『ダーリン・イン・ザ・フランキス エンディング集』 vol.1&2

『ダーリン・イン・ザ・フランキス』ED曲に隠された仕掛けとは? 6曲を手がけた杉山勝彦に聞く

 現在放送中のTVアニメ、『ダリフラ』こと『ダーリン・イン・ザ・フランキス』(TOKYO-MXほか)は、TRIGGERとA-1 Picturesの2社が共同制作し、豪華製作陣を集めた作品という前評判に始まり、話数を追うごとに多くのファンを虜にし続けている2018年アニメのなかでも要注目作のひとつだ。

 そんな同作は、音楽的にも「エンディング全6曲を一人の音楽作家に任せる」という試みに挑戦している。今回リアルサウンドでは、最新話のエンディング曲として「ダーリン」が放送されたこのタイミングで、この6曲を手がけた杉山勝彦氏へのインタビュー記事を公開。『ダリフラ』ED曲オファーの経緯や各楽曲の制作秘話、トータルで6曲を手がけたからこそできた表現について、じっくりと話を聞いた。(編集部)

「アニメのエンディングだからといって自分の色を薄めないようにした」

――『ダーリン・イン・ザ・フランキス』は、1話目をリアルタイムで見ていたのですが、エンディング曲が流れた瞬間にどこかで聴いたことあるようなサウンドだと感じ、杉山さんの名前を見つけたので驚きました。杉山さんといえば乃木坂46や私立恵比寿中学などアイドルへの楽曲提供のイメージが強いですが、今回の起用の経緯は?

杉山:錦織敦史監督が、僕が今まで作ってきた乃木坂46の曲を好きでいてくださっていて、今作のエンディングを丸ごとお願いしたいとご連絡をいただいたんです。で、僕のほうからお返事する際に「どうせやるなら、歌詞も含めて全部を手がけさせていただきたいです」とお願いしました。

ーー1作品のエンディングを1人の作家がトータルで、しかも2クール6曲担当するというのは、アニメ界でも稀なことです。そこまで全部を担当したいと思ったのは、どういう理由があってのことなのでしょう。

杉山:「6曲」をまとめて作れる、というところに魅力を感じたんですよ。もちろん大変な作業量にはなるんですが、僕らは“アルバム世代”というか、素晴らしいアルバムを出しているアーティストにリスペクトを払ってきたので、そういうものを自分もいつか作りたいと思っていましたし、自分たちのグループであるTANEBIではそういうものを作れるように努力してきましたけど、音楽作家としてそんな機会をいただけることって、滅多にないじゃないですか。多くてアルバムの中の数曲ですし。近年、多くのコンペで素晴らしい曲がたくさん集まっていて、それはすごいことだと思うんですけど、裏を返せば統一感がない作品になってしまっていることもあるなと感じていて。でも、今回は一つのアニメ作品で6曲を担当できるということで、自分のやりたいものが形にできるんじゃないか、というワクワクがありました。

――もともと杉山さん自体、作編曲を担当する場合でも歌詞を書いたりするなど、トータルで書くことがある種、自分の表現として身についている方じゃないですか。そういう意味で今回は、自分の力を100%発揮できるタイミングでもあったと。

杉山:まさに。あと、どうしてもコンペで勝とうとすると、シングル表題曲級の楽曲ばかりになってしまうわけですよ。でも、音楽の表現って本来そういうものだけで成り立つものではないと思っていて。1つの作品を6曲で表現しようと思うと、シングル表題的なものではないけど、良い曲が欲しいという場合も絶対にあるし、そうじゃないと作品が締まらないじゃないですか。

――たしかに、全ての楽曲で主張が強いと疲れちゃいますね。

杉山:そうなんですよ。例えば「Beautiful World」は、恋愛をテーマにしている曲なんですけど“恋に気づいた瞬間の曲”で。『ダーリン・イン・ザ・フランキス』自体は、その恋の瞬間がピークになるような作品ではないじゃないですか。この曲のサビが華やかすぎるのは、違うと思うんですよ。

