アニソン歌手から経営者へ 佐藤ひろ美とFaylanが語る、事務所運営のこれまでとこれから

佐藤ひろ美&Faylan語る事務所の歩み

「ここで立ち上がらなきゃいつ立ち上がるんだ」(佐藤) 

 

ーー2010年には蒼井翔太さんが所属になり、事務所としても段々大きくなっていった株式会社Sですが、このたび『三陸コネクトフェスティバル』というイベントに会社ぐるみで参加することになったのには、どんないきさつがあるのでしょうか?

佐藤:私の地元の岩手県大槌町が2011年の震災で被害に遭いまして、岩手県のなかでもいちばん大きいんじゃないかというぐらいの被害があった街なんです。自分の実家も津波で流されましたし、父親も行方不明なままでまだ見つかってないんですよ。たくさんの方が亡くなったり、家を流されたりして、街自体が無くなって。私は震災当初から自分ができることは精一杯やろうと思って、復興のために募金とかいろいろやってたんです。

それでうちの事務所では以前から『S祭り』というイベントを定期的にやってるんですけど、いつかそれを地元で開催して地元の方が元気になってくれたらという夢がありまして。ただみなさん目の前の生活を再建していくことで精一杯ですから、エンタメを楽しむ余裕はなかったんです。そんなときに大槌町だけでなく近隣の釜石、宮古といった三陸の市町村の方々から有志が集まって、三陸聖地化委員会という団体を立ち上げまして、大きなイベントをやりたいということで私に相談があったんですよ。私はもう歌手活動を引退してしまったんですが、ここで立ち上がらなきゃいつ立ち上がるんだと思いまして、『三陸コネクトフェスティバル』に参加することを決めたんです。

ーー三陸聖地化委員会という運営側からのオファーがあったんですね。

佐藤:そうです。アプリやWebデザインなどを作る会社を経営されてる平舘さんという方から、以前に「声優をやってほしい」という依頼がありまして、そのときは形にならなかったんですけど、お知り合いになったんですよ。私もずっと地元の企業とお仕事できればと思ってたので、そこからSのグッズのデザインをしてもらったりしてたんですけど、その平舘さんが今回の三陸聖地化委員会の議長をされてるんです。それで地元のゲームやアニメが好きな有志たちとアニメやゲームのコンテンツを使ったイベントをやりたいというお話がありました。

ーーSには声優もアーティストも所属してますし、いろんな関わり方ができますものね。

佐藤:私も昔から地元で『S祭り』をやりたいと声に出して言ってたので、今回は地元の商店街もグルメで参加してもらって、街を上げて老若男女が楽しめるお祭りができればと思ってて。株式会社Sは声優やアーティストとしてステージの部分で盛り上げられたらということになります。

ーーFaylanさんはイベントへの参加のお話を聞いていかがでしたか?

Faylan:佐藤さんはもう家族みたいなものなので、震災からずっと大槌町に直接行って復興に何らかの形で携わらせていただきたいと思ってたんです。直接の交流はなかったにしても、佐藤さんのご家族を含め友だちとか周りの方々の手助けをしたかったし、いつかそこでライブをやるだろうと思ってたので、今回はようやくそこに行くことができてすごくうれしいです。私自身が全部を伝えることはできないかもしれないけど、少しでも何かができるのであればやりたいしやるべきだと思うし、思ってたことがやっと実現できるので、早く行ってあげたいという気持ちが強いですね。

佐藤:震災からもう7年経ちますからね。盛り土といって、街全体に2メートル以上の土を盛ってかさ上げしないと家も建てられないですし、立ち入り禁止だから人も呼べなかったんです。それが最近ようやく終わって、私の実家もそうなんですけど土地を整備して割り当てられて、新しく区画を区切ってようやく街が動き出したからイベントができるんですよね。当初は5年経てば街が戻るという話だったんですけど全然で、やっとスタートラインに立てたぐらいで。

ーーそこまでくるのに7年かかったわけですね。では今回、クラウドファンディングでイベント運営の資金を集められることになった経緯は?

佐藤:これはSが主催者ではないので、私が三陸聖地化委員会の代わりにお話させていただきますが、大槌町は津波で駅が流されてしまって、そこに行くまでの列車がないんですね。なので今回のイベントでは近隣の宮古市や釜石市の駅まで来ていただいて、そこからバスや車で大槌町に入ってもらわないといけないんです。そうすると無料シャトルバスが必要だろうということで、その増便やバスの確保、さらに駐車場の整備や警備員を配置する予算として300万円が必要ということで、今回クラウドファンディングの力を借りて予算を作るという形に至ったみたいです。

 

ーー数あるクラウドファンディングのなかでもCAMPFIREを選んだ理由は?

佐藤:これも私が選んだわけではないので代わりに説明しますと、まず三陸聖地化委員会の方が、クラウドファンディングをやられる会社の実績をいろいろ調べて、地域の活動との根強い結果を出されてるのがCAMPFIREさんだと判断して決めたみたいです。ただ、委員会のみなさんが普段はイベント運営に携わっているわけではない一般の方々なので、どこから手をつけていいのかわからないという状態になってしまったんです。何もせず時間だけが経って行き、それでこのままでは失敗すると思いまして、CAMPFIREと言えば私の戦友のbamboo(milktub)さんが顧問をしてますので、彼にどうすればいいのか相談して、bambooさんがキュレーターとして入ることが急遽決まったという経緯があるんですね。

ーーそうだったんですね。

佐藤:私も最初は主催者ではないのでクラウドファンディングは口を出さないでいたんです。それにタレントが関わることによって時にネガティブな発言につながっていく可能性もあるので、そこは会社の代表として怖いなと思っていました。だからタレント事務所を経営する人間と地元の人間としての葛藤がとてもあったのですが、クラウドファンディングが失敗し、イベント自体が失敗したときにイメージがよくないですし、総合的に考えて株式会社Sとしてクラウドファンディングも応援しようと判断したんです。

ーーそこにCAMPFIREとのホットラインがあったのは縁ですよね。

佐藤:そうなんですよ、じゃあbambooさんアイデアをお願いしますということで(笑)。そうしたらCAMPFIREの話を進めてるときに、bambooさんから「実は俺、癌なんだ」って言われてビックリしてしまって。でも体調が悪い中、手術の翌日から連絡をいただいて指示を出していただいて。もう本当に感謝ですし、頭が上がらないです。bambooさんありがとうございました。

ーー今回いろんな人の力添えがあって『三陸コネクトフェスティバル』というイベントが開催されるわけですね。イベント名にもあるように、佐藤さんとのコネクトがあったからこそ実現に向けて動いたわけですし。

佐藤:そうですね。私たちも含め三陸の人たちの応援でイベントが出来上がって。それに2019年3月に大槌駅ができることで、三陸鉄道で駅のない部分が無くなってつながるので、今回のテーマは「繋がる」だと思って名前に入れさせていただきました。なんかパキーンと思いついちゃって、委員会の人に興奮気味に話したら「いいですね」と言っていただいて(笑)。

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