃんとした人にサインを求められたら、うれしかったりもするのかなと思うんですよね。言い方、難しいけど。

――いや、だって、ファンが『INNER VOICE』のアナログ盤を持ってきてくれたら、うれしいでしょう。

YO-KING:うれしい。そう、これはね、全部直筆サインを付けるんですよ。

――あ、そうなんですか? 素晴らしい。

YO-KING:ジャケットと同じ大きさの紙にサインして、それを挿入する。それが見えてる状態で売ってると思う。

――うれしいですね。みなさんぜひお買い求めください。

桜井:俺、この間『この世界の片隅に』のDVDに、のんちゃんにサインしてもらった。めちゃくちゃうれしかった(笑)。年下なのに。

YO-KING:でも、そういうことよね。会いたい人がいなくなったら、おしまいでしょ。艶とかハリがなくなっちゃう。上も下も関係なく、ミーハー心って絶対大事だと思う。この業界でなくてもいいし。(リオネル・)メッシのサインとか、ほしいしね。長嶋(茂雄)さんとか。ディランとか。漫画家も。

――ミーハー心を忘れるな。本日の結論ということで。

YO-KING:そう思いますよ。

(取材・文=宮本英夫/写真=三橋優美子)

■リリース情報
真心ブラザーズ『INNER VOICE』

初回盤(CD+DVD)
発売中
価格:¥3,889+税
TKCA-74694

通常盤(CD)
発売中
価格:2,963+税
TKCA-74695

LPアナログ盤
¥3,889+税
9月26日 (水) 発売
品番:TKJA-10101
※全11曲収録

<収録内容>
・CD
1.メロディー
2.トーキングソング
3.木
4.ギター小僧
5.バンブー
6.手ぶら
7.ライダースオンナ
8.一瞬
9.Z
10.バンドワゴン
11.茫洋
・耳(ボーナストラック)
・ズル(ボーナストラック)

・DVD
“メロディー”PV
“紺色”“レコードのブツブツ”“人間はもう終わりだ”“スピード2”ライブ映像
アルバム全曲の弾き語りスタジオライブ映像
※「耳」「ズル」は通常盤に収録、DVDは初回盤に付属

■ライブ情報
『HOLD BACK THE TEARS』
9月30日(日)
水戸 ライトハウス
OPEN17:00 / START17:30
【問】ホットスタッフプロモーション 03-5720-9999(平日12:00〜18:00)

10月7日(日)
熊本 B.9 V2
OPEN17:00 / START17:30
【問】キョードー西日本 092-714-0159

10月23日(火)
東京 マイナビBLITZ赤坂
OPEN18:30 / START19:00
【問】ホットスタッフプロモーション 03-5720-9999(平日12:00〜18:00)

10月28日(日)
梅田 CLUB QUATTRO
OPEN17:15 / START18:00
【問】キョードーインフォメーション 0570-200-888(平日10:00〜18:00)

11月10日(土)
仙台 darwin
OPEN17:30 / START18:00
【問】ニュース・プロモーション 022-266-7555 (平日11:00〜18:00)

11月11日(日)
盛岡 CLUBCHANGE WAVE
OPEN17:00 / START17:30
【問】ニュース・プロモーション 022-266-7555 (平日11:00〜18:00)

11月17日(土)
札幌 cube garden
OPEN18:00 / START18:30
【問】マウントアライブ 011-623-5555(平日11:00〜18:00)

11月23日(祝・金)
岡山 IMAGE
OPEN17:00 / START17:30
【問】夢番地(岡山) 086-231-3531(平日11:00〜19:00)

11月24日(土)
京都 磔磔
OPEN18:00 / START18:30
【問】キョードーインフォメーション 0570-200-888(平日10:00〜18:00)

12月1日(土)
高松 MONSTER
OPEN18:00 / START18:30
【問】DUKE高松 087-822-2520(平日10:00〜18:00)

12月2日(日)
広島 SECOND CRUTCH
OPEN17:00 / START17:30
【問】夢番地(広島) 082-249-3571(平日11:00〜19:00)

12月8日(土)
名古屋 CLUB QUATTRO
OPEN17:30 / START18:00
【問】ジェイルハウス 052-936-6041(平日11:00〜19:00)

12月9日(日)
静岡 UMBER
OPEN17:00 / START17:30
【問】ジェイルハウス 052-936-6041(平日11:00〜19:00)

12月15日(土)
沖縄 桜坂セントラル
OPEN17:30 / START18:00
【問】PMエージェンシー 098-898-1331(平日10:00〜18:00)

12月21日(金)
新潟 GOLDEN PIGS RED STAGE
OPEN18:30 / START19:30
【問】キョードー北陸チケットセンター 025-245-5100

12月22日(土)
金沢 van van V4
OPEN17:30 / START18:00
【問】キョードー北陸チケットセンター 025-245-5100

<2019年>
1月19日(土)
福岡 DRUM Be-1
OPEN18:00 / START18:30
【問】キョードー西日本 092-714-0159

1月20日(日)
鹿児島 SRホール
OPEN17:00 / START17:30
【問】キョードー西日本 092-714-0159

1月26日(土)
横浜 F.A.D YOKOHAMA
OPEN17:00 / START17:30
【問】ホットスタッフプロモーション 03-5720-9999(平日12:00〜18:00)

2月2日(土)
大阪 なんばHatch
OPEN17:45 / START18:30
【問】キョードーインフォメーション 0570-200-888(平日10:00〜18:00)

2月10日(日)
東京 中野サンプラザ
OPEN17:00 / START17:30
【問】ホットスタッフプロモーション 03-5720-9999(平日12:00〜18:00)

<チケット>
スタンディング 前売¥5,500 / 当日¥500up(整理番号付/税込/1D別)
※12月5日 東京・赤坂BLITZ 2F指定 前売¥6,500 / 当日¥500up(税込/1D別) 
※2月2日 大阪・なんばHatch 全指定 前売¥6,000 / 当日¥500up(税込/1D別)
※2月10日 東京・中野サンプラザ 指定・着席指定* 前売¥6,000 / 当日¥500up(税込)
※着席指定: 2階のお座席です。公演中、立ち上がっての観覧は出来ません。必ず座ってご観覧下さい。

真心ブラザーズ公式サイト
『INNER VOICE』特設サイト

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