ーーたしかにそうですね。使い所も1クール目の後半という、登場人物個々のパーソナリティを深く掘り下げるタイミングで、物語自体も明るいトーンではないですもんね。一方で、1クール目前半の「トリカゴ」は、杉山さんの持つキャッチーな部分を活かしきった楽曲です。

杉山:「トリカゴ」は、どのアーティストに渡しても「シングルで出したい」と言ってもらえるような楽曲を目指して作りました。それに、あの曲で表現している葛藤感は、『ダーリン・イン・ザ・フランキス』全体に通ずるものなので、一番最初のエンディングテーマとして「トリカゴ」を作ることができたのは非常に大きいですね。

――かと思えば「真夏のセツナ」みたいな、王道アイドルポップスもあったり。楽曲は「トリカゴ」から順番に作っていったんですか?

杉山:最初に監督とお話したあと、脚本を読み込ませていただいて、そのうえで「葛藤をテーマに1曲、夏の小休止をテーマに1曲」と、大まかなオーダーがあって。なんとなく自分のなかでこういう曲になるだろうな、この曲では8分の6拍子を使おうとか、アイデアの種は色々浮かんだんですけど、仕上げていったのは放送で使われた順番ですね。

――その後、詳細なオーダーがあったと思うんですが、錦織監督からの要望はかなり細かいほうでしたか?

杉山:全体を通しては、“一つ絶対に外せない軸”として、「アニメの中の世界そのままではなく、イチゴ・ゼロツー・イクノ・ココロ・ミクがもし、現実世界に存在したら」という設定をいただきました。つまり、楽曲ではパラレルワールドを表現しなければならなかった、ということですね。

――エンディングのアニメーションを見ると、その意味がよくわかりますね。例えば「トリカゴ」では、学生服を着て、街に佇む5人の姿が描かれていました。歌詞も〈教室の窓越しに〉と、アニメには登場しないシチュエーションで始まりますし。

杉山:でも、並行世界というだけで、かならず教室だったり高校生という設定を描かなければいけない、というわけではなかったんです。でも、僕としては歌い出しでパラレルワールドだって理解させたかったので、その歌詞から始めることにしました。「トリカゴ」に関しては、最初のエンディングということもあって、歌詞のやり直しが6、7回くらいあったんです。

――それは大きなテーマの部分ですか。それとも、具体的なリテイクでしたか?

杉山:最初のリテイクは結構大幅なものだったんですけど、直した結果1回目に提出したものを治す方向にしようということになって、そこからは細かく落としどころを探していきました。後半はワード単位で「これだとちょっとシャープすぎる」「典型的すぎる」みたいなやりとりがありました。ちなみにリテイクについてはほとんど歌詞のみで、メロディの直しがあったのは「escape」だけでした。

――じゃあ、楽曲に関してはほぼそのままなんですね。パラレルワールドという設定は歌詞の上でありつつ、アニメのエンディングとして89秒で流れることも含めて、この曲はアニメソングとしての機能も持ち合わせているわけで。杉山さんが普段ポップスとして書いているものと、制作手法を変えたところはあるのでしょうか。

杉山:アニメのエンディングだからといって変えないようにはしました。オファーの経緯が経緯なので、変に自分の色を薄めてしまうのも良くないかなと思い、あくまで僕が脚本などを踏まえて打ち出したいと思った部分を大事にしながら作りました。あと、エンディングってある種、現実に戻っていく過程の橋渡しでもあるじゃないですか。アニメの世界観に浸かったところから、ソフトランディング的に現実へ戻してあげるものでもあるので、自然な形で余韻の残るものを作りたかったんです。

――特に『ダリフラ』はエンディング後の次回予告がないため、エンディング曲に大きな役割を託しているなと思っていたので、杉山さんのその言葉に納得しました。

杉山:めちゃくちゃ細かく見てますね(笑)。

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