欅坂46がデビュー2周年ライブで表現した、“ガラスを割る”ということ

欅坂46が表現した“ガラスを割る”ということ

「センター平手友梨奈の不在をどうカバーするのか?」

 武蔵野の森総合スポーツプラザで4月6日から8日の3日間に渡り開催された欅坂46のデビュー2周年記念ライブは、2周年を祝うという目的に加えて、そうした課題を抱えたイベントであった。

「大所帯グループなんだから欠員くらい簡単に埋められるのではないか」

 一人抜けても20人。そう思うのが普通だろう。しかし、このグループの場合は特殊なのである。欅坂46は昨年の8月に開催した初の全国ツアーが必ずしも全てにおいて”成功”とは言い切れなかった。その時の心境をメンバーの齋藤冬優花は公式ブログにてこう綴っている。

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神戸初日、センターのいないサイマジョを初披露
名古屋初日、平手がいない公演
この二日間が、本当に辛かったです。
自分なりに精一杯頑張ったけど、辛かった。
こう見たら、
センター平手友梨奈がいないとだめなんだ
こう思うと思います。
でも言いたいです。
そうです。
平手がいないとだめなんです。
これは名古屋2日目の本番前に
メンバーみんなで出した結論でした。
2017年9月5日の記事より抜粋
***

 昨夏の時点で、センター平手友梨奈の不在あるいは不調がグループ全体にもたらすダメージは、他のメンバーではリカバリーできないほど大きなものであった。グループの表現力/ダンススキルの多くを担っているのが彼女であり、それはちょうど1年前に代々木第一体育館で行われた1周年記念ライブでのVTRでもメンバーが口を揃えて語っていたことである。平手が不在のライブではセンターポジションを空けて演技する。見栄えとしても重要なセンターという位置に立てるのは、平手友梨奈ただ一人。それがグループの総意であったのだ。もとより、センターに立ちたいと思うメンバーが極端に少ないのがこのグループの特徴でもあった。

「センターに立ちたい」

 はっきりとこう発言していたのは、筆者の記憶ではごく最近まで今泉佑唯ただ一人だけである。しかし、皮肉にもその今泉が昨年は活動休止になってしまったのだ。その後、数々のテレビ出演で平手がうつむきながら踊る様子が何度も確認された。夏の悪夢を引きずるように不穏な空気がファンの間で広がる。年が明けると、予定していた3日間の武道館公演がすべてけやき坂46の公演へと変更された。期待された欅坂46のライブはおあずけとなる。

「平手友梨奈たった一人が欠けただけで、ライブが中止になるのか」

 こうした批判がファンからも上がった。普通、一人欠ければそれを補う者が出てくるものである。が、そうはならなかった。物語の主人公になろうとしない主人公たちが集まっているのが欅坂46というグループだったのだ。

”不在”の演出

 今回、各曲のセンターポジションには代役が立てられた。1曲目の「ガラスを割れ!」では今泉・小林の二人が、「避雷針」では渡邉理佐が、「君をもう探さない」では菅井友香がそれぞれセンターを務め上げ、新鮮なパフォーマンスで観客を魅了する。その中で、どうしても我々の脳裏によぎってしまう「もしそこに平手がいたとしたら」というもはやタブーにも似た妄想を完全に取り払ってくれたのが、誰もいない暗いステージに光だけが照らされた(本来ならばセンターが一人で立つ箇所の)「君をもう探さない」の演出だ。この”不在”の演出は、苦境を乗り切るための彼女たちの覚悟として、あるいは、現実を受け入れるための観客側の覚悟として非常に効果的に機能した。ここでのメンバーたちの鬼気迫る表情は、前後の鬱屈としたセットリストとも相まって現在このグループの置かれている状況がいかに厳しい局面であるかを物語っているようだった。

ユニット/ソロ曲での穏やかなムード

 最初のMCを終えると、陰と陽がひっくり返るようにして、それまでの流れをガラリと変えるユニット曲が次々に披露された。現場の雰囲気も穏やかなムードに一転する。歌唱力に定評のある今泉のソロ曲「再生する細胞」や、パフォーマンスが評判のユニット・五人囃子の「結局、じゃあねしか言えない」、新ユニットによる「バスルームトラベル」などで彼女たちの笑顔がスクリーンに映し出されると会場は温かい空気で包まれた。そして、ファンの前に登場するのはおよそ1年ぶりとなるグループ内デュオ・ゆいちゃんずへとバトンタッチすると「1行だけのエアメール」と「ゼンマイ仕掛けの夢」を披露。二人の華麗な生歌にオーディエンスは静かに聴き入っていた。今回、2周年記念のイベントながらも昨年と比べるとバースデーケーキなどが登場することはなく幾らか祝祭感に欠けた印象は否めなかったが、二人の間で繰り広げられたこの約1年間のさまざまな出来事を思い返すようなこの2曲が、代わりにグループの2年間を祝福しているようで微笑ましかった。

キャプテンの渾身の叫び「僕は嫌だ!」

 ライブが終盤に差し掛かり、センターポジションをリレーする演出を畳み掛けることでラストスパートをかける。「月曜日の朝、スカートを切られた」では渡邉理佐が普段見せない力強い姿を見せ、会場をどよめかせた。「エキセントリック」でセンターとなった土生瑞穂は、そのスタイルの良さを活かした美しいパフォーマンスで観客を釘付けにした。「風に吹かれても」でいまだかつてないほど活き活きと輝いていた小林由依に、我々も一緒になって体を揺らした。「サイレントマジョリティー」でセンターに立った鈴本美愉は、髪を振り乱しながら堂々と自分の実力を見せつけた。スクリーンに映し出される表情がどこか不安げだった原田葵は、「二人セゾン」のソロダンスで湧き立つ歓声を見事に自分の力に変えていた。同曲のラストで振り向きざまに優しく微笑みを浮かべた小池美波に、自然と拍手が送られていた。そして「不協和音」で渾身の叫びを放ったキャプテン菅井友香は、紛れもなくこのイベントの白眉であった。お嬢様のイメージが強い彼女が、どすの利いた声で発した「僕は嫌だ!」、そしてその時の鋭い眼光は、すべての観客の記憶に焼き付いたことだろう。代役としてセンターを務めた彼女たちは、間違いなくこの日の”主人公”であった。

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