『すべての道はV系へ通ず。』書評

平成ポップミュージック史再考のヒントに V系シーン30年の歴史総括した対談集レビュー

 また、市川は自身の著書や執筆活動のなかでしばしばAKBグループやジャニーズを含むアイドルについても論じてきたが、その上で本書で語られるヴィジュアル系とアイドルの共通性は説得力も高い。たとえば、ももいろクローバーZの徹底的にアスリート的なライブパフォーマンスを「捨て身の美学」と評し、ステージ上で倒れ込むYOSHIKIの姿と重ね合わせるくだり(20~21頁)はさすがの話運びだ。欅坂46やBABYMETALといった女子アイドルグループとX JAPANとの因縁といった話題(334~335頁)も、ヴィジュアル系とアイドルとの奇妙な符合として興味深い。

 中堅からベテランのアイドルグループの解散が相次いだ2018年、アイドルカルチャーそのものの成熟と転換点となりそうなこのタイミングに、ヴィジュアル系という鏡を通じて、ゼロ年代から現在に至るまでのシーンを総括することも可能かもしれない。

 とはいえ、時事ネタにも歩調をあわせた対談連載ということもあって、「エンタテインメント・スキーム」の全貌にせよ、ヴィジュアル系とアイドルの相似にせよ、体系だって語られるわけではない。それゆえ、より深くそれぞれのトピックについて知ろうと思えば、著者たち各々のこれまでの著作や執筆活動を適宜参照することが必要になるだろうし、本書で言及された類書にも目を通すべきだろう。

 あるいは、ヴィジュアル系という文化、シーンの姿を克明に描き出した本書に欠けているものといえば、ヴィジュアル系のバンドによる音楽そのものに対する細かな言及だ。管見の限り、ヴィジュアル系には体系だったディスクガイドは数えるほどしかないようだ。多くのバンドはストリーミングサービスやYouTubeを通じて簡単に音源をチェックできるとはいえ、本書で語られる90年代の王道のバンドやゼロ年代以降の多様化が進んだシーンの状況を掴むガイドが欲しくなる。と言っては読者のわがままにすぎるだろうか。

 また、藤谷が言及する2次元/2.5次元カルチャーとヴィジュアル系との接点や、あるいは海外におけるヴィジュアル系の受容といったトピックは、音楽にとどまらない日本のエンタメの現状を突く考察を予感させるだけに、まとまった論考(新書とか!)を期待したくなる。

 ヴィジュアル系が積み重ねてきた30年という歴史は伊達じゃない。この一冊は、ヴィジュアル系を知る端緒となると同時に、大きな変化を迫られた平成日本のポップミュージック史を再考するヒントに満ちている。

■imdkm
ブロガー。1989年生まれ。山形の片隅で音楽について調べたり考えたりするのを趣味とする。
ブログ「ただの風邪。」

